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はっとり著『世界一やさしいお金の貯め方教えます』を読んで

【お断り】本記事は読書感想文です。小淵の個人的な意見を記したものであり、学術的価値・正確性は求めないでください。

本書は、メガバンク出身でTwitterやYouTubeで活動しているはっとりという方が著した本です(2023年3月24日発売)。

狂言回しでアドバイザー役の著者本人と、年収や生活様式が異なる3人の女性が登場し、著者が女性たちにお金の貯め方について教える、という構成です。ほぼ全編にわたって漫画であり、読みやすいです。(文章のみに書き直せば半分くらいの厚さになるかと思います)

あることがきっかけで(後述)Twitterの株クラスタでかなり話題になっており、発売日にkindleで買って読みましたので、レビューします。

本書全体を通して著者が訴えたいテーマは「老後の資金が不安なら、節約・投資・副業に取り組みなさい」というもの。それぞれについて深掘りする形で著者の主張が展開されます。

結論から言うと、私は、この本は資産形成を学ぶのには適していないと判断します。誤りや独断、説明不足、リスク軽視の記述が多々あります。どちらかというと有害な本と言えるかもしれません。

他にいい教材はたくさんあります。本書を買うのはやめましょう。

1.節約

38歳の女性の架空の家計簿を例に、支出で削減できる項目はないか、とはっとり氏がツッコミを入れていきます。例えば「節水シャワーヘッドに替えて水道代を節約せよ」とか「スマホのキャリアを楽天モバイルに替えろ」とかアドバイスしています。

定番の「貯蓄型の保険を見直そう」も登場。がんにかかったり死亡したりする確率はとても低いのだから保険料を支払うのはムダだ、という論法です。

他には、「車は金食い虫」「小銭貯金の習慣化」「ポイ活」……よく見る節約の事例が出てきます。

妻が夫のビールを発泡酒に替えたり、夫がゲーム課金をやめたり、昔好きだったアイドルのグッズをメルカリに出品するなど、ちょっと貧乏くさいと思うようなシーンが漫画で展開されますが、老後と今の贅沢とを天秤にかけたらまあ仕方ないのでしょう。

私は節約術にあまり詳しくないので、そういうもんか、という感想です。

2.投資

66ページ

本書発売数日前に、著者みずからがTwitterで公開し物議を呼んだひとコマです。

https://twitter.com/Hattori_bkk/status/1637559065151942657?s=20

(バランスファンドは別として)これら全世界・先進国のファンドを分けて持つ必要はありません(分散効果は別に良くなりません)。

「どれか1つ下がってもほかの2つは上るかもしれない」というのは、これらのファンドの相関係数を理解・把握してないという証拠であり、この本の信頼性を大きく下げるひとコマとなっています。

さらに、このあとの漫画の会話がこちらです。

はっとり氏:
「米国株式」や「全世界株式」をきちんと押さえているファンドを選ぶと失敗が少ないと言えますね
相談者:
なんで米国株式がいいんですか?
はっとり氏:
だって世界の経済はやっぱりアメリカを中心に回ってるでしょ
はっとり氏:
よりリスクを分散したい人は「全世界株式」をさらにリスクを抑えたい人は「先進国株式」を選ぶのも手です
相談者:
でもハラハラするのは嫌だなぁ
はっとり氏:
「運用はプロがしてくれるから放っておいてOK!」

66-67ページ

なんだか話が混乱してます。アメリカを推したいのかなんなのかよくわかりませんし、先進国株式は全世界株式よりリスクが低いとも読めます。

「ハラハラするのは嫌」=「リスク許容度を超えて投資したくない」と主張する相談者に対し、ただ「大丈夫大丈夫!」とだけ言っているに等しいこの最後のアドバイスは、ファイナンシャルプランナーとしてあるまじき愚行だと思います。相談者のリスク許容度に合った資産配分を提示すべきです。

また、インデックスファンドはまあプロが運用しているのには違いないですが、こういった時価総額加重平均の指数に連動を目指すことを、アクティブファンドでプロがやっていることであるかのように言うのも少し奇妙です。

