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2017年7月7日 煙たい客 part2

田山さん。うちの店員のほとんどが彼を敬遠する。
体を動かすのがかなり困難らしく、一つの動作をするのに5分はかかる。
彼はワガママを言う。あれもこれも、何もかもやれと店員に指図する。
時に、大きな声を出すこともある。
故に彼は厄介な客とされる。

僕は彼に同情した。可哀想だと思った。彼を下に見ているのかもしれない。
そんなことは別にどうだっていい。田山さんが店に来る時は、できるだけ協力することにした。田山さんは僕を気に入ったらしく、普段はどうゆう生活をしているか、この前警察に追われたなど、いろんな話をしてくれる。病院に寄る前に、売店に僕がいるかどうか電話してくるようになった。僕には想像もしがたい労力をかけて、僕に会いに来てくれるのだ。僕も田山さんに、自分の話をたくさんした。

彼は、いつも車で来る。売店の窓から駐車場を見ると田山さんが来ていることが分かる。車の中がゴミ屋敷同然だからだ。運転席意外全てゴミだ。

七夕の日、彼は店にやってきた。僕はいつも通り、彼の弁当を温めたり、水を用意したり、醤油をお魚にかけたりした。店も暇だったので、田山さんが食べ終わるまで一緒におしゃべりをした。前より、顔が真っ白で具合が悪そうだった。本人はいつも大丈夫だと言うが、実際はそうではないような気がした。途中で看護師さんが来て、食事中の田山さんに何かしらの説明をしていた。機械的な喋りで見ていてイライラした。その看護師は「大変ねえ。」と僕にアイコンタクトをして申し訳なさそうにその場から立ち去って入った。反吐が出る。僕は田山さんのことが割と好きだ。彼はいつも笑う。
めちゃくちゃ生きている。

診察も全て済んだと言うので、店の人に声をかけ、車の発進を手伝うことにした。駐車場に向かう途中、短冊があった。見てみると、患者さんやその家族が切実すぎる願いを書いていた。スーパーに飾ってあるやつとは質感が全く違っていた。彼と短冊を書いた。勝手には見ては悪いかなと思って、見ないようにした。僕は「多くの人に僕がいることを分かってもらいたい。」みたいなことを書いた。

車を近くで見たのは初めてだったのだが、ものすごく汚かった。異臭もした。彼は車に乗り込むとシートベルトをするのに、5分はかかっていた。途中手伝おうかと悩んだのだが、彼にとってこれが当たり前なことなのであれば、手伝おうという気持ちが失礼な気がして、中々手が出なかった。
「手伝って」と言ってくれたので、シートベルトをした。
これあげると言って、さくらんぼが入ったセブンの茶色い袋を渡してくれた。「ありがとう。」と言うとニコッとして、車を出し始めた。
時速20キロで彼は帰っていくのだ。

駐車場から店に帰らず、僕はゴミ処理場に行った。
もらった、さくらんぼに虫がたかっていたからだ。
捨てた。めちゃくちゃ胸が苦しかった。
手も洗った。嫌な気持ちになる。
売店に戻る途中、田山さんの短冊を見た。
「みんなが幸せになりますように。」とあった。
こんなありきたりな言葉に僕はぶん殴られたような気持ちになった。


落合諒です。お笑いと文章を書きます。何卒よろしくお願いします。