嵐から学ぶ、コンサートにおける最重要曲の配置 #1

はじめに

日向坂46の7枚目シングル『僕なんか』が発売されました。表題曲と裏表題である『飛行機雲ができる理由』を、私はMV発表直後からコンサートのどの位置で使うかという想像をしているのですが、妥当な扱いだと重要な役割、つまりコンサートのピークを担うことになるのではないでしょうか。となると、やはり本編終盤のブロックに配置されるのが妥当で且つ一般的なイメージになるかと思います。ですが、コンサートにおいて重要な役割を持つ楽曲は果たして、一般的にイメージされるであろう「重要な曲=本編終盤」で使うことが正解なのでしょうか。またこういった無難な使い方をしてもそのコンサートにおいて価値をもたらすことが出来る楽曲なのでしょうか。

楽曲への評価に関しては、私の専門外ということだけでなく、特に今回は「小坂菜緒の復帰」と「渡邉美穂の卒業」、また「東京ドームコンサート後の日向坂46」などという様々な文脈が重なっていることも含めて解説する力量も知識もないので、この記事ではコンサートにおける最重要曲(以下、メイン)の使い方を、私のコンサート学の全てと言っても過言ではない嵐から学びたいと思います。

取り上げるコンサートですが、明確にメインが存在すると私が考えるコンサートのみ紹介します。本稿における”明確”とは「そのコンサートのハイライトとして容易く思い出すことが出来る」という意味で、「初めての国立といえば聖火台からトロッコで降りてくるあれだよね」という感じで私が思い出せるものです。そういう意味では客観視出来ていませんが、あくまで「メインの使い方を推測し学ぶ」という趣旨なのでお手柔らかに。なので上記の理由から、『アラフェス』や『BLAST』シリーズのような特別公演は選考対象外となります。また、同じような使い方をしているコンサートもあるっちゃあるので、そこは重ならないように選出しました。

また今回ですが、見事に2万字を超えてしまったので何回かに分けて投稿します。一気に読みたい方ははてなブログにて公開しましたのでそちらへどうぞ。本稿では、グループがブレイクしていった2007年から、デビュー10周年を迎えた2009年まで述べていきます(もちろん文字数の関係もあります)。


取り上げるコンサート,メイン,配置*,配置の推測・解説

*曲数は盤のwikiから拝借。OVERTURE、JUNCTION、INTERLUDEなどのセクションを除いた、本編の楽曲のみ曲数としてカウント

2007年春
『ARASHI AROUND ASIA+ in DOME』

『COOL & SOUL』5/28曲目
◎当時のグループの勢い(ブレイク前夜からブレイクまで)を表現
このコンサートは、前年の全国ツアーとアジアツアーを経てパワーアップしたグループを、初めてのドーム公演(京セラ、東京)で表現したもの。『COOL & SOUL』は2006年に発売したアルバム『ARASHIC』に収録されている。2006年はKAT-TUNがデビューした時期で、なかなかヒット曲が生まれていなかった嵐の思いがけないライバルとなった。その『COOL & SOUL』では「ya so cute 二番煎じ」という不特定の後輩へのメッセージともとれるリリックもあるが、2017年発売のアルバム『「untitled」』のリードトラックである『「未完」』で、当時(2006年~2008年と推測)の自分たちを「僕らが拓いていく時代 なんてあの頃はいきがり」と綴っている。ただ、若さ故の危なっかしさと勢いがグループの今後を占う時期に間違いなくマッチし、特に2005年に蒔いた『花より男子』(主題歌は『WISH』)という種が『COOL & SOUL』というグループの成長を経て『Love so sweet』の大ヒット(グループのブレイク)として大きな花を咲かせた。この流れは翌年の国立競技場コンサートにまで繋がっていく(そのコンサートのオープニングは『Love so sweet』で、クロージングは映画『花より男子F』の主題歌である『One Love』だった)。

