見出し画像

「プラネテス」幸村誠

漫画の紹介。
完結全4巻。

1・2巻は案外普通なんだが、3巻以降から物語のテイストが変わる。
渇望がテーマの物語へと変貌するのだ。
いや渇望と愛がテーマか?
順を追って説明しよう。

まず主人公は宇宙にてデブリ(宇宙ゴミ)を回収する仕事についている。
詳細な職種としては船外活動員。
彼は船長の黒人女性と、同じく船外活動員の白人男性とともに、おんぼろ船にのった業務をしている。
この主人公は、将来的に自分の宇宙船を手に入れるという夢がある。
その夢をかなえる為、木星往還船のクルーになろうとする。

1巻では宇宙も人間の活動範囲になった近未来が、非常にリアリティたっぷりに描写される。
一般人でも多言語がしゃべれるようになり、宇宙への旅行も一般人に手が出るものになり、月には居住区があり宇宙の仕事に従事する人々が住んでいる、そんな未来。
雑誌は電子データだし、今と地続きな近未来がリアルに描写されている。
その世界の中で、デブリ回収の仕事と乗務員たちの過去や思いが描かれる。

2巻では新人クルーが参画する。
木星往還船に応募する為に退職する主人公の後任だ。
このころから主人公は渇望に支配される。
ビッグプロジェクトの宇宙船のクルーになる為に、その目的以外のすべてを捨てなければならない、宇宙にはその価値があると。
新人の女性クルーはまた違った感情を持っている。
宇宙はすべてを捨ててたどり着くような場所じゃない、宇宙はたったひとりで向き合うには大きすぎるのだと。。
主人公は自分の渇望が具現化したイメージ、すべてを見透かしたようなことを言うもう一人の自分の幻想に苦しめられることになる。
その幻想と新人クルーの存在に心を乱され葛藤する様子が、3巻以降に描かれていく。

リアルなSF近未来漫画から、何かを為すということを目的にした人間の苦しみと癒しを描く物語に変わっていくのだ。

正直ただのSF未来漫画としても良作だ。
このままずっと続いて欲しいぐらい。
でも、その後の渇望と愛の物語が非常に深く、この作品を名作としている。

主人公以外のキャラクターにも、「こうありたい」という思いと、こうしか出来ないという現実との間で葛藤するエピソードがあり、まるで哲学のような物語となっている。

アニメ化されているが、1話2話ぐらい見てテイストがあまりに違うので、見るのをやめてしまった。
アニメだけ見た人も、まだどちらも見たことが無い人も、このマンガは読んで欲しい。

また作中に何度も宮沢賢治の作品が引用される。
本作をきっかけに宮沢賢治全集を買ってしまった。
やはり、本は本を呼ぶね。

https://amzn.to/3Jqhbpy


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?