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漢方のなりたちについて

ということで、始まりました。「新しい漢方」シリーズ?なんですけれども、誰も教えてくれなかった新しい漢方のお話というのを、少しずつしていきたいなと思っているのですが、

まずは、漢方というのはどこから来て、どのようにして発展してきたのかといった「漢方のなりたち」について見ていこうと思います。



簡単には言えない、中国4000年の歴史

お察しの通り、漢方とは元々は中国から来たものでして、日本には5〜6世紀頃に伝わってから、日本の風土や日本人の体質に合わせて独自に進化していきました。

漢方の元になっている「中国伝統医学」とは、中国の各地でその自然環境に沿って発達してきた伝統療法のことで、

土地の背景を知るとまた面白い。

例えば、

西部は、ヨーロッパからハーブやスパイスを使う文化が入りやすかったため、「薬草」を使った治療法が使われるようになっていったり、

北部は、寒冷の土地で縮こまった体を癒すために、火で温めて治療する「お灸」を使った治療法が生まれたり、

東部は、海に近く塩っぱいものを多く食べるために皮膚や内臓に腫れが出来やすく、石を使って治療する「砭石(へんせき)」という方法が進化していったり、

南部は、暖かい気候で熱がこもりやすいため、「鍼(はり)」で気血(きけつ)を流して熱を冷ましていくような治療法が考えられるようになったり、

中央の方では、湿潤な気候で甘いものをよく食べるため、滞った気血を巡らせながら心身のバランスを整えていく「按摩(あんま)」というマッサージのようなものや、「導引(どういん)」といった気功のようなものを使って治療するやり方が広まっていきました。


またその中で、天気や一日の流れを表す「陰陽論」が生まれたり、季節や物事の変化を表す「五行論」というものが生まれ、その後の中国の根本的な思想となる「陰陽五行論」として、さまざまな事象を説明する考え方が完成されました。

日本がまだ弥生時代だった紀元前の頃に、すでにこういった治療法や考え方がまとめられていたというのは、さすが『中国4000年の歴史』と言われる中国文明の奥深さというか、簡単には説明できない人智を超えた存在があったようにも感じます。

ちなみに、中国人の方に「中国4000年の歴史ってすごいですね」と言うと、「いやいや、中国5000年の歴史だから」と言い直されてしまうらしいです。やっぱりなかなか簡単には言えません。



日本の「漢方」のなりたち

こういった中国の伝統医学が日本に伝わったのは、5〜6世紀の古墳時代の頃のことで、大陸との交流が盛んになっていった奈良時代以降から、遣唐使などによって本格的にもたらされるようになりました。

平安時代になると、日本の風土に合わせて薬草などの治療法などがまとめられた、現存する日本最古の医書ができました。

鎌倉〜戦国時代には、中国に渡って医学や仏教などを学ぶ人も増え、仏教の普及とともに、医療技術や薬物書も多く入ってくるようになりました。

漢方の歴史を(ざっくり)まとめてみた。

江戸時代になって200年あまり続いた鎖国の間も、オランダ中国のみ長崎での交易が許されていたため、ヨーロッパの様々な治療法(西洋生薬、化学薬、スパイスやハーブなど)である「蘭方」が入るにつれ、日本ではいろいろな流派がおこり、古典と新しい考えや技術をそれぞれがどう解釈していくかという大きな流れが生まれました。

また、当時の庶民たちの間にも、生活や農作業を行う上で必要だったこの「陰陽五行」の考えが、二十四節気をはじめとする江戸の暦(旧暦)として広く使われるようになり、日本の風土と人々の生活に密着した、伝統的で季節感豊かな日本の文化として、しばらく長く受け継がれてきました。

今でもお正月などの日本の年中行事だったり、冠婚葬祭縁起担ぎといったものの中にその考えが残っていたりして、現代の私たちは日常的に意識することはなくなってしまいましたが、深いところで関わり続けています。



西洋化によって、漢方は急激に衰退の危機へ

しかし、明治時代になってからは新政府による「西洋化」の波によって、文明開化という名の下に、それまでの日本とは全く異なる文化が展開されていきます。

日本に渡来して以来、およそ1000年もの長きにわたって祭事や政だけでなく、医療や農業といった生活の中で日本人が使い親しんできた陰陽五行の文化は、西洋に追いつけ追い越せの精神によって、自分たちとは全く違った文化を受け入れていかなくてはならなくなりました。

のちに明治政府は、新しく西洋医学中心の新しい教育制度を整えるとともに、医師免許を西洋医学を学んだ者だけに与えるとする方針を決定し、それ以降、日本の医学の中心であった漢方は、完全に表舞台から消え去ることになります。

自然や季節と密接だった江戸時代の暦(カレンダー)

