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変革においてチームメンバーを置き去りにしないために、リーダーが気を付けるべきこと

前回の記事では、改善・イノベーションの四つ目のプロセスとなる現象の構造・背景の整理について、解決策の方向性が見えてきたときにこそ気をつけたい落とし穴についてお話ししました。

改善・イノベーションの全体像はこちらです。

改善・イノベーションの五つ目のプロセス「改善方針・改善策の直感」ならびに六つ目のプロセス「プロトタイピング」については、戦略についての記事の内容と重複しますので、ここでは割愛します。

これまで、改善・イノベーションのプロセスを述べてきましたが、ここまでの話は、内容を骨子をお伝えするために、あえてリーダー個人の視点から説明してきました。

しかし経営の現場では、ほとんどの場合、チームでこのプロセスを進めることになります。よって今回は、チームでのプロセスを考えた場合にリーダーが気をつけるべきことについてお話しします。

「ひとりの気づき」をそのまま投げ込んでもダメ

難しい課題ほど原因はメンタルモデルにあると述べてきましたが、組織にも集団のメンタルモデルがあります。組織の課題の根源にあるメンタルモデルを認知しようとする場合も、これまで述べた「観察」→「観察のフィルター調整」→「現象の構造整理」というプロセス自体は同じです。

ただし、ひとりひとりの観察のフィルターは異なりますから、同じ現象を観察しても、人によって解釈が違うのが普通です。よって、「観察」は個人で実施した上で、「観察のフィルター調整」と「現象の構造整理」はチームで行き来しながら進めていきます。

ここでよくあるのは、「観察」→「観察のフィルター調整」→「現象の構造整理」を誰かひとりが進めて、その結果をそのままチームに投げ込んでしまうことです。多くの場合はリーダーがそれをやってしまいがちです。

チームメンバーからすると、いきなり「現象の構造整理」が出てくることになります。そうすると、例えば、あるメンバーが重大だと認識している課題が枝葉のように扱われている、といった認識のギャップが起きやすくなります。

その構造整理が本質的に正しいとしても、背景となる課題認識や構造整理の過程が共有できていないと、認識の違いだけが浮き彫りになり、場が荒れてしまいやすいです。

カルチャーに関係なく「根回し」は重要

では、どうすれば様々な前提が共有できるかというと、やはり対話の機会を持ちながら、地道に進めるしかないと思います。メンバーを絞った小さいミーティングを繰り返し、じわじわと進めていきます。

言ってしまえば「根回し」なのですが、ここでは決してネガティブな意味ではありません。対話を繰り返し、様々な前提認識を共有していくためには、安心安全な場において、ゆっくりと相互理解していく形でしか進められません。

これは会社のカルチャーとは関係ありません。たとえオープンなカルチャーであっても、丁寧に時間をかける「根回し」的なコミュニケーションは必要と思います。「根回し」というとネガティブな印象があるかもしれませんが、結論を握るためのものではなく、お互いの文脈やプロセスを共有するためのものと捉えれば決してネガティブなものではないと思います。

具体的には、問題となっている現象に関する認識について、互いに共有していきます。下記の事項は、自分の判断に自覚的になるための問いとして以前挙げたものですが、互いの共有のためにも活用できます。

・問題と思う物事について、何の刺激を受けたか(発言、出来事など)
・その中でどの刺激が自分に引っかかったか
・なぜそれが引っかかったのか
・それが引っかかったときの自分は、どの立場から物事をみていたか

たとえば「管理項目が多すぎる」と思っているメンバーがいたとします。その背景を探っていくと、「会社は社員を管理したいものである」というメンタルモデルが出てくるかもしれません。

もしその認識が経営の意図と違うのであれば、たとえば「管理は成長のための前向きなものである」「自由を担保するために最低限の管理をしている」といった認識のすり合わせが可能になります。その前提認識がすり合えば、管理項目の具体的な議論も生産的に進みます。あるいは、本当の問題が別の場所にあるならば、そちらの議論に移りやすくもなります。

変革は現状否定ではなく、むしろ肯定から始まる

前提認識のすり合わせは、上記のような例を文章として並べると簡単そうに見えますが、実際にはメンタルモデルの気づきとアップデートを伴うので、非常にチャレンジングな営みです。

