プルコギ

駅前の商業施設は日曜日ということもあり、当然のように賑わっていた。
「やっぱりすごい人だね。」
「そうだな。」
「ほら、カラオケ屋って個室じゃん?だからついつい休みの日だって忘れちゃうよね。」
「そんなことないだろ。」
勇樹はツッコむ。
「カラオケもすごい待ってる人いたもんね。」
英一は、自分たちがカラオケ屋を出た時のことを思い出しながら言った。
「まあとりあえず楽しもうよ。」
三人は、目的地であるバイキング形式のレストランを目指しつつ、なんとなしに周囲の店を見て回った。
「この服カッコよくない?」
「ああ、いいんじゃないの。」
「なんだよ、まっつん。釣れないなあ。」
「いや、そういうの分かんないから。」
「えー。九十九っちはどう思う?」
「うん、それいいと思うよ。あ、でも陽介ならこっちの色も似合いそうじゃない?」
「ああ、なるほど。うわ、その発想はなかったわ。さすが、九十九っち。」
「さすがって、なんでさ。」
英一は笑った。
「やっぱり九十九っちって彼女いるからさ、こういうの慣れてるんだよ。」
「え、そんなことないよ。」
「いや、間違いないな。もう全ての所作が、彼女の買い物に付き合う彼、そのものだったからな。」
勇樹も深く頷きながらそう言った。
「それに対してまっつんなんて、なんにも興味無さそうで。」
「そうそう、こんなんだから彼女出来ないんだよな……て、やかましいわ。」
「出た、ノリツッコミ!」
「珍しいね。」
陽介と英一は二人して笑いあった。
「いいんだよ、そんなことは。それより飯、食いに行くんだろ。」
よっぽど恥ずかしかったのか、勇樹はどこか遠くの方を見つめていた。

「では、今から120分、本気出していくよ。」
熱くそう話す英一の目に、火花が浮かび上がっているように二人は感じた。
「ま、まあ、落ち着けって。」
「落ち着いてられるわけないだろ、ここは戦場だぜ?」
「戦場ってそんな、大袈裟……」
しかし、その言葉を言い切る前に英一の鋭い視線にやられ、口篭る陽介。
「ごめん。」
軽く咳払いをする英一。
「バイキングっていうのは、手頃な値段で様々な料理が味わえる最高の食事、いわば最強のアトラクションなんだよ。」
「アトラクション?」
思わずハモる勇樹と陽介。
「だってそうでしょ。食べ放題飲み放題は当たり前、各国の料理にくわえてデザートまで味わえるんだから。」
「まあ、それはそうな。」
「とりあえず取ってしまう、パスタや焼きそばなどの麺類。ご飯をかっこむのに適したプルコギや麻婆豆腐などの味の濃い料理。そしてラーメンやうどんまで自分で作ることが出来る。これをアトラクションと呼ばずしてなんと呼ぶの。」
「ごめん。」
勇樹と陽介は二人して謝った。
「まあ一度戦場に飛び込めば、僕も二人もいわば戦友。絶対に戦い抜こう!」
そして、英一は拳を空高く突き上げた。
「とりあえず、外で遊んだのは正解だよね?」
「ああ、英一のこんな面が見れたんだ。陽介の選択は正しかったよ。」
意気揚々とお皿を取りに向かう英一の後ろ姿を、二人は苦笑いしながら見つめた。

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