嵐から学ぶ、コンサートにおける最重要曲の配置 #2

はじめに

「コンサートでメインを担うであろう『僕なんか』と『飛行機雲ができる理由』はセットリストのどこに配置すればいいか、つまりコンサートにおける最重要曲はどこに配置すればいいのか問題を、嵐のコンサートを参照して考える」シリーズ、全3回の第2回目です。

前回は、グループがブレイクを果たした2007年からデビュー10周年を迎えた2009年までの3つのコンサートを取り上げました。

今回は、”デビュー10周年以降の嵐”として「コンサートにおける新たな挑戦」が見受けられる2010年と、活動休止の話し合いが水面下で進んでいたことによって当時と現在では見方も聴こえ方も異なる2017年の2つについて書いていきます。


取り上げるコンサート,メイン,配置*,配置の推測・解説

*曲数は盤のwikiから拝借。OVERTURE、JUNCTION、INTERLUDEなどのセクションを除いた、本編の楽曲のみ曲数としてカウント

2010年夏~2011年始
『ARASHI 10-11 TOUR "Scene"〜君と僕の見ている風景〜』

『Monster』35/37曲目
◎「メインはライブ終盤」という基本の上に成り立つ「グループの挑戦」
まずはメイン候補となる曲を挙げたい。アルバム『君と僕の見ている風景』からは、『movin' on』『サーカス』『ギフト』、シングルからは『Monster』だ。そしてこのコンサートには「変わらないまま変わっていく嵐」、即ち「10周年以降の新しい嵐のコンサート」というテーマがあると私は考える。

その要素の一つは、「ラストスパートブロックの後にもう1つ大きなブロック=メインブロックが用意されている」ことだ。これは、ラストスパートで使われるような楽曲をさもラストスパートブロックかのように進めていくところがポイントとなる。セトリはこのような感じだ。

29. PIKA★★NCHI DOUBLE
30. Love so sweet
31. 言葉より大切なもの
32. Believe


- JUNCTION
33. サーカス
34. Re(mix)able-dance
35. Monster

- FAREWELL GREETINGS
36. To be free
37. 空高く

29~32までの太字がその「見せかけのラストスパートブロック」だ。『Believe』が終わるとステージにメンバー1人残った櫻井による英語での挨拶からジャンクションが展開され、メインステージの『サーカス』へ。34のダンスブレイクでセンターステージへ移動すると『Monster』が始まる。大サビで国立ライブお馴染みの花火が打ち上げられ暗転。メンバーによる最後の挨拶を挟んで、クロージングブロックの『To be free』へ、そして『空高く』で締めた。

このメインブロックを展開にするにあたっては、①「前半(MC)までで23/37曲を消化していること」、②「見せかけLSBの前にソロ曲を置いていること」がカギとなる。

①前半(MC)までで23/37曲を消化している
まず①だが、MC以降(=後半)の曲数が減ったことで、メインブロックを中心とした「真面目な曲」と「カッコいい曲」が展開しやすくなった。MC以降からクロージングまでのセトリはこんな感じだ。

- MC
24. リフレイン
25. ギフト

26. マイガール

- JUNCTION
27. Come back to me(松本潤)
28. Magical Song(相葉雅紀)
29. PIKA★★NCHI DOUBLE
30. Love so sweet
31. 言葉より大切なもの
32. Believe

- JUNCTION
33. サーカス
34. Re(mix)able-dance
35. Monster


- FAREWELL GREETINGS
36. To be free
37. 空高く

太字が「真面目な曲」と「カッコいい曲」だ。
『Monster』に限らずメインを24と25に配置した場合、その後にソロ曲を挟んでラストスパートブロックを展開し、最後に『空高く』で締める、といったやり方でもなんらおかしくはない。ただそれでは普通だ。言い換えれば「これまでと変わらない」作りになる。活動休止発表後に例え情勢が変わってもアメリカ公演を開催しようと尽力した彼らなら、このタイミングでコンサートの改革に努めるのはおかしくないし、寧ろこの"挑戦"が一貫されていることに改めて気付かされた。またこのコンサートツアーでは、所謂”原点にして頂点”である『A・RA・SHI』を一度も歌唱しないという大きな挑戦をしたこともあり、何か新しいものを見せたかったというのは間違いない。

