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12月8日 自宅に閉じ込められた男。

自宅と駅の中腹地点で、ふと思う。家の鍵閉めたかしら?数十分前の記憶を辿ると私は鍵を右手に持ち鍵穴に差し込み、クルッと手首を捻っている。確かな記憶である。私は鍵を閉めた。間違いはない。仮に鍵を閉め忘れたからと行って、自宅へと引き返す訳には行かない。これ以上バイトに遅刻をする訳にはいかないのである。鍵は閉まっていた。鍵は閉まっていた。これは記憶の話ではない。私は玄関の前に立っている。やはり鍵は閉まっていたのだ。ドアノブを引くと扉が開かない。ということは私はあの時鍵をきちんと閉めていたということだ。キッチン前にいる。時計を見ることは辞めた。何故もう一度鍵を開けてしまったのだろう。これでは、もう一度、もう一度、頭から全てをやり直さなくてはならないではないか。元栓が閉まっているか、ドライヤーのコードが抜けているか、熱を帯びているドライヤーの先端がタオルと接していないか、ティファールのスイッチがoffになっているか、タバコの火は消えているか、火の消えたタバコで溢れ返っている灰皿には十分な水が入っているか、コタツの電源は切ったか、コタツの電源コードは抜いてあるか、鍵は閉まっているか、ドライヤーのコードは抜けているか、鍵はこれから閉めるのだ、キッチンが燃えていないか、指すための指が何本あっても足りない。私のスマホが鳴っている。バイト先からの電話だろう。リビングから玄関に向かう途中、キッチンから白いモヤモヤが見えた。見えた気がした。気がした時にはそれはもう過去の話で、答えは記憶の中。記憶の中のキッチンは轟々と燃えている。私の目の前にはキッチンがあるが、燃えているのかいないのか、これから燃えるのかなんなのか、鍵はいつ閉めればいいのか、訳が分からない。私は自宅に火をつける覚悟を決めた。放火魔としての自覚である。燃えるのであれば、火元の確認を怠らなかったという自分の中での言い訳が必要となる。記憶の中の煙が引いていき、キッチンが良く見えるようになった頃、私は玄関の外に立ち、鍵を閉める。鍵穴を差した時、再度私のスマホが鳴る。気が逸れる。私は今、鍵を閉めたのだろうか。もう一度、鍵を開ける。開けたということは閉まっていたのだ。私はキッチンの前に立っている。外から鍵の開く音がする。私だ。私が帰ってきたのである。私はリュックをリビングに乱雑に起き、コタツの方の中へと入っていった。コタツをつけてはいけない。私はこれからバイトに行かなくてはならない。

落合諒です。お笑いと文章を書きます。何卒よろしくお願いします。