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のんき、こんき、げんき。〜社会福祉法人の理事長に聞いた「障がいと食」の話〜

小布施まちイノベーションHUBでは、6月下旬から7月にかけて学校法人角川ドワンゴ学園N高等学校・S高等学校・N中等部との連携事業「食いしん坊なあなたのための腹ペコライターワークショップ」を開催しました。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、完全オンラインでの実施ながらも、小布施町の4つの事業所(社会福祉法人くりのみ園さま、オブセ牛乳さま、KUTEN。fruit&cakeさま、マルテ珈琲焙煎所さま)並びに町内のライター・大宮まり子さまのご協力のもと、商品や小布施の魅力を記事にまとめた生徒たちの作品の一部を紹介します。プログラム序盤の6月に町内外を問わずに大人気の4つの事業所の商品をお届けし実食。その後ライターとしての働き方や心得を学んだのち、生徒自らが考えた質問を直接事業所の担当者に尋ね、記事にまとめていきました。

取材・文 = 酒井愛実(S高2期・オンライン通学コース)
伊藤蒼起(N高6期・通学コース)
写真 = くりのみ園、酒井愛実、伊藤蒼起

みなさんは、小布施町について知っていますか?
小布施町は、長野県の北東に位置する、長野県内で最も面積の小さい町です。葛飾北斎や栗、オープンガーデンなどが有名で、長野県の人気観光地の一つです。
今回、N/S高で行われた職業体験の1つ、腹ペコライターワークショップで、小布施町を拠点としている事業所にインタビューする機会をいただきました。
そこで、私達はくりのみ園の理事長・島津 隆雄さんにお話を伺いました。
インタビューでは、島津さんの食に対する強い想いと、障がい者を想う、優しいお人柄がよく伝わりました。
是非この記事を読んで、少しでもくりのみ園について知っていただけたら嬉しいです。

島津 隆雄さん
社会福祉法人くりのみ園 理事長

くりのみ園は、小布施町を拠点としている、福祉農園です。約20年前に、食を確保する自給をベースに農園をはじめられました。自然循環型農業に取り組んでおり、できる限り化学物質を使わずに、卵、米、野菜などを育てています。
おぶせのたまごは、第10回フード・アクション・ニッポンアワード2018を受賞するなど、様々な実績もお持ちです。
また、生産から加工、販売までを自ら行う6次産業化にも取り組んでいます。

まずは、島津さんに障がい者に対する思いについて聞いてみました。

くりのみ園で平飼い養鶏された「おぶせのたまご」

島津さんの障がい者に対する想い

ーーくりのみ園を作ろうとしたきっかけはなんですか?

障がいを持つ方々が生きていくためには、働くことのできる場所が必要です。それは一般の方と全く同じです。でも、働いてもほとんどお金をもらえないのが現実なんです。働くための整備がされていない。どうしても、障がいを持つ方々はそういう立場にいるので、自立した生活には繋がっていきません。そこで私は、そういう方々にはどのような仕事があるのかについて、考えました。

そして、生きていくためには、食を確保するということが最も重要だと思ったんです。だから、農業を選びました。生きていくために、卵を作る、お米を作る。いわゆる、「自給」という考え方がこの活動のベースです。「自給」をする農園を作るところからスタートし、そこから活動を広げていきましたね。

また、自給と同時に、健康は障がいをもつ方にとっても、大事なことになります。なので、「自給ができて健康にもいい食」を生産する農園を作ることが出来たら素晴らしいのではないかと思い、今に至りますね。

ーーどのようなところに障がい者の可能性を見つけたんですか?

障がい者の特性の一つとして、一つのことをコツコツとやり続ける傾向があります。そういう力を農業にうまく繋げていけないかと思ったんです。

具体的にいうと、有機農業では草取りが必要です。多くの方は、つまらないと感じるかもしれません。でも、障がい者の方はそういうことにハマっていく方が結構います。どちらかといえば好んで、自然の中で人参の草取りなどをしてくれるんです。すると、それが立派な人参になる。それって成果として見えるじゃないですか。成果が見えるということは意欲に繋がるんです。
農業は、最終的には自分で作ったものを自分で食べることができる。つまり、生きていることに直接繋がります。反対に、難しい作業には興味を持たないんですよ(笑)

くりのみ園で働かれているみなさんの写真

ーー障がい者を雇用する上で苦労したことはなんですか?

障がいを持つ方々と関わるコツを、かつて福祉に関わっていた方から伺ったことがあります。それは、「のんき・こんき・げんき」。つまり、長い見通しで関わり続けるということを意味しています。そうでないと、その人たちの魅力は見えてきません。

先ほど、人参の草取りの話をしましたが、最初の頃は草だけでなく、せっかく種を蒔いて出てきた芽も、まだ収穫したくない人参も、全て抜いてしまったんですよ。それには唖然としましたが、それもありなんです。相手の存在を全て受容したところから活動が始まっていきますから。(その数年後には、すっかり除草のプロに成長したそうです!)

やはり、農業というのは自然と繋がっているものなんです。昔の話をすると、柿を作る人は、全ての柿を取ろうとはせず、1割は残していました。なぜ残すかというと、自然界で生きている周りの鳥たちのために残したんです。それが共存です。自然というのは、そのぐらいゆったりした世界ということです。だから、少しぐらいの失敗はしてもいいんですよ。別にとがめる必要はないんです。

農と食に対する島津さんの想い


ーー循環型農業はどのような世界ですか?