・同じテイストの楽曲を連続で披露する時の注意(「楽しい曲」と「真面目な曲」の違い)
(アイドルの)コンサートにおいては比較的「楽しい曲」の方が、連続で披露しても構成的にも曲の"重さ"的にも成り立つことが多い(当然フルサイズなのかライブサイズなのかで変わってくるが)。またこれらの楽曲は、ブロック内の役割において細かく分類することが出来るが、聴いてて疲れる「真面目な曲」や「カッコいい曲」はそれが難しい。最長で2曲、3曲連続で披露するなら慎重に選曲したい。つまり「楽しい曲」は曲自体の重さがそれほどないので、それぞれに違う役割を持たせて連続で披露することが出来るのだ。故に、MCまでで23/37曲という半分以上の曲数を用いて「楽しい曲」を中心に展開することが出来、後半をわずか14曲で「真面目な曲」を中心に展開することが出来た。

「真面目な曲」や「カッコいい曲」は、綿密に作られたブロックを用いて連続することで、結果的に曲単体の連続に繋げることが可能だと考える。これは、1本目に書いた日向坂ドームコンセトリ考案でも用いた。

- BRIDGE VCR 1
 声の足跡
 JOYFUL LOVE
 こんなに好きになっちゃっていいの?
- BRIDGE VCR 2
 イマニミテイロ
 期待していない自分
 君のため何ができるだろう

日向坂46 東京ドームコンサート セットリスト最終案
「サードブロック」より

このように、後半に「真面目な曲」を集めて展開していくためには、前半に"楽しい"に振り切って曲数を稼ぐことで効果的になる。ちなみに同記事のセトリ前半はこのようになっている。MC(転換点)までで17/27曲を消化出来るよう構成した。

- OPENING VCR
 約束の卵
 Overture

 川は流れる
 青春の馬
 ドレミソラシド
 キュン
 ソンナコトナイヨ
 アザトカワイイ
 ホントの時間
 Right?

 ひらがなけやき(1期生)
 僕たちは付き合っている(1期生)
 永遠の白線(1期生)
 NO WAR in the future(1期生、2期生)
 ひらがなで恋したい(1期生、2期生)
 ハッピーオーラ(1期生、2期生)
 君しか勝たん
- MC 1

・本編の半分以上を”楽しい”に重きを置いて展開するための工夫
今回における「前半に"楽しい"に振り切って曲数を稼ぐ」作りは、ソロ曲の使い方が「ブロック頭に配置し、複数人続けて披露させない」作りになったことで、曲数が多くてもスムーズに進む要因となった(前半だけで4つのブロックが生まれた)。そのおかげで、スローナンバーが中心となった「緩急ブロック」を作ることも出来、ブロック単位の緩急を効かせることでMC前の楽しいブロックを活かすことも出来た。また、時間帯に合わせた選曲も消化出来ているし、野外ライブの開放感・国立ライブの楽しさを感じれる構成も欠かさない。前半に”楽しい”にかなり振り切ることで、MC後の『リフレイン』『ギフト』という笑顔を見せない楽曲も活きるのだ。

②見せかけラストスパートブロックの前にソロ曲を置いた狙い
MCの時点で23/37曲も披露していて、曲数でいえばコンサートも終盤に差し掛かっていることになる。実際に松本と相葉のソロ曲が終わって『PIKA★★NCHI DOUBLE』のイントロが流れると「あっ、もうすぐ本編終わっちゃう」と感じていた人も少なくないはずだ。この寂しさを感じる仕組みは、『PIKA★★NCHI DOUBLE』にあるのではなくその前のソロ曲2曲にあると考える。そしてこの「寂しさ」こそがポイントだ。

コンサートを観ていて、まだ歌ってない曲を考えたことはあるだろうか。その脳内リストには定番曲だけでなく新曲も連ねるだろう。このコンサートはオリジナルアルバムを引っ提げた全国ツアーなので、アルバム収録曲がどれだけ歌われているかも気になる。中でも私のようにソロ曲の披露順が気になる人もいるだろう(余談だが、当時は相葉がトップバッターを務めることが多く、大野松本が終盤のイメージが強い。私の記憶が正しければ、相葉が5人目を務めたのはこのコンサートが初めて)。