他に120ページでも米国株式を推しています。全世界、先進国、米国……どの株式インデックスファンドに投資すべきかや、どのように選べばよいかなどという指南は本書にはありません。本書の全体にわたって一貫する主張が無く、軸がぶれていて、初学者は何に投資すべきか迷ってしまうのではないでしょうか。

68ページ

これはよくある「良くないグラフ」です。期待リターンだけを表現し、リスクの表現を省いています。これでは、投資の知識が浅い読者に、年々必ず上昇していくのだと誤解させてしまう可能性が高いです。

株式投資にはリスクが伴い、元本割れで終わる結末が無きにしも非ずであることを、もっと明確に説明すべきと思います。

インデックスファンドは、市場の平均株価(指数)を指標としているため、
リスクが低く、安定したリターンが得られます。

78ページ

インデックスファンドの特徴をこのように説明しています。「リスクが低い」というのは何か別のものと比較したときに使うべきフレーズであり、単体でこのような言い方をすると、読者がひとりひとり異なる解釈をしかねません。

「安定したリターンが得られる」というのも、リターンがマイナスになることを無視したような言い方に聞こえ、入門書としては非常にまずいです。このあたりが、私が本書を推せない理由です。

なお、本書のどこにも、「◯◯インデックスファンドのリスクは◯%だ」といった記述は登場しません。そのためどの程度のリスクなのかを、読者は本書だけから知ることができません。不親切。

また、インデックスファンドとアクティブファンドを比べた表の中で、「インデックスファンドの魅力」の欄でこのような記述があります。

市場全体に投資するため安定している

78ページ

市場全体に投資するから安定というわけではなく(そもそも「安定」の定義が不明)、当然ながら市場のリスクがあります。というか指数投資は市場のリスクそのものを受け入れる投資です。インデックスファンドを持つことを精神的に安心させるだけの説明に終わっているような口ぶりに不信感が募ります。

このあたりから、誤りと思われる記述が続きます。

(前略)実際ここ10年は、7割のインデックスファンドがアクティブファンドよりよい結果を残しています。

78ページ

おかしくないですか。「10年間で7割のアクティブファンドが市場平均を下回っている」とかだったら聞いたことがあるのですが……。

漫画で僕がおすすめしていた全世界型のインデックスファンドは、NYダウやS&P500に連動しているので、より安定していると言えます。

79ページ

いいえ、どちらにも連動していません。明らかに情報が不正確です。

楽天・全世界株式インデックス・ファンド  目論見書より
SBI・全世界株式インデックス・ファンド 目論見書より

ドルコスト平均法とは、(略)投資信託の価格が下がっているときは購入量を増やし、上がっているときは減らします。

79ページ

購入量(口数)や取得単価を気にしても何の足しにもなりません。

(ドルコスト平均法は)高いときにたくさん買ったものが、安値にならずに済むため、リスク回避につながるというメリットがあります。

79ページ

いいえ、ドルコスト平均法ではリスク回避にはなりません。

3.副業

本業以外から収入を得るために、副業に取り組めという章になります。

その中で、稼げるスキルを身につけるために自己投資せよと著者は言います。そして、自己投資の具体例としてこれらが提示されます。

本を読む
教材を購入する
オンラインサロンを利用する
セミナーに参加する

108ページ

私がひねくれものだからかもしれませんが、このリストを見ると、ははーん著者は自分のサロンやセミナーに誘導したいんだな、そこから追加収益を得たいんだな、と邪推してしまいます。

その他にも、公共職業訓練やハローワークなどの利用も勧めていはいるのでバランスは取ってるかな、とは思いますが。

4.その他

124ページからは、その他の手法による資産運用を勧めています。高配当投資、金、外貨積み立て、仮想通貨積み立て、など……。こうなってくると読者はいよいよ混乱するでしょう。

他にも言いたいことがいくつかありますが、このへんでやめにします。

繰り返しますが、この程度の内容は無料でよい記事がネット上に転がっていますし、指摘した一部の誤りや不親切な部分がある以上、わざわざ読むべき本ではありません。

メガバンクに11年勤めたという著者の知見とか独自の視点とかで書かれているのかと期待して読みましたが、そんな要素はゼロでした。

以上、何かの参考になれば幸いです。

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