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「ポップ1280」ジム・トンプスン

田中芳樹の中国小説で、覚えているエピソードがある。
どの時代の、誰の話かも覚えていないのだが、こんな話だ。
皇位継承権はあるが、阿呆なので宮廷内でまったく誰にも興味を惹かれていない皇子がいた。
長子であるのにもかかわらず、である。
他の優秀な皇子たちはその取り巻き達の暗闘に巻き込まれて、毒殺されたり、危険な目にあったりしていた。
いざ、次の皇帝を決めるとなった時に、かの皇子は堂々とした姿と態度を見せる。
彼は阿呆のふりをしていたのだ。
そして皇帝の座を手に入れ、善政を敷くという話だ。
十数年の間、阿呆のふりをする根気強さと、ボロを出さない賢さを称賛するエピソードだった。

アホの坂田でもそんな話があったな。
ダウンタウンの松ちゃんが、「ほんまのアホはアホのフリは出来んのや、賢いからアホのフリが出来る。でも坂田おるな?あれはほんまのアホじゃー!!!!!」って。
大爆笑した中学生時代の思い出。

話を戻す。
本作「ポップ1280」のポップは人口のこと。
人口1280人の小さな町が舞台。

この町の保安官が主人公。
この男は自分は保安官ぐらいしか出来ないと、自分の能力を見限っている小物で、人当たりはよくにこにこしているが、どこか馬鹿だと町のみんなには侮られている。
そんな暢気な男、とみせかけて。。。

彼の欲望はすごい単純なんだ。
保安官は警察とかとちょっと違い、選挙で選ばれる。
街の人間に、この人なら治安を任せても良いと思われなければならない。
まぁ普通に過ごしているのなら、再選は問題ない。
ただ評判が落ちるようなことがあると致命的だ。
なので、彼は保身の為に活動する。

また町で自分をバカにする連中も困りもの。
度を越して自分を蔑むやつらが本当に嫌だ。

つまり彼の欲望は保安官になりたいというものと、自分をバカにするやつをなんとかしたいというもの。
で、彼がとる手段が”殺人”。

馬鹿に見えて本当は馬鹿じゃない。
彼は賢くて下衆で狡猾。
誰にもわからないように邪魔者を次々と排除していく。
殺人に対する罪悪感などなく。
その様子が、昔のアメリカの下品な風情の中で行われていく。
ノワール小説と銘打たれていた。

でもノワール小説って、カッコイイ悪党たちが知恵を絞りながら大犯罪を犯すっていう内容だと思っていた。
これはちょっと違くて、本当に身勝手の為に自分の頭脳をフルに使って、障害をたんたんと排除していくっていう。。サイコパスものといったほうが近いんじゃないかと。
破綻しない「悪の教典」って感じ。

読んだきっかけは「このミステリーがすごい」海外版で1位を取っていたから、というミーハーな理由。
学生時代はこのミスを追いかけてたなぁ。
最近はそんな体力もないわ。。

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