現時点でソロ曲を何人歌ったか、そして披露順がどんなものか気になって実際に5人全員が歌い終わると「あとはこの後にカッコいい曲を歌ってからラストスパートやっておしまいかな」なんて考える。しかし、ライブ終盤の定番である『PIKA★★NCHI DOUBLE』のイントロが、5人中最後に披露された相葉のソロ曲のアウトロの直後に流れてくるのだ。当時会場にいた人がまだ歌ってない曲として思い浮かべるのは『Monster』ぐらいだろう。「ということは最後に『Monster』やってカッコよく締めるってこと?」。この時ほとんどの観客には、ワクワク以上に”寂しさ”が生まれる。楽しくて夢のような時間が終わってしまう。もっと目に焼き付けておかないと。そんなことを考えている観客に、実際にメインブロックに抜擢された『サーカス』のことなんか考えないし、その曲がコンサートでどう演出されるかなんていうことも考えない。

しかし、『Believe』が終わると櫻井が英語で何か話し始める。メインステージとセンターステージを繋ぐ花道にはダンサーが準備をしている。この瞬間から、寂しさが徐々に期待に変わっていく。

それらを全て見越した構成なのだ。『リフレイン』→『ギフト』からソロ曲2曲、そしてLSB。もっと言えばそれまでの構成だって全てがフリになる。そして『PIKA★★NCHI DOUBLE』のイントロによって生まれた”寂しさ”でさえメインブロックのためのフリにしてしまう松本潤、それを見事に演じ切るメンバー5人。これが「10周年コンサート以降の嵐」である。

ちなみにもう一つ存在する「10周年コンサート以降の嵐」の要素は、先述した通り『A・RA・SHI』を歌っていないことだ。コンセプトにそぐわないと判断したであろう2013年冬ツアー『ARASHI Live Tour 2013 “LOVE”』で歌われないのはなんとなく理解出来るが、このコンサートで歌われていないのは今となっては「”新しい嵐のコンサート”としての挑戦だった」以外全く腑に落ちない。実際に何かのインタビューで「1回だけ『A・RA・SHI』を歌ってないツアーがあるんだけどすぐやめた」と松本か誰かが発言していたのを覚えている。これに倣うとするならば日向坂も『JOYFUL LOVE』を歌わないという挑戦をしてみても面白い。


2017~2018年
『ARASHI LIVE TOUR 2017-2018「untitled」』

『Song for you』26/27曲目
・いよいよ到達するデビュー20周年へと向かっていくメインとクロージング
このコンサートは個人的には一番の理想形だ。セットリスト、演出、構成、曲間、照明、特殊効果、映像など、一切無駄のないコンサートであり、嵐のコンサートの一つの到達点だと思う。そもそもアルバム『「untitled」』にメイン級の曲が並んでいる時点で"勝ち"だが、上述した要素の完成度とコンセプトがガッチリ組み合ったことで時間の進め方が格段に上手くなり、島田紳助ではないが27曲の使い方に感動した。

構成もシンプルだ。ジャンクションでブロックを区切り、ブロック毎に選出されたメインからブロックが始まり、その曲から展開しやすい曲を選出し、次のブロックへ。結果的に前半後半に3ブロックずつが形成された(後半は2ブロックだという見方も出来る)。イメージはこのような感じだ。

ブロック1:OPB
ブロック2:ユニット
ブロック3:ダンス、ファンサ
- MC
(ブロック4:ボルテージを元に戻す)
ブロック5:スロー、ミディアム、LSB
ブロック6:メイン

シンプルな構成ということは、メインも一般的にイメージされるであろうライブ終盤に配置されている。しかしこれまでと違うのは、①このアルバムとコンサートが、目前に迫った「デビュー20周年」を少なからず意識した作りになっていること②その「デビュー20周年」と翌年「2020年」という切りのいいタイミングでグループ活動が終わるかもしれないこと、この2つの要素があることだ。

①このアルバムとコンサートが、目前に迫った「デビュー20周年」を少なからず意識した作りになっていること

なぜメインをクロージングブロックに配置したのか。それは、他の楽曲の選択肢がなくなったことでメインとそれに付随するクロージングだけに集中させたかったからだろう。それだけデビュー20周年というイベントは良い意味で重たいテーマだからだ。10周年どころか、リーダー大野の涙が印象的なデビュー15周年とは格別だろう。