つまりこのドームコンサートは、連続性のあるグループの勢いを体現している。セットリストはアジアツアーとほぼ同じであるが、1曲目の『A・RA・SHI』は、"FIRST CONCERT"と称したアジアツアーでの自己紹介的な選曲とは違う意味合い、つまり「パワーアップした嵐を堪能してくれ」という自信と誇りが伺えるし、2曲目の『サクラ咲ケ』では煽りもそれに応えるファンも圧巻で、4曲目の『Lucky Man』では3曲目の『ハダシの未来』で散ったファンの視線をセンターステージに集めることで、イントロのコール&レスポンスと相まってより一層一体感が生まれている。なのに、同曲ラストに魅せた特効と同時にステージから消える演出は、次の『COOL & SOUL』までのジャンクションへとスムーズに繋がっていて違和感を覚えない。

『COOL & SOUL』を携えてアジアツアーを成功させパワーアップした自分たちを、『Love so sweet』以降の「国民的グループ」という未来に繋げていく過程は、思いがけないライバルの出現までもが必然であったと言えよう。そして以降の快進撃は、アジアツアーでの演出(上述のリリックで中指を立てる)のような宣戦布告的にライバルを蹴落とす手法を取らない。つまり、相手を下げるのではなく自分達自身を高めたことによってライバル(それまでの自分達も含む)より上回ってることを表現することが容易になったということであり、それは自分達への紛れもない自信と誇りを手に入れたからだろう。これは、ジャニーズ事務所においてはあのSMAPに次いで開催した2008年夏の国立競技場コンサートですぐに発揮される。


2008年夏
『ARASHI AROUND ASIA 2008 in TOKYO』

『Re(mark)able』19/31曲目
◎会場、時間帯、演出、背景がマッチしたベストなタイミング
このコンサートは、①「グループ初の国立競技場公演」②「デビュー10周年を目前としたグループの大ブレイク」③「アジアツアー1ヶ所目」④「野外ライブ」という主に4つの要素が重なっている。複数の要素が重なっているという点においては日向坂46の初東京ドームコンサートと似ていて、さらにセットリストの作りも「楽しい曲・盛り上がる曲を用いてまずは会場を満喫する」という点で同じだ。

国立競技場コンサートを制作していくにあたって演出担当の松本潤は、会場や東京の中心という街の特徴を活かした演出に重きを置いた。開演から明るい間は野外ライブならではの開放感、黄昏時にはステージの一点に集まって照明を極力使わないようにする、日が落ちてからは東京の街灯り、そして『Re(mark)able』では聖火台を利用した。特にこの火を演出として際立たせるためには、日が落ちてから、つまりライブ中盤以降にこの曲を配置する必要がある。まだ空が明るいのに聖火台に火を灯しても観客の集中力はなかなか上がらない。ドームコンサートのように基本的には真っ暗な状況で演出のバリエーションを増やしつつ野外の利点を活かす。『Re(mark)able』を19/31曲目に配置した理由の一つは以上の通りだろう。

そしてもう一つは、「国立競技場=オリンピック」という点に楽曲もコンサートも注目していることがヒントになる。しかし、このコンセプトを表すには本節冒頭で述べた複数の要素を先に消化しなければならない。

まずライブ序盤では、①「グループ初の国立競技場公演」ということで「会場全体をまずは満喫する」というテーマで進んでいるように見える。セットリストは以下の通りだ。

01. Love so sweet
02. Oh Yeah!
03. きっと大丈夫
04. La tormenta 2004
05. Happiness
06. ハダシの未来
07. アオゾラペダル

01ではメインステージではなくセンターステージから登場してアリーナ席を含めた360°から”国立”を感じ取り、02~04でアリーナを周り、05~07でスタンドを一周している。

少し逸れるが、このオープニングブロックでは演出担当・松本の持つ高い技術を感じ取れる。
まず03のラスサビから櫻井と松本は04の着替えのためにステージ下に捌ける、そして04のメンバー紹介ラップソングの冒頭を担当する2人がまずは登場、その間に他の3人が着替えて順に登場していき、全員が揃ったところで大ヒット曲の『Happiness』を披露する。このような「着替えを含んだ一連をノンストップで繋げている」箇所で、楽しい曲・盛り上がる曲をただ並べて組んでいくのではなく、『La tormenta 2004』を緩急としても早替えの時間としても使用した。これらがスムーズに進んだことによってオープニング直後に作られた空気が途切れることもないし、ファンのボルテージも極端に下がらない。寧ろ、『Happiness』と『ハダシの未来』という最新曲・大ヒット曲とライブ定番曲を使ってスタンドを周ることで「メンバーが近くに来る喜び」からなるボルテージの上昇にさらなる効果が期待出来る。解説しながらあっぱれである。

