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4.Bメロ ー朱里

「乾杯!お疲れさまでしたー!」
「お疲れさまー!」

真人先輩の音頭で打ち上げが始まった。バンドごとに座っていたはずの座席も次第にばらけてきたころ、真人先輩が私たちのテーブルにやってきた。  

「お疲れさま、三人官女。」
「ありがとうございました」
「真人先輩のおかげです、ほんとに。もー最高でした」
「いやー、スミカちゃんには負けるなー。首がとれるんじゃないかって思ったよ。朱里ちゃんも、よく頑張ってくれたしね。」
「すみません、本当。」
「なんてことないさ。無事終わったんだからそれでいいの。」

今日は、いや今日も真人先輩のおおらかさに助けられた。感謝してるが、実緒とスミカの間に陣取る先輩は、やっぱりどこか不思議というか近寄りがたい。

「先輩、私、そろそろおいとまします。」
「駅まで送るよ、ちょっと待って。」

そういって真人先輩はジャケットとはおった。あまり知らない場所で、しかも夜道だったから正直ありがたかった。

「もう、大丈夫?ごめんね、オレが無理させたよね。」
「そんなことは。もう平気です。」
「なら、よかった。翔に怒られたよ。」
「翔先輩にですか?え、なんで。」
「軽々しくさそったオレが原因だって。まぁ、そこはね、ちょっと反省してる。」
「いえいえ、先輩は何も悪くないかと。ド素人のくせにひょいひょいと承諾してしまった私がいけなかったんです。」
「翔から聞いたことがあるんだ。高2くらいだったかな。ほらあのルックスだから、結構な頻度で告られててさ。なのに全部断ってたんだよ。」
「中学のときと同じですね。理由はなんだったんですか?」
「単純。好きなやつがいるから。でもその子には連絡できないし、会えないんだって。学校ではつくらなかったけど、バイト先とかで彼女つくったりして。とはいっても断れずしかたなくって感じだけどね。だから長続きはしないんだよ。」
「その好きなやつのせいですか。」
「ビンゴ。だけど、どうやら最近会ったみたいなんだよ。で、なんか気持ちを伝えたっぽいんだけど。」

「真人。」

向こうのほうに翔先輩の姿が見えた。

「だから朱里ちゃん、どうなったか聞いといて。」
「え、私がですか?」
「そう。」

「わりい、遅くなった。」

「いつもより時間かかったな。じゃ、あとはよろしくー。朱里ちゃん、気をつけてね。」
「ありがとうございました。」

「電話しろよ、そろそろ場所変えるから。」
「おう、サンキュ。」


そういって真人先輩は店のほうへ戻っていった。


「体、もう大丈夫なのか。」
「もうすっかり。先輩のおかげです。ありがとうございました。」
「いや、俺はなにも。」

「緊張すると、目の前が暗くなってきて耳も聞こえなくなるんです。もう、ずっと、何年もこんな感じで。薬、飲んだから大丈夫だと思っていたのに、やっぱりだめで。こればっかりは治りそうになくて。」

「中学の時からだろう、それ。…もっと正確にいうと、俺が卒業してから。」
「えっ、知ってたんですか。」

先輩とは一度も会ってないから知るはずがないのに。他人に知られたくない弱みを、よりによって翔先輩が知っていたなんて。

張りつめていた何かがピーンという音をたて、はち切れた。こらえていた涙がこぼれ始めて、立っている力もなくなり座り込んだ。そんな私を先輩は力いっぱい抱きしめ、そしてこういった。

「ごめん、本当にごめん。今さらだけど、でもきちんと謝りたかったんだ。もう大丈夫だ。俺がついてる、もうどこへもいかない。側にいるから。遅くなってごめん。朱里、俺はお前が好きだ。」

ただ、泣いた。翔先輩の上着にしがみついて、どうしていいかわからず、ただ、ただ泣いた。抑え込んでいた感情が勝手に暴れだしたようだった。でもどこかでほっとしていた。ちゃんと私を見ていてくれていたことがうれしかった。


ーーつづくーー


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