「るんびにの子供」宇佐美まこと
誰も見ていない、誰にも知られないところで、どうしても殺したいと憎む相手と二人きりだったら。。そして手には簡単に人を殺せる道具があったら。。あなたならどうする?
ホラー小説「リング」の世界で、もし自分の手元に呪いのビデオテープがあったら、そしてもし死を望むほど憎んでいる人間がいたら、あなたならどうする?
もし怪異といったものが本当にあったとして、人間の業はそれに恐怖するのみではすまないのではないだろうか?
どんな科学的発見からも人を殺す道具を作り出す人間、怪異すら人を害することに使うのではないだろうか?
この短編集を読んだ後、悶々と上記のようなことを考えていた。
本作はホラー短編集。
人間に対する恐怖と怪異に対する恐怖が同居している作品達が並んでいる。
表題作の「るんびにの子供」は主人公の女性が子供のころから見る女児の幽霊の話。
何年も一緒にいる怪異よりも、他人なのに家族として生きることを強いられる、夫や義母の方が時として忌まわしい。
それらに向けて主人公が行った行為とは。。
家族になる、とは良く出来た表現だ。
家族、その定義は非常に曖昧だ。
一緒に住んでいれば、血のつながっていない人間でも家族と呼ばれる。
夫婦でさえ結婚という儀式の結果でしかなく、家族になるという暗黙の了解が成り立たせている関係だ。
そこに憎悪を入れるな、というのが無理な話なのである。
なまじ一緒にいることが多いからこそ憎悪は深く、根強い。
本短編集には必ず人智を超えた怪異が出てくる。
だが、恐ろしいのはこの怪異ではないのだ、近しい家族に憎しみを抱き、怪異すら利用する人の業だ。
本作、「ぼっけぇきょうてぇ」の岩井志麻子が解説を書いている。
ヒョウ柄全身タイツを着ている変なおばさんなだけじゃない、見事な考察を披露してくれる。
これを先に読まないように気を付けて欲しい。
本作を的確に表す格言が載っているから。
そしてこの記事を書くにあたり調べて知ったのだが、宇佐美まことは日本推理作家協会賞を受賞していた。
作品は「愚者の毒」、絶対読もうと思った。
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