これらの「楽しい曲・盛り上がる曲を用いてまずは会場を満喫する」という構成は夏の野外ライブの高揚感ともマッチする。また、黄昏時という時間帯に合わせた選曲も素晴らしいため、本節冒頭で述べた③以外の要素をライブ前半までで消化していることになる(M16の『WAVE』では会場全体で文字通りウェーブを行った)。

そしてメインの『Re(mark)able』だ。本節冒頭でも紹介した通り、このコンサートは初めての国立競技場コンサートでもあり、アジアツアー1ヶ所目でもある。つまり「これからアジアへ行ってくるぞ」という出発挨拶のような役割も担っている。加えて先述したオリンピックの要素も出てくる(2008年は北京オリンピックの年)。ただ、これら全てをひっくるめたのが『Re(mark)able』だ、とは言い切れない。どういうことかというと、この曲はMC終わり2曲目に披露されるが、MC終わり1曲目の『風の向こうへ』の紹介を北京オリンピックの話と絡めており(櫻井は同大会で自身初の五輪メインキャスターを務めた)、そこから「国立競技場=オリンピック」に関連した映像が流れ(特に1964年東京オリンピック)、『Re(mark)able』までのジャンクションでは「アジアツアー1ヶ所目、夏季オリンピックの年、デビュー10年目を迎えた年に国立競技場でコンサートが出来ること」というこれまでの要素を全て含めた流れを盛り込み、聖火台が点灯、聖火台からメンバーが登場する。

つまり、根底にある野外ライブという演出が、このコンサートとメンバーを取り巻く複数の要素とマッチし、二つと作れないコンサートになっているのだ。セットリストや演出・構成は複雑な作りになることはなくスムーズに進んでいくし、新曲の使い方も他では機能しない配置。そういう意味では、本稿の目的の一つである「『僕なんか』『飛行機雲ができる理由』のコンサートでの使い方を考える」にはそぐわないが、「メインまでの流れを1曲目から作っていき、以降もメインからの流れを引き継いでいく」という考えは大いに役立つ。

ちなみに新曲の使い方だが、前年2007年までを新曲扱いとすると以下のようになっている。

Love so sweet:オープニング
We can make it!:未披露
Happiness:M05(上述した通りの使い方)
Step and Go:M20(『Re(mark)able』→『truth』→『Step and Go』と新曲を並べたことでハイライトとして印象に残り、「魅せるブロック」のラストとして夜の国立に前2曲とは違う空気を流す)
One Love:クロージング
truth:M21(メインのカッコよさを活かした完璧な配置、この曲がここにあることでSaGも活きる)

新曲を軸にコンサートを展開していくのは基本だが、「意味のない配置」や「その新曲がもたらすコンサートへの効果が薄い配置」が1曲もない。また、新曲だけでなく表題曲などのこれまで軸になっていた楽曲の扱いで困るのが「使わなきゃいけない」と考えてしまうことだが、そこを無理やり組み込まずにキッパリ使わない。上記のリストでは『We can make it!』が当てはまるが、翌年の10周年コンサートでオープニングブロックの緩急としてとても良い役割を果たす。日向坂に関しても『ひなくり2021』辺りからこの傾向が見られるのでそれは良いことだと思う。


2009年
『ARASHI Anniversary Tour 5×10』

『5×10』43/43曲目
◎絶対的なメインがクロージングにいるからこそ作れるセットリスト
個人的には、感動的な曲をクロージングに起用するコンサートは好きではない。だがこのコンサートは別だ。というより10周年などの区切りの良いアニバーサリーコンサートなら、基本に忠実でベタな作りでも「セトリに不満を言っている場合ではないな」という感じで許せてしまう。それは先日の『3回目のひな誕祭』でもそうだった。