循環型農業は、5〜10年たってやっと成果が出てくる世界です。
数年で結果が出るような世界ではなく、自然との長い関わりの中で成り立ちます。
多くの農産物は、地球の贈り物である土、大地で生産しますね。

循環型農業では、長い年月をかけて、その土に微生物の力で地力がつき土が肥え、大地が豊かになり、いつしか、「いいものができたね、虫にも食われないし、そこそこにいいものができるようになったね。」となります。ですので、長い目で見ないと、なにがなんだかよくわからない世界と言えます。
今は、スピードが早い社会ですから、5、10年と長い目でみると言っても笑われますが(笑)

また、昔の人はそういった感性を持っていて、どこの農家や家にも、柿・梨・梅の木が一本くらいはあり、消毒なんかしなくても豊かに実り、それをいただいていました。イメージとしては、今でいう「里山」で、実は昔は当たり前だった世界なんですよ。

くりのみ園で平飼い養鶏をされている様子

ーーホームページの「命はめぐる」という言葉が印象的でしたがその意味は?

「命はめぐる」とは、「生き死に」の問題です。私たちも人間だから、必ず死ぬわけです。死ぬと人間はどうなると思いますか?
全て大地に帰りますね。いろんな微生物などが分解し、人間の命や動物の命、全ての命が大地に戻ります。そして次の世代は、人参になって生まれてくるかもしれないし、あるいは魚になって生まれてくるかもしれない。「命はめぐる」とは、そういった「命の循環」を意味しているんです。

このような発想は、私たち多くの現代人には、とても違和感がありますが、仏教の考えでは、当たり前のこととして捉えています。要するに「一木一草、命あり」ということです。植物が枯れてはやがて生えるように、全ての命は土と繋がっています。
だから、私は、体と心は大地と繋がっているという意味の「身土不二※」は真実だと思います。

つまり、自然循環も目的で農産物を生産しているときは、土に戻らない化学合成物質はできるだけ使わないということが大切になるんです。そういった考え・思いが根幹にあるので、少し大胆だけど「命はめぐる」というキャッチフレーズを書いているんです。

ーーー「すごい、深いですね。」
(島津さん)「いや、深いかどうかちょっとよくわかんないけど(笑)」

※身土不二(しんどふじ):人間の身体と土地は切り離せない関係にあるということ。その土地でその季節にとれたものを食べるのが健康に良いという考え方で、明治時代に石塚左玄らが唱えた。

デジタル大辞泉

ーーー「ほんものの農業」とは、どのようなものだと考えていますか?

農業は食糧を生産するものですので、トラクターを使ったり、最近で言うとドローンを使ったり、農産物を生産するまでの過程は色々あっていいと思います。

ただ、「ほんものの農業」は、自然の中で自然の恵みとして農産物を生産することだと思うんです。人間も元来自然のものですから、そういった「自然の恵みをいただく」という文化、生活を一番大切にしていきたいですね。

終わりに


今回取材させていただき、貴重な経験をさせていただくことができました。
特に、島津さんの「障がいをもつ方が、農業を通して元気になり働くことで、経済的にも生活できるようになってほしい。」という想いが印象に残っています。

くりのみ園さんの農産物は、食べチョクなどのオンライン直売所や、公式オンラインショップ、長野県長野市にある直売所「なちゅなるショップくりのみ」で販売されています。ご覧いただければ幸いです。みなさんも、くりのみ園の「ほんものの食」を食べてみませんか?

くりのみ園のホームページはこちらから


今回いただいたものの感想

最後に、くりのみ園で作られたお菓子やジュースをいただいたので、
インタビュアーの二人がその味をレポートします!
【マフィン】

米麹味噌味:味噌は少し苦手ですが、味噌の風味が強すぎず、甘くて食べやすかったです。言われなければ、味噌だと気づかないほど味が馴染んでいました。ただ甘いだけではなく、塩味もあるので味が整っていて美味しかったです!

人参味:自然な人参の味がするマフィンで、写真を撮るのを忘れてしまうほど美味しいマフィンでしたー!!

気づいたときには4分の1に(笑)

【人参ジュース】

まーちゃん:にんじんとレモン果汁だけなのに、甘くて美味しかったです!甘い匂いがして、見た目はドロドロしていました。飲むと、にんじんのシャリシャリ感があります。とても自然な甘さでさっぱりとしていました!
そうき:「え、これ人参ジュースなの!?」と、言われないとわからないほどに飲みやすかったです。人参が苦手な方でも美味しくいただけます!後口は、レモンの爽やかな酸味で、これからの暑い季節にもぴったりです!」

【カステラ】

まーちゃん:切るとふわふわしていて柔らかかったです。口に入れた瞬間、優しい甘みを感じました。食べたあとに、ほんわかと甘さが口に残り、甘さの余韻がとても幸せでした(笑)とても美味しかったです!

そうき:たまごがもつ本来の味を最大まで引き出した、自然から生まれたカステラです!

くりのみ園HP http://kurinomien.com/

#障がい者雇用 #農業 #福祉 #職業体験 #小布施町 #自然循環型農業
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