チャイナ・ミエヴィル『都市と都市』
今回の一冊はこちら。
この本を読んだときは、とにかく疲れていた。
読書も、コンディションによって左右される。
そして、普段は楽しめても、ときには楽しめないこともある。
今回は、そういう読書だった。
辛い時も、体調の悪い時も、読書がある人生がいいと思っているから、本当にキツい時以外は読んでいる。
で。
今回は、楽しめなかった、という感想になる。
えてして、そういう感想は面白くない。
と思っている。
ので、そういう感想が苦手だ、という方はこの記事を閉じてほしい。
はい。
というわけで。
楽しめなかった理由。
わたしは、小説は三つの構成要素からなると思っている。
「世界観」「ストーリー」「キャラクター」の三つ。
この三つが揃ったうえで、その相互作用で小説が面白くなる。
「キャラクター」の要素というと、何か。
一人ひとりの性格や信念、あるいはトラウマや人間関係。
そこから、どういう言動をするか。
「世界観」は彼らをとりまく環境で、「キャラクター」たちの言動を作る一因になる。
そして、複数のキャラクターの言動が重なった時に、どこへ向かっていくのか。
それが、「ストーリー」となる。
もちろん、この小説観自体だけが正しいというつもりはない。
「ストーリー」から先行して「キャラクター」を作っていく、という方法論もある。
でも、順序が違ったって「キャラクター」の内面を作ることはできる。
ミステリにおいては、「殺人事件が起きる」というストーリーは確実だけど、その動機が蔑ろになっていたら何か物足りないと思う。
『都市と都市』は、そういう動機はまぁ、ちゃんとあるにはある。
だけど、主人公と、その協力者たちの心情が500ページ付き合っても、捉えどころがなさすぎた。
そういう物足りなさがあった。
まぁ、一つずつ見ていこう。
まず、「世界観」。
〈ベジェル〉と〈ウル・コーマ〉という二つの都市が、同じ場所にある。
同じ、というのは文字通り地理的に同相にある。
二つの都市には、同じ通りや広場を共有していたりする。
そういう場所では、〈ベジェル〉の人間は〈ウル・コーマ〉の人間や通りや建物を見ないようにしている。
二つの都市の人間は、幼少から教育され、その見方を身につけている。
〈ベジェル〉はちょっと経済的に落ち目の資本主義っぽい社会で、〈ウル・コーマ〉は最近は経済的に豊かになってきた社会主義っぽい社会。
この「世界観」はとても面白い。
都市を描く作家さんらしく、たくさんの賞を受賞しているだけある、と思う。
「ストーリー」も、そこそこ面白い。
〈ベジェル〉で見つかった女性の遺体が、どうやら〈ウル・コーマ〉から運ばれてきたようで……。
という、ミステリになっている。
SFの世界観で、ミステリの構造のストーリを描く。
ただ、展開が、動かない。
100ページくらいから、「これいつまで続くんだろう……」となる。
なんの手がかりもない。
別に、それで面白いミステリはある。
ブロックの『マッド・スカダーシリーズ』だってほとんど話、動かないし。
ただ。
最後に暴かれる真相が「SF」じゃなくて「ミステリ」の域だったのも、なんかガッカリした理由の一つ。
で。
なんで、退屈になってくるかというと。
「キャラクター」に、あんまり魅力がない。
〈ベジェル〉と〈ウル・コーマ〉側に協力者が一人ずついるんだけど、彼女と彼がなんのために主人公に協力しているのかいまいち動機が見えない。
というか、そもそも、主人公がなぜこの事件を追いかけているのかあんまりわからない。
疲れていて、細部や行間が読めてないとこもあると思う。
でも、最後の展開がやりたいがために、両国側に協力者を立てたような筋書きになっていて、モヤモヤ。
「ストーリー」優位に組み立てられた小説。
いや、「世界観」を作り上げて、そのあとに作った「ストーリー」をなぞって。
「キャラクター」の細かなところまで手が届かなかった感じ。
違和感、そして釈然としないモヤモヤ。
この著者さんは、他にも「都市」を主役にした小説を描いてらっしゃるらしい。
「都市」が主役だから、キャラクターがあまり主張していないのだ、という捉え方もできるけど。
そこに生きている人たちも「都市」の一部ではないかとも思う。
だから、ちゃんと面白い内面があってほしい。
でも、今回はなんにせよ、読んだ時のコンディションが悪かった。
この作者さんは他にも都市をテーマにいろいろと小説を発表しているらしい。
今度は別の小説で、ぜひ再チャレンジしてみたいと思っている。
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