このコンサートの主な特徴は以下の通りだ。

  1. ライブ終盤の定番だった『感謝カンゲキ雨嵐』をオープニングに起用

  2. 1stアルバムを中心にデビュー直後の懐かしい楽曲を多く披露

  3. シングル表題曲を全曲披露 

  4. ライブ後半にはシングル表題曲のメドレーを披露

  5. ソロコーナーでシングル表題曲をソロバージョンとして披露

リーダーの大野と松本がデビュー15周年の2014年に「10周年の時は感動的な感じというより、ハッピーで楽しい感じだった」という旨の発言をしたように、このコンサートにそこまで感動的な雰囲気はないように見える。『明日の記憶』でさえメンバーの笑顔が見られる(メインスクリーンに幼少期からの写真を流す演出によるもの)ようなコンサートだったが、ようやく感動的な雰囲気が訪れたのがクロージングの『5×10』と直前のメンバー挨拶だった。

私が日向坂ドームコンサートにおいて「『約束の卵』を1曲目に歌えば究極あとはなんでもいい」と言ったのは、そのコンサートにおいてその演出が全てだと思ったからだ。実際には「定番化されたセトリの作りを特別変えることなくドームコンサートを進めることで、”ドームコンサートまでの日向坂”を表現する」という正解があるが、これもまた"全て"であると考える。その演出を1曲に集約させるかコンサート全体で表現するかの違いだがこれが両方に共通しているのは確かだと思う。5×10ツアーも、「『5×10』をクロージングで歌えば究極あとはなんでもいい」という前提があったのではないか。それがあったからこそ『感謝カンゲキ雨嵐』をオープニングに持ってくることが出来、「『A・RA・SHI』をあのスケスケ衣装で歌う」という演出でライブ後半に配置することが出来たのではないだろうか。

つまり、「『5×10』という絶対的なメインがクロージングにいるからこそ、セトリの作りも柔軟になった」ということである。落合中日の岩瀬仁紀のような存在だろうか。当時すでに嵐ファンだった私は今でもこの曲のイントロを聴くと泣きそうになる。耳から直接繋がっているかのように涙腺が”準備”するのだ。私がそう思っているということは他の人も思っているはずで、それだけの楽曲のためならそれまでヘラヘラ楽しそうに歌おうがスケスケ衣装を着ようが関係ない。ただ、セットアッパーとして重要な繋ぎを務めているのは、メドレーブロック最後の『Believe』だ。これがこのセトリのポイントである。


メイン活用法のまとめ

本稿で取り上げた3つの活用法をまとめました。

1.セカンドブロック 1曲目

狙い(一例):コンサートやグループ自体の勢いを表現するために早々からメインを投入する
ポイント:後半の選曲(メインに匹敵するレベルの楽曲があるかどうか。軸を序盤と終盤の2つ用意したい)

2.コンサート後半序盤(≒中盤)

狙い(一例):①中弛みを避けるため、②新しい空気が作りやすいため(転換点となるMCの次にメインを配置する場合)
ポイント:新曲の使い方(これまでのコンサートと差別化を図るため。オープニング、クロージングを新曲にするのがベストで、この3点を軸にしたい)

3.クロージング

狙い(一例):そのコンサートの全て(となる演出)を表現するため
ポイント:如何に定番を崩してクロージング以外に差別化出来るか(思い切った選曲と構成がベストだが、コンサートによっては敢えて定番を崩さないのもアリ)


次回予告

次回は、「コンサートにおける新たな挑戦」が見受けられた2010年『君と僕の見ている風景』コンサート、そして活動休止の話し合いが水面下で進んでいたことによって当時と現在では見方も聴こえ方も異なる2017年『「untitled」』コンサート、この2つを取り上げます。

次回までは、「コンサートにおいてメインになるであろう『僕なんか』と『飛行機雲ができる理由』の使い方を考える」という目的には全然近づかないアラシック全開の記事になっていますので、ご理解の程よろしくお願いします。繰り返しにはなりますが、先行してはてなブログにて全文公開してますので、気になる方はそちらからご覧ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?