デビュー10周年、デビュー15周年、デビュー20周年。私は熱心に彼らを追いかけてはいなかったものの、約15年前から日常の一部だったグループの大きすぎる節目。10周年の時は「まだまだ進化していくワクワク感」、デビュー15周年の時は「感慨深い」、デビュー20周年の時は「前人未到」、それぞれ私はこのような感想を持った。特に"前人未到"的な感覚は、untitledコンサートを観た時に感じ取った「これまでのオリジナルアルバムを引っ提げたコンサートツアーとは明らかに違うもの」から派生していたと後に気づいた。それぐらい、”国民的”と称されるほどのアイドルグループ(SMAPと嵐のみだろう)がデビュー20周年を迎えることが偉大で難しいことなのだと改めて思った。ただそれと同時に、21年目からのグループ活動には全く想像がつかなかった。

偉大で難しいとされる到達点を目前にすると作品にもその影響が出る。「その"到達点"を意識しつつも自分たちは自分らしくあり続ける」、「過去の若さゆえの危なっかしさは改めつつも栄光は置いていく」、「そしてただ前だけを見据えて走り続ける」。そしてコンサートにおいては、「"どこまでも続く夢への旅"とは、未完成を追求すること、即ち挑戦をやめないことであり、その全てをあなたに届けることだ」というメッセージを残して本編を締めた。

②間もなくグループ活動が終わるかもしれないこと

無期限の活動休止を発表した直後に『「untitled」』の収録曲が注目された。それは、アルバム発売前にはすでに活動休止に関する話し合いが進められていたことから、特定の楽曲に関して発売当時とは違う聞こえ方がするというわけだ。コンサートにおいても、『Song for you』と『「未完」』から構成されるクロージングブロックが、「デビュー20周年に向かっていくもの」だけでなく「グループ活動休止へのカウントダウンの始まり」になっていたことがその時分かった。最初はメンバー間だけで話し合いが進んでいたこと、その話の発端となったリーダー大野による告白・提案が2017年6月だったことから、コンサートツアー中まではメンバーだけがスタッフとは異なる想いを抱いていたのではないのかと推測される。そうだった場合(もしくはスタッフにも共有していたとしても)、この構成がメンバーにとって意味するものは到底想像し切れない。しかし、「無期限活動休止」というあくまでも希望を与える言葉のおかげで、ハワイを出発し日本・韓国・台湾などを経由した船が、再び"夢の先の未来"に向かって動き出すことを約束されたようだった。そして、デビュー20周年という大きな区切りを迎えるにあたってグループの歴史が詰め込まれた組曲『Song for you』は、活動休止発表後にはエンディングテーマのように聴こえてくるが、もうすぐで終わってしまう寂しさだけでなく希望を与え前を向かせてくれた楽曲ではないだろうか。なぜなら"どこまでも旅は続く"のだから。


メイン活用法のまとめ

本稿で取り上げた2つの活用法をまとめました。

1.クロージングブロックの一つ前のブロック

狙い(一例):尻上がりに一日のピークを作っていくため
ポイント:クロージングブロックの構成(ラストスパートを展開してそのまま締めるのか真面目なブロックとして締めるのか)

2.クロージングブロック(≠クロージング)

狙い(一例):①それまでにメインとクロージング以外の楽曲の選択肢を無くすことで、この2曲ないし3曲だけに集中させることが出来るから(ジャンクションとの繋がりを持たせるためにメインをクロージングに置かず、メインとセットになり得る曲をクロージングに起用)、②楽曲・構成・演出への自信を観客に示すため
ポイント:クロージングが終わったらすぐに暗転させる(カットアウト締め)

次回予告

「結局この2曲はどこに配置すればいいのか」を、私が次回以降のコンサートに求める前提と合わせて述べていきます。また、特に昨年顕著だった「1つのコンサートもしくはコンサートツアーを1枚のシングルで乗り切る」という点、つまり「コンサートを開催するにあたって話題性や目的が先行している」「日向坂のコンサートにおいては”新曲”という存在にそれほどの価値はない」「1枚のシングルに収録されている曲は実質的に3曲」「コンサート終盤の定番構成」などに代表される日向坂コンサートの特徴・傾向・問題点を、「[シングル発売→コンサート開催]というマゾヒズム的なシステムの欠陥」を主題に、私の理想と併せて提案します。

次回は結構長くなると思いますがようやく本題に戻ることが出来ているので、これまでよりかはイメージしやすい内容になっていると思います。そろそろ次回のセトリを考える時期ですかね…。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?