運動の効果とメリットを再認識する

私たち人類は12000年前からほとんど変わっていません。
体の機能も認知機能も感情も、原始人と同じものが備わっています。

しかし私たちの生活習慣は、ここ100年を見ても大きく変化しています。
脳と体にとって、今私たちが暮らしている世界は非常に異質なものです。
人類史の99.9%という時間を人間は狩猟と採集をして暮らしてきました。
私たちの脳と体は今でも当時の生活様式に最適化されています。
激変してしまった現代の環境に脳と体は適応できず、さまざまな不調を引き起こしています。

長い間、私たちはいつも自然と共にあり、自然を求める本能が私たちには埋め込まれています。
私たちは自然に触れることによってメンタルが整い、自律神経が整います。自然を愛する本能を満たしてあげることで、私たちはより健康になれます。
自然に触れること、そしてもうひとつの処方箋が運動です。

私たちの祖先は何百万年もの間、活発に動き回っていました。
体を動かさなければ食糧を手に入れることはおろか、生き延びることさえできませんでした。
私たちの体は動くのに適した作りになっており、動くのが当たり前という構造になっています。そして、動かなければ不調を起こしてしまいます。
近年、座りっぱなしでいることのリスクが研究で明らかになっています。

体だけではなく、脳も動くことを前提に作られています。
私たちが活発に動くことに対し、脳は何よりも敏感に反応します。
脳トレや脳活といった形でパズルやゲームなどを多く見かけますが、脳にとっての最高のエクササイズは体を動かすことです。
体を動かすことで脳はアップグレードされ、集中力が増し、気持ちが晴れやかになり、不安やストレスが減り、記憶力が向上し、創造性が増し、知能が高まります。
スウェーデンで国民的人気を得た精神科医、アンデシュ・ハンセンは「精神科医としてベストな処方は運動で間違いない」と述べています。
脳を健康に保ち脳を最高の状態に保つのは運動です。

運動がもたらす心の状態、幸福感への影響は絶大です。運動ほど私たちのメンタルを強力に良くしてくれるものはありません。
運動は不安障害やうつ病のリスクを減らすだけでなく、治療する手段として抗うつ剤やセラピーに匹敵する効果があります。

一般にうつ病というと抗うつ剤などの薬による治療を思い浮かべます。
運動は副作用が一切ない最強の薬です。
症状の程度に関わらず、運動をすれば誰でも気持ちが晴れやかになり、悲観的な考えが消え、自尊心が高まります。
定期的な運動は抗うつ剤よりも強力であることが研究で確かめられています。毎日20〜30分ほど歩くことでうつ病を予防できます。

セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンは神経伝達物質の一種で、これらが私たちの感情を決定しています。
ノルアドレナリンは集中や積極性をもたらし、ストレスに打ち勝とうとするときに働きます。ドーパミンは喜びや快楽、意欲をもたらします。セロトニンは、ノルアドレナリンとドーパミンをコントロールし、調節しています。悩みや不安が和らぎ、心が落ち着きます。
うつ病と神経伝達物質の欠乏は密接に関わっています。
薬には必ず副作用がありますが、運動はノーリスクでこれらの神経伝達物質の分泌を促すことができます。定期的に運動することで神経伝達物質の分泌量が徐々に増えていきます。

また、運動をすることでBDNFという物質が分泌されることもわかっています。近年大注目の、脳内最強とも呼べる物質です。
脳細胞が他の物質によって傷ついたり死んだりしないよう保護しています。新たに生まれた脳細胞を助け、初期段階にある細胞の生存や成長を促します。脳の細胞間のつながりを強化し、学習や記憶の力を高めます。脳の可塑性を促して、細胞の老化を遅らせます。
この奇跡の物質であるBDNFを増やせるごく自然な方法が運動です。
BDNFの生成を促進するのに運動ほど効果的なものはありません。
定期的な運動によりBDNFの生成量が増えていくことがわかっています。一旦増えたBDNF値はすぐには下がらず、2週間ほどで下がり始めます。BDNFを増やすことに限るなら、毎日運動する必要はないということになります。

BDNFについてはこちらでも書いています。

運動の習慣がある人は、新型コロナウィルスに感染しても入院して集中治療を受けるリスクが50%減るということを明らかにした研究があります。
日頃から運動することで重症化のリスクが半減します。
病気になったとき、最後の最後で私たちを救ってくれるのは運動習慣ということですね。
運動は新型コロナだけでなく、糖尿病、心血管疾患、乳癌、結腸癌のリスクを減らすこともわかっています。運動にはたくさんの病気予防効果があります。

運動をすると、そのメリットは今この瞬間にもたらされ、生き延びるチャンスを増やしてくれます。
生存可能性を高める行為だからこそ、私たちは運動をすることで喜びを得られます。