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「蝦夷地別件」船戸与一

エスニッククレンジングという言葉がある、日本語で言うと『民族浄化』。
意味は、複数民族が住む土地で特定の民族、主に政権を握った多数派民族が、他民族を武力をもって虐殺・迫害などにより排除するという意味だ。

クソみたいな言葉だが、存在するということは、その意味する行為も存在するということだ。
ボスニア内戦が、この言葉が出来たきっかけ、セルビア人によるムスリム人の虐殺などが挙げられる。
厳密には定義が違うかもしれないが、ドイツにおけるユダヤ人迫害など。

この言葉を知ったのは漫画「EDEN」。
この作品は国家間、宗教間、民族間の争いや貧困による治安悪化などをSF世界を舞台に、リアルに描いており、日々日本という国ですごすと気づかない、戦争・紛争の本質を目の前に突き付けてくる漫画だった。
それでも自分とは関係が無い、いわば「対岸の火事」として読んでいた。

本作を読んでまず感じたのは、日本にも民族浄化の歴史があったのか?!という思いだった。
知識として、アイヌ民族という少数民族がいたのは知っている。
ただ彼らが和人(今の日本人の先祖)たちにどんな扱いを受け、いかに虐げられていたかなど、知りもしなかった。

あらすじはこんな感じ。

ロシアの南進政策によって自国ポーランドが蹂躙されるのを阻止する為、極東に意識を向けさせるよう、蝦夷地アイヌ民族に銃を提供して反乱を起こさせようとするポーランド貴族。
銃を提供され、和人を蝦夷から排除させようとするアイヌ人。
双方の利害の一致、だが事態は急変、銃が届かない。
和人によるアイヌ民族へのひどい扱い、男たちを牛馬のように扱い、女性を凌辱する所業にアイヌ人達の怒りは限界に。
そして若い世代は蜂起しようとする。
現実を理解している長たちは、蜂起か恭順かを迫られる。
アイヌ民族の憤怒と悲しみがひしひしと伝わってくる作品。

ただ、歴史大作ではあるが読みづらいというわけではなく、テンポもよく冒険小説として楽しめるエンターテイメント作品になっているのが凄かった。

教科書では一行とて割かれることもない日本の歴史、そんな歴史の中には複数の人間や民族の思いが存在する。
こういう、実は掘ってみたら深かったって感じな、マイナー歴史物は読むと新鮮な驚きをくれるから好きだ。

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