メンタルモデルのアップデートは、これまでの自分のモノの見方を変えることですから、ともすると自己否定に感覚を伴います。

よくあるのは「今やっていることはダメだ」と否定から入ってしまうパターンです。そうなるとメンタルモデルのアップデートを受け入れられなくなります。

先ほどの管理項目に関する例でいえば、「会社は社員を管理したいものである」というメンタルモデルを持っている人がいて、その考え方は会社の方針とは違うという場面において、その人の捉え方・考え方を否定してはいけません。

その捉え方・考え方を否定して、会社の方針を理路整然と説明したところで、会社方針の押し付けにしか聞こえないでしょう。さらには、「自分は与えられたポジションで精いっぱいやっているのに、会社はまだコントロールしようとしてくる」といった反発を招いてしまうことにもなりかねません。

そうではなく、これまでやってきたことの肯定から入ります。「最善のことをやり続けてきたからこそ、今のメンタルモデルになっている」という感覚で、まずは認めるのです。これまでを肯定できると、「今までがダメだったわけではないが、次の/別のメンタルモデルも理解してみよう」と自然に受け入れるモードができてきます。

メンタルモデルは過去の経験の蓄積で形成されます。仕事はもちろん、プライベートや幼少期の経験が関わっていることも多いです。よって、互いの過去をエスノグラフィーする感覚で、憑依・追体験するかのように理解し合えると、互いのメンタルモデルを肯定しやすくなります。

実際には、ひとりひとりと幼少期まで遡ってコミュニケーションを取ることは難しいかもしれません。少なくとも、その組織の中での役割や経験の変遷をお互い追体験する意識を持つことから始めてみましょう。そのためには、相手の文脈を聞くだけではなく、リーダーの自己開示も必要となります。さらには、メンバーが自己開示しやすい雰囲気や問いかけを持っておくことが重要です。

このような意識でコミュニケーションを取ることを考えると、いかに時間がかかるか想像がつくと思います。大勢が集まる数回の会議だけでは、決してうまくいきません。

日頃の相互理解と共創

アルーでは、日頃から社長である私とリーダークラスの社員との間に1on1を設定しています。

基本的には社員の関心事について話してもらうのですが、私の側に経営に関するアジェンダがある場合は、1on1の場で投げかけるようにしています。

この投げかけには意見を聞くという要素もあるのですが、それ以上に、課題や戦略に対する捉え方の「世界観」をすり合わせる感覚を大事にしています。

私と社員の意見が同じでも違っても、1on1の場では全く問題にしません。それよりも、その意見の背景にある立場や関心事の違い、さらにはモノの見方を探り、お互い共有していくことを目的にしています。これが「世界観」のすり合わせです。

私が思いもしなかった視点が社員から出てくることもありますし、社員が私と同じ立場で物事を見てくれることで、その後の意思決定がスムーズに進む側面もあります。(もちろん、自分のモノの見方に合わせてもらおうと意図的にコントロールするのではうまくいきません)

意見を戦わせる必要がない1on1のような場で様々な前提認識を共有していくと、その後の議論の場がとても生産的になります。

さらに、課題の構造整理のプロセスにメンバーを巻き込むことも有効です。小さいミーティングをいくつか持ち、観察事項を共有しながら課題の構造整理をチームで行うのです。

その際、自分個人として課題の整理は一旦しておくのですが、それは基本的にメンバーには見せません。自分で考えるプロセスを一度回した上で、それは一旦リセットします。そして、メンバーの観察事項に向き合い、一緒に課題を整理していきます。

そうすることで、自分のモノの見方の偏りが見えてきますし、メンバーの納得感も醸成されていきます。

前回の記事で、アルーが抱える課題について、私自身の構造整理をお見せしました。

これはあくまで自分の中の整理なので人に見せることはなかったのですが、課題意識を持ちながら1on1を実施する中で、部長クラスの社員が同じような課題整理の絵を描いてきて、非常に驚いたことがあります。

<私の課題整理>


<部長の課題整理>

もちろん、事前に示し合わせたわけでも、構造整理をしてほしいとお願いしたわけでもありません。

それでも、同じような考えに至ったのは、日頃からの課題意識や観察事項の共有がうまくいっている成果だと思っています。

改善・イノベーションが必要な場面では、日頃の相互理解と共創の経験がモノを言います。物事を捉える視点や認識を共有できるレベルで、深い相互理解をコツコツと積み上げていく必要があります。

今回の記事では、改善・イノベーションのプロセスを周囲を巻き込んで進めていくために、リーダーが気をつけるべきことについてお話ししました。今回で、改善・イノベーションについての記事は結びとなります。

本日の問いとなります。(よろしければ、コメントにご意見ください)

・あなたが経験あるいは見聞きした事例で、リーダーが一人で改善やイノベーションを進めようとしたために、周囲の人がついていくことができず失敗してしまったことがあるとすれば、それはどのような事例でしたか?

