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御話

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お話を考えるのが好きです。 不定期であげると思います。
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#亜人

アリ、時々キリギリス 雨の街編 -伍-

前回まで。

 集合場所の街の入り口に向かうと、そこにはすでに何人かの亜人がいた。
「ここでいいんだよな。」
「多分ね。」
 カクリは辺りを見回す。
「他にも何人かいるって言ってたから、多分みんなそうなんだよ。」
「なるほどな。色んなやつがいるもんだ。」
「そうだね。後で自己紹介しないと。」
「随分丁寧なこった。どんな奴らかわかったもんじゃないぞ。」
「僕たちだってフリーパスなんだよ。周りだって僕

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アリ、時々キリギリス 雨の街編 -陸-

前回まで。

 農家の朝は早いという話を聞くが、次の日、皆が食卓を囲んだのは、日が出てすぐのことだった。
「テト、おはよう。」
 カクリは眠い目をこすりながらテトに声をかけた。
「ん……」
 普段これほどまでに早起きをすることなどないテトは、昨夜の長時間の移動と、夕食後の演奏もあったのだろう、ほとんど声にならない声で反応した。
「皆様、おはようございます。朝食が終わりましたら、本日から作業のほど、

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アリ、時々キリギリス 雨の街編 -漆-

前回まで。

 カクリとテトの二人にとっては想定外の事態となったが、これも旅の醍醐味だと割り切ることにした。
 夕食を食べ終わってから寝るまでのこの時間が、数少ない息抜きの時間であった。といっても知っての通り、辺りは一面田んぼ。これと言った娯楽もないため、部屋に戻って寝るか、ともにこの仕事に従事している者たちと語らうかくらいしかやることがなかった。
 初日の夜の様に、宴でも開かれればいいものだが、

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アリ、時々キリギリス 雨の街編 -捌-

前回まで。

 次の日ももちろん、太陽が顔を出すころには皆布団から出なければならなかった。
 昨日の宴が遅くまで盛り上がったこともあり、朝食を食べる手はあまり進まず、せっかく昨晩は一緒になって盛り上がったというのに、顔を見合わせても挨拶を交わすことすらほとんどなかった。
 今日はいつもと違って、宿の前ではなく裏手にある倉庫での集合だったため、各々準備を済ませると、眠い目をこすりながら倉庫へと向かっ

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