死角

初芝に誘われた高森は、休日を利用して珍しく、都会から離れた自然豊かな場所に来ていた。
「こんなところでできんの?」
「うん。というか正確には、こういうところじゃなきゃ出来ないんだよ。」
「まあ、そうか。」
「じゃあとりあえず、受付だけ済ませちゃおうぜ。」
初芝に言われるまま、受付を済ませた高森は、準備を始めることにした。
「サバゲーは初めてなんだよな。」
「うん。」
「知ってはいるんだっけ。」
「まあ名前くらいは。」
「ルールはこの前説明したとおりだから、まあとりあえずやってみようぜ。」
「おお。でも、初芝にこんな趣味があったなんて意外だったよ。」
「俺も始めは友達に誘われて始めたんだけどさ、やってくうちにどんどんはまってっちゃって、今じゃそいつよりもよくやってるのよ。」
「へえ。」
「まあ今日はとりあえず一式レンタルしたし、もし何回かやったりして楽しくなったら買えばいいから。」
「わかった。」
 そして二人は、戦場へと向かっていった。

「どうだった?」
 ひとしきりやり終えた二人は、着替えを済ませ会場を出ると、少し離れたところにあったレストランに来ていた。
「正直……めちゃくちゃ楽しかった。」
「だろ?そうなんだよ。」
「話で聞いてるだけだと、それでも遊びの延長じゃないの、なんて思ってたところもあったんだけど、これはただの遊びじゃないね。」
「そうなんだよ。わかってるねえ。」
 初芝はまんざらでもない顔を浮かべた。
「本当はな、照井も誘いたかったんだけど、子供出来たばっかりで新しく始めてみないか、とは言いづらくてさ、それでこの前会った時は黙ってたんだよ。」
「ああ、そういうことだったのか。」
「まあな、嫌らしい話、これもはまり出すと結構お金かかるしな。」
 初芝はしみじみとそういった。
「映画とかの感覚だったからさ、こんなに当たらないんだ、って思ったよ。」
「そうなんだよ。初めの頃は特にな。だからああいうので一発で決めたり、ゾンビゲームとかでヘッドショット決めてるの見たりすると、そんな簡単じゃねえだろ、って思っちゃうのよ。」
「意外と障害物も邪魔だったりね。」
「そうそう。あ、それこそ知ってるか。死角って言葉あるだろ。見えない部分とかの意味での死角。」
「うん。」
「あれは元々、鉄砲の射程距離なのに障害物とかのせいで射撃できない範囲のことを言うんだよ。」
「あ、そうなんだ。それは知らなかったわ。」
「だろ。まあこうやって、普段やらないことをやってみると知らない世界が見えてくるってわけよ。」
「おお……」
「なんだよ。」
「なんか、カッコつけたなって。」
「そんな言い方すんなよ。」
「いやでも、今のはよかったよ。」
「おお、それならよかったわ。お前んとこの作家先生も、もし悩んでたりしたらこういう新しいとこに連れてってやると、いい気分転換になって今までにないアイデアも出てくるかもしんないぞ。」
「いやでも、先生も新婚だから。」
「おお、そういやそうだったな。」
 二人は水を飲みながら窓の外を眺めた。
「結婚か。」
「うん、結婚よ。」
「まあ、なるようにしかなんないな。」
「そりゃあそうよ。」
「辛気臭い話はやめだ。酒飲むぞ。」
「まだこんな明るいのに。」
「明るいうちに飲むからうまいんだよ。」
 そう言うと初芝は、二人分の生ビールを注文した。

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