・あなたが経験あるいは見聞きした事例で、改善やイノベーションがうまく進んだことがあるとすれば、それはどのような事例でしたか?

・上記の改善やイノベーションがうまく進んだ事例のおいて、リーダーとメンバー、あるいはメンバー同士の「世界観」のすり合わせはどのように行われていましたか?

What leaders need to be aware of to avoid leaving team members behind in a transformation

In my previous article, I discussed the fourth process of improvement and innovation, organizing the structure and background of a phenomenon, and discussed some of the pitfalls to watch out for especially when the direction of a solution has been identified.

Here is the whole picture of improvement and innovation.

The fifth process of improvement and innovation, "Setting quests and intuition for improvement," and the sixth process, "prototyping," are duplicated in the article on strategy, so they are omitted here.

So far, I have described the process of improvement and innovation, but I have dared to explain it from the perspective of individual leaders in order to give you the gist of the content.

In management, however, most of the time this process is a team effort. Therefore, in this article, I will discuss what leaders should be aware of when considering a team-based process.

You can't just throw in "your person's insights"

I have mentioned that the more difficult the issue, the more likely the cause is a mental model, but organizations also have group mental models. When trying to recognize the mental model at the root of an organization's challenges, the process itself is the same, as described so far: "observation," "filter adjustment of observation," and " organizing the structure of the phenomenon."

However, since each person's observation filter is different, it is normal for the same phenomenon to be interpreted differently by each person. Therefore, "observation" is conducted by each individual, while "adjustment of observation filters" and " organizing the structure of the phenomenon" are carried out by the team, going back and forth.

What often happens here is that one person goes through the process of "observation," "adjusting the filters of observation," and "organizing the structure of the phenomenon," and then throws the results directly into the team. In many cases, the leader tends to do that.

From the team member's perspective, the " organizing the structure of the phenomenon" will come out of nowhere. This can easily lead to gaps in perception, for example, when an issue that one member perceives as critical is treated like a branch and leaf.

Even if the organizing structure is essentially correct, if the background recognition of issues and the process of organizing the structure are not shared, only differences in recognition will be highlighted, and the situation is likely to become stormy.

Regardless of culture, "laying the groundwork" is important

The only way to share various premises and perceptions, then, is to proceed steadily while having opportunities for dialogue. We should hold a series of small meetings with a limited number of members and proceed slowly and steadily.

It is "laying the groundwork," as we say, but we do not mean it in a negative way here. In order to repeat the dialogue and share various premises and perceptions, we can only proceed in the form of slow mutual understanding in a safe and secure place.

This has nothing to do with the culture of the company. Even if the culture is open, I believe that careful and time-consuming " groundwork"-style communication is necessary. The word "nemawashi" may sound negative, but it is not a negative thing if we see it as a way to share the context and process with each other, rather than as a way to reach a conclusion.

Specifically, we will share with each other our perceptions about the phenomenon in question. The following items were previously listed as questions to help you become more aware of your own judgments, but can also be used to share with each other.

・What was the stimulus (statement, event, etc.) that made you think about the problem?
・Which of these stimuli stuck with you?
・Why did it catch your attention?
・From what perspective did you see things when it stuck with you?

For example, suppose a member of the team thinks that there are too many management items. If we explore the background, we may find a mental model that the company wants to manage its employees.

If that perception differs from management's intent, it is possible to reconcile the perception that, for example, "management is positive for growth," or "we are doing the minimum amount of management to ensure freedom." Once those premise perceptions are reconciled, specific discussions of management items can proceed productively. Alternatively, if the real problem lies elsewhere, it will be easier to move on to that discussion.

Change and innovation does not begin with denial of the status quo, but rather with affirmation

Although the above examples may seem simple, it is actually a very challenging activity because it involves awareness and updating of mental models.

