キツツキ

「ういっす。」
「おお、ういっす。」
「ああ、眠い。」
 敦は席に着くなり、大きな欠伸をしながらそう言った。
「あれ、夜勤明けだっけ?」
「そうそう。まあでも今夜はバイト休みだから、帰ったら寝るわ。」
「そっか。」
「はい、じゃあこれ。」
 そういうと敦はカバンから紙っぺらを出してきた。
「おお、ありがとう。」
 そう言うと、光一は敦から渡された紙を受け取り、その紙に目を通し始めた。
 眠気を忘れようとコーヒーを飲む敦。黙々と読み進める光一。
 目を通し終わったのか、光一はその紙をテーブルの上に置いた。
「うん、いいんじゃないかな。」
「お、マジか。」
「この前のダメ出しで言われた部分も、敦なりにいい感じになってきてるし。」
「おお、それならよかったわ。」
「この前やった感じ、まあまだネタは荒いけど、このパッケージはもしかしたらいいんじゃないかな、って思えたし。」
「まあお客さんの評判も良かったしな。」
「そうそう。だって、根本をダメだ、って言われたわけでもなかったでしょ。」
「そうな。第一声が、荒い、だったからな。」
 敦は笑いながらそう言った。
「うん、せっかくだし、三日後のライブはこれでいってみようよ。」
「そうだな。光もそう言ってくれるならそうしよう。」
 とりあえず新ネタができたことに安堵する二人。
「まあ、練習はこの後するとして、最近は何かあったりした?」
「最近かあ。」
 光一もメインでネタを書いているわけではないが、携帯のメモを見返した。
「そうねー……ああ、そうだそうだ。」
「お、何?」
「この前動物の特集やってたから見てたんだけどさ。」
「うん。」
「キツツキっているじゃん。」
「おお、あの鳥のな。」
「そうそう。なんかそのキツツキ見てて思ったのが、キツツキってめっちゃ木つつくじゃん?」
「そりゃあな。」
「で、めっちゃ頭振ってるから、どんどん頭おかしくなってるんじゃないか、みたいな学説があるらしいのよ。」
「なるほどな。まあ確かに、バンギャよりも振ってるもんな。」
 光一は笑った。
「で、思ったことがありまして。」
「ほお、何でしょうか。」
「キツツキは頭を振ってるから頭がおかしくなったのか、それとも元々頭がおかしいから頭を振ってて、さらに拍車をかけてるのか、って言うね。」
「はあ、なるほどね。あれだ、鶏が先か、卵が先か、みたいなやつだ。」
「そうそう。どうかね?」
「うん、広げ方次第だけど、まあ最近のネタのテイスト的にも意外といいんじゃないかな。」
「だよね。俺もそんな気したのよ。」
「よし、じゃあ書いてみるわ。」
「お願いします。」
「そしたらネタ合わせの予定とライブの確認だけして、公園行きますか。」
「ういっす。」

 同期だけで何百人といる世界。上にも下にも同じ志を持った人間が腐るほどいる。
 その中で輝くのは誰か。

「よし、じゃあ練習しよか。」
「おっけ。じゃあ時間計ります。よーい……」
「「どうもー。」」
「光と敦で、セッサタクマです。お願いします。」

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