リュックサック

学校毎により様々な校則があり、服装などについてもルールが異なるものである。
昔であれば男子学生はこう、女子学生はこう、という明確な決まりがあったが、昨今では多様性という観点から様々な点に留意しており、例えば学校によっては女子生徒がスカートやスラックスを選択出来るような場所もあるらしい。
しかし、そういった多様性に留意する学校もある一方で、それなりの決まりがある学校ももちろんある。
それが悪いと誰が言えよう。
そんな学校の校則やルール、制服のカッコ良さや可愛さに惹かれてその学校を選択した者も一定数いるからだ。
例えば、私服の学校に憧れる者がいれば、その一方で、ファッションには疎かったり、自信がないからこそ、制服で良かったと思う者もいる。
こればかりは何が正解とは言い難いわけだ。

レクリエーションという名の遠足イベントが近づいてきた今日この頃。歴史ある伝統行事ということもあり、学校中が浮き足立っていた。
そしてここにも、浮き足立つ者たちが……

「どんな格好で行ったらいいんだ。」
珍しいことに、勇樹は分かりやすく頭を抱えながらそうこぼした。
「どうしたの?」
そんな勇樹の姿を見た英一は、勇樹の席の方までやってくると声をかけた。
「ああ、九十九っち。大丈夫、いつものことだから。」
陽介がそうフォローした。
「いつものこと?いやでも、普段こんな姿してるの見たことないけど。」
「ほら、そろそろレクリエーションが近づいてきたでしょ?」
「ああ、そうだね。」
「といっても実質レクリエーションという名のハイキング。自然の中で過ごしましょう、みたいなイベントでしょ?」
「そうだね。でも山登りとかならあれだけど、それならなおのこと格好なんてあんまり気にしなくていい気がするんだけど。」
「じゃあ、どんな服を着てくんだよ!」
勇樹が急に大きな声で割って入った。
「え、いや、普通に私服でいいんじゃないかな?」
「そうなるだろ……」
勇樹はまた俯いた。
「え、どうしたの?」
「まっつんは、ダサいんだ。」
 なかなかにズバリというものだ。
「ああ、そういうこと?」
「そういうこと。」
「なるほど、それで悩んでたのね。」
「そうだよ。どんな服を着ていけばいいのか、どんなバッグで行けばいいのか、もう分からんだろ。」
「分からないというか、そんな気にしないでもいい気がするけど。」
「例えばだ、全身黒い服で、黒いリュックサック背負ってきたら、どうだ?」
「まあ、黒にもよるけど、おお、とはなるかなあ。」
「あ、九十九っち。」
陽介はまずそうな顔をした。
「そうだよな……」
露骨に落ち込む勇樹。
「ああ……じゃ、じゃあさ、今週末、買いに行こうよ。」
「買いに?」
「そうそう。何もそんな高い服買おうってわけじゃないけど、ね。」
「ああ……」
「僕、こう見えて意外と服好きだし、そうだ、僕の彼女にも聞いてみるよ。彼女、すごいオシャレなんだ。」
陽介もここぞとばかりに手を叩く。
「そりゃあいいね。女の子の意見取り入れたらもっと良くなるよ。」
「ね、そうだよね。」
二人はなるべく大きな声で笑いあった。
「本当か?」
「うん、もちろん。」
「大丈夫だって。」
「じゃあ、よろしく頼む。」
珍しく頭を下げる勇樹の姿に、二人はビックリして何も言えなくなるのだった。

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