Since updating mental models involves changing one's conventional way of looking at things, it is often accompanied by a sense of self-denial.

A common pattern is to start from a position of denial, saying, "What I am doing now is no good." If this is the case, the mental model update cannot be accepted.

In the previous example regarding management items, in a situation where someone has the mental model that "the company wants to manage its employees" and that way of thinking is different from the company policy, we should not deny the person's way of perceiving and thinking.

If you deny that way of perceiving and thinking and explain the company's policy in a logical manner, it will sound like an imposition of the company's policy. Furthermore, it may lead to a backlash, such as "I am doing the best I can in the position I have been given, but the company is still trying to control me."

Instead, we start with an affirmation of what we have done. We first acknowledge it with the sense that "we have continued to do what we do best, and that is why we are in the mental model we are in now." If we can affirm what we have done up to now, we will naturally be in the mode of accepting, that is, "It does not mean that what we have done up to now was not good, but let us try to understand the next/another mental model."

Mental models are formed through the accumulation of past experiences. Not only work, but also personal and childhood experiences are often involved. Therefore, if we can understand each other as if we were possessing and reliving each other's past with a sense of ethnography, it will be easier to accept and affirm each other's mental models.

In fact, it may be difficult to communicate with each person going back to their childhood. At the very least, start with a sense of reliving each other's roles and experiences within that organization. This requires not only listening to the context of the other person, but also self-disclosure by the leader. Furthermore, it is important to have an atmosphere in which members feel comfortable self-disclosing and asking questions.

You can imagine how time-consuming it is to think about communicating with this kind of awareness. A few meetings with a large group of people will never work.

Mutual understanding and co-creation on a daily basis

At Alue, we routinely set up 1on1s between myself as president and leadership level colleagues.

Basically, I ask them to talk about issues of interest to them, but if I have a management agenda on my side, I try to pitch it to them at the 1-on-1s.

There is an element of listening to opinions in this pitching, but more importantly, I value the sense of matching " world views" of how we perceive issues and strategies.

It does not matter at all in a 1-on-1 meeting whether my colleagues and I have the same or different opinions. Rather, the purpose is to explore the differences in positions and interests behind those opinions, as well as the way we see things, and to share them with each other. This is how we share our " world views" with each other.

Sometimes colleagues come up with perspectives that I had not thought of, and in some cases, the fact that they see things from the same perspective as I do facilitates subsequent decision-making. (Of course, this will not work if I intentionally control them to conform to my viewpoint.)

When various assumptions and perceptions are shared in a setting such as a 1-on-1, where there is no need to battle opinions, subsequent discussions can be very productive.

In addition, it is also helpful to involve members in the process of organizing the structure of the issue. Hold several small meetings to share observations and work as a team to organize the structure of the issue.

My own approach is to organize the issues on my own, but I basically do not show it to the team members. Once I have gone through the process of thinking by myself, I reset it. Then, I face the member's observations and organize the issues together.

By doing so, I will be able to see the bias in my view of things and foster a sense of conviction among the members.

In my last article, I showed you my own organizing structure regarding the challenges that Alue faced.

This was only an arrangement of my own thinking, so I did not show it to others, but I was very surprised when a department manager-level colleague drew a similar picture of the issues in the course of conducting a 1-on-1 with me.

<My paperwork>

<the colleague's paperwork>

Of course, I did not indicate this beforehand, nor did I ask him to organize the structure.

Nevertheless, I believe that the fact that we came to the same idea is the result of our successful sharing of awareness of issues and observations on a daily basis.

In situations where improvement and innovation are required, the experience of daily mutual understanding and co-creation is of great value. It is necessary to steadily build up a deep mutual understanding at a level where we can share the same viewpoints and perceptions of things.

In this article, we discussed what leaders need to be aware of in order to involve others in the process of improvement and innovation. This article concludes the article on improvement and innovation.

Here are the quests of the day. (If you'd like, please share your thoughts in the comments.)

・In what cases, if any, have you experienced or seen or heard of where a leader tried to drive an improvement or innovation alone and it failed because those around him or her could not keep up?

・What are some examples you have experienced, or seen or heard about, in which improvement or innovation has been successful?

・In the above examples of successful improvement and innovation, how were the " world views" of the leaders and members, or of the members, aligned?

Bunshiro Ochiai

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