その間も漢方は、ごく一部の医師や薬剤師、薬種商(薬の卸売屋さん)たちによって伝え続けられ、昭和になってから、ある人たちの著述によって、漢方の有用性が再び注目されるようになりました。

そうして、平成に入る頃になってようやく現在のように、病院でも漢方薬が処方されるようになりましたが、その処方においては、あまり漢方に詳しくない(西洋医学専門の)医師が行うことがほとんどで、漢方薬が西洋薬と同じように使われるようになったといえども、本当の「漢方医学」とは程遠いような現状であるといえます。



本当の「漢方医学」とは、人と自然のつながりを見ること

中国やインドで生まれた東洋の哲学には、「人は自然の中に生きる」ということ、つまり人間を「もの」として捉えるのではなく、自然との「つながり」として捉えるという考えが根底にあります。

しかし、いつしか私たちは、西洋の「もの」を細かく研究し、それを利用する科学の方が優れている考え方であるように思い込んできました。今ではこのような考え方が違っていたのではないかということに、西洋の人たちがようやく気付き始め、東洋に何かを求めようとする人たちも多くなっています。

日本人は、東洋からその優れた生き方や考え方をひたすらに取り入れて学びながら、日本の「漢方医学」を独自に作り上げていったにもかかわらず、明治になって新しい時代になったと言ってあっさりと投げ捨てて、全く自分たちに関係のない西洋一辺倒の文化を作ってしまいました。


現代の今でも「漢方が今、注目されています!」と、テレビや雑誌でも取り上げられたりしていますが、よく考えればいつの時代もずっと漢方は注目されてきていますし、そうは言いつつも日本の漢方に対する認識や医療制度は、戦後からほとんど変わっていないのではないかと思います。

いくら「漢方ブーム」と言っても、中国や韓国のように自分たち民族のための伝統的な医学として、誇りを持って大事に国が認めて発展させていこうとしているのではなく、日本ははっきり言って一部の「漢方を愛する人たち」によって、現代の中医学をベースにしながら、日本人に合わせて各々がそれぞれにおいて普及活動を頑張って行っているだけにすぎません。

それに実際、漢方を処方したり販売できるのは、その漢方を専門にする人ではなく、漢方を学んでいない(学んでいる人も増えてきているそうですが)医師や薬剤師、登録販売者だけという、よく分からない構造になっているのが、今の現代の日本漢方なのです。


時代は進み、最先端の科学や技術を使ったとしても、いまだに解明できていない自然界の摂理や現象はまだまだたくさんあります。それをはるか昔の人々は、自然の移り変わりや変化をしっかりと観察することによって、そこから「法則」を導き出し、人間がよりよく生きるための方法として応用してきました。

日本においても、そうやって発展してきた私たちがよりよく生きるための方法としての「漢方医学」は、今ではそのごくごく一部である〝漢方薬〟を使った方法しか残っておらず、それは言ってしまえば「形だけの漢方」であり、本当の医学とは言えないのではないかと、私は漢方を広く深く勉強すればするほど、そう感じるようになりました。



今の時代にあった「新しい漢方」を作りたい

これからの時代、いまだ解明できない多くの問題を科学の力だけではなく、自然のつながりの中にそのヒントを求めていくのであれば、今の漢方における制度やあり方も含めて、その重要性について改めて見直そうという流れにいつか世の中がなっていってほしいと願うのと同時に、

古くから日本人が慣れ親しんでいた本当の日本の「漢方医学」を、コロナ禍を経て迎えたこの新しい時代に合わせて、私たち漢方を愛する者たちがもう一度ちゃんと作り直し、後世の人たちにしっかり伝えていかなくてはいけないという使命を感じます。


私は、今の漢方はこのままのやり方だと、いつかは廃れて無くなってしまうのではないかと思っています。

対面で時間をかけてカウンセリングを行いながら、その人の体質を見極めていくという従来の漢方の診断方法は、コロナ禍によって全く変わってしまった新しい社会のスタイルにはもう合わなくなっているように思います。

この変化に合わせて今こそ新しい方法を何かしら考えていかなければ、戦後から変わっていない今の漢方のままでは、いずれはその価値や必要性も分かってもらえないまま、また再び消えてしまうのではないかと危惧しています。


「伝統とは、守るものではなく、時代に合わせて変化するもの」

だと、誰か偉い人が言っていたのを思い出しました。
誰だっけ、松下幸之助だっけかな…。

忘れてしまったけど、本当にその通りだと思います。

古き良き日本の文化である「漢方」を、現代の私たちがその伝統に甘えることなく、新しい時代に合わせて変化させながら守り伝えていくことが、今を生きる私たちにとって必要なことではないかと思います。

いつも見ていただきありがとうございます!「漢方茶」を広げていけるような活動をいろいろとやっていきたいと思いますので、ご協力いただけたらうれしいです。