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2030年までに日本政府が作ろうとしている医療情報プラットフォーム②

前回は、北欧のデジタル医療先進国の「今すでに社会実装されているデジタル医療システム」を学びました。

今回は「これらの国々のシステムを見た上で、日本政府はとりあえずこんなことをやろうとしているようだよ」というのを見ていきたいと思います。

自民党は「医療DX令和ビジョン2030」のなかで「この3つを同時並行で進めることが重要だよ」としています。

①全国医療情報プラットフォーム
②電子カルテ情報の標準化
③診療報酬DX

ひとつづつ見ていきます。


①全国医療情報プラットフォーム

前回学んだ北欧の国々のどこも採用していた、医療情報を一括管理するためのプラットフォームづくり。

自分がこれまでに受けた病院での診察のカルテ情報や、健康診断の結果、予防接種の記録、各種検査結果、処方箋情報などを、ガバメントクラウド上で一括管理。自身でもマイナポータル上で自由に閲覧できるし、各医療機関も本人の同意のもとでアクセスできるというもの。

現在は新たに病院にかかるたびに、過去の病歴や手術歴、アレルギー、予防接種を何歳の時に接種したかなど、いちいち問診で聞かれて「アレいつだったっけ?」などとあいまいに答えていたものが、病院側が勝手に情報を取ってくれて、正確な情報のもとで治療をしてくれることになります。

さらに本人が同意すれば、これらの医療情報が自身の治療の最適化に使われることはもちろん、未来の治療技術の開発や、臨床研究に役立てられ、医療技術の発展に大きく役立てられることになります。

②電子カルテ情報の標準化

実は①を実現するためには、先にやらなければいけない事があります。それは日本全国の医療機関すべてが、医療情報をデジタルで記載してくれること。

信じられないかもしれませんが、日本の医療DXはかーなーりー遅れていて、未だに電子カルテ普及率が全体の50%強くらいなのです(令和2年時点で、病院では57.2%、診療所では49.9%)。まずはこれを、2030年までに100%にしなければなりません。

さらに、現在は各病院で使用している電子カルテ形式は様々ですが、これを厚労省指定の統一した形式に移行します。

こうして初めて、日本全国どこの医療機関に受診しても、その情報が一定の形式で閲覧することができて、システムの中で正しく情報整理してくれるという環境が整います。


③診療報酬DX

これは私たち利用する側にはあまりピンと来ないかもしれません。

現在、病院側が患者さんを治療したときに、報酬としてもらえる金額というのは国によって定められています。われわれはその金額の3割とか1割とかを自己負担する仕組みですよね。

で、この病院側が報酬としてもらえる金額は2年に1度見直しが行われます。これを診療報酬改定といいます。

これまでは、この2年に1度の診療報酬改定が行われるたびに、文書で発表された改定内容を、レセコンのメーカー側が読み解き、エンジニアが報酬計算プログラムに落とし込むという、複雑で膨大な作業が発生していました。そしてここにはもちろん人件費や作業の手間が発生します。

これを、各レセコンベンダ(※1)共通のものとして活用できる「共通算定モジュール」(※2)を導入し、診療報酬改定の際も、当該モジュールの更新を行うだけで済むようにしようというものです。

ちょっと難しいですが、ようは人海戦術で手作業でおこなっていたものを、大もとを変えればすべてが一括で変わるようにしましょう、ということです。

なぜ政府がこれをやりたいかというと、かなりのコスト削減になるからです。今年9月にはマイナンバー保険証の導入が控えていますが、これによって100~108億円のコスト削減(※3)になると試算されています。この診療報酬DXも、かなりの規模のコストカット効果を上げられる事は間違いないでしょう。

※1:レセコンとはレセプトコンピュータの略。レセプトとは医療機関が保険者に提出する月ごとの診療報酬明細書のこと。ベンダとは製品やサービスを販売・供給・納入する事業者のこと。
※2:モジュールとはIT業界では「構成要素」「交換可能な部品」との意味合いで使われる。
※3マイナ保険証の利用登録率が65~70%まで進んだ場合の、紙の保険証の発行コスト削減の年間値。


どうですか?

先に北欧のデジタル医療先進国の例を見てしまっているので、「まだそんな段階かぁ~」という感じもします。でも、とにかく遅れているなら遅れているなりに進めなくてはいけませんから、ここから巻いていこうぜ!と協力するしかありません。

さて、これが2030年を目標に進められているとして、さらに先の未来。おっちゅうがお年寄りになるころにはどんな感じになっているでしょう。

次回は現在、日本はじめ各国の医療ベンチャーがこぞって開発している医療AI技術や、そこから生まれるサービスも含めて日本社会に実装されたら、「さらに未来の日本の医療システムはこうなるんじゃない?」という予想をしていきたいと思います。

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