砂場

「前から言っていた通り、明日の一、二時間目の授業は学校からは少し離れてますが、中央公園まで行きましょう。」
「「「はーい!!!」」」
 教室中に、元気な子供たちの声がこだました。

 天野 笑璃(あまの えみり)は、小さい頃はお花屋さんになりたいと言っていたと、両親から聞かされていたが、物心がつく頃には学校の先生になるのが夢だった。
 周りからは、立派な仕事だけど大変そうな仕事だし、他にも道があるんじゃないか、と勧められたこともあったが、笑璃の気持ちは揺るがなかった。
 小学校の先生になろうと決めていた笑璃は、片手間で教職の授業を取るのが嫌だったため、大学受験の際にも教育学部を受けた。
 そしてその大学を卒業して、教師を初めてもう何年が経とうとしただろう。笑璃は小学一年生の担任を務めていた。

「何か質問がある人はいますか?」
「はーい!」
 真っ先に手をあげたのはこのクラスの中心的存在の一人である戸倉楓だった。
「はい、戸倉さん。」
「公園では何をするんですか?」
 すると周りの子供たちも、何するんだろう、遊ぶのかな、鬼ごっこじゃない、と口々に話し始めた。
「はーい、皆さん。先生が今からお話するので静かにしてくださいね。」
「「「はーい!」」」
「じゃあそうだな、中央公園に行ったことがある人。」
「はーい!」
「昨日も行ったぜ。」
「私もこの前の日曜日にママとパパとピクニックしたの。」
 またしても口々に話し始める。
「はーい、みんな教えてくれてありがとう。みんなも行ったことあるみたいだね。」
 子供たちが笑顔で反応する。
「じゃあ、中央公園には何があるか知ってる人。」
「ブランコ。」
「滑り台。」
「イス。」
「原っぱ。」
すると子供たちは口々に答たる。
「おっきいお砂場もあるよ。」
 一人の女の子がそう答える。
「あ、今お砂場って言ってくれた人。」
 急なことにびっくりしたのか、一人の女の子が少しびくびくしながら手を挙げた。
「はい、辻さんが今いいことを言ってくれました。」
 そう天野に言われ、顔を赤くしながら照れた様子を見て、隣の席に座っていた楓が声をかけた。
「やったね、けやきちゃん。すごいー。」
 けやきもまんざらでもない顔をしていた。
「あそこの大きな砂場に、この磁石を持っていきたいと思います。」
 そういうと天野は、ポケットから赤と青で塗られたいわゆる磁石を取り出した。
「じしゃく?」
 聞きなじみがないのか、男の子が不思議そうな声で尋ねる。
「冷蔵庫とかにくっつくあれよ。」
 誰かがそう答える。
「ああ、あれかあ。」
「そうです。明日は班ごとにこの磁石を配るので、それを一緒に渡す袋に入れて、砂場にくっつけてみましょう。」
「そしたらどうなるのー?」
「くっつくのかなあ。」
「でも冷蔵庫みたいに固くないよ?」
 みんな創造のつかない問題にいろいろと自分の意見を言い合う。
「はーい、落ち着いてね。それは、明日のお楽しみです。わかりましたか?」
「「「はーい!!!」」」
「それじゃあ、これで帰りの会を終わります。さようなら。」
「「「さよーなら!!!」」」
「バイバイ、先生―!」
 そんなことを言いながら帰っていく生徒たちの背中を見送りながら、明日はまた違う反応が見られることを楽しみにするのだった。

この記事が参加している募集

#スキしてみて

527,181件