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美術展めぐり

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実際に足を運んで見に行った美術展の感想を書き留めています。
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#美術展

今年は「あいトリ」と呼ばないで( その1)

あいちトリエンナーレあらため、「国際芸術祭あいち」として再出発した芸術祭は、夏の暑い真っ盛り、7月30日に開幕。会場は本拠地となる愛知県美術館をはじめ、一宮市、常滑市、有松(名古屋市内)など郊外の街に3箇所。今回のテイストはどんな味付けになるかとドキドキしながら、まずは本丸の愛知県美術館へ乗り込んだ。 さすがは本丸、展示のボリュームが半端ない。一度に見きれないので、10階フロアと8階フロア、別々の日に見に行った。今回はまず玄関口ともいえる10階の展示の紹介&感想から。 1

マジックアワーにしか見えないもの

昼と夜の境目、夕暮れ時を表す日本語に「逢魔が時」「誰そ彼時」など、異界との遭遇を思わせる表現があるように、英語でも光と闇が入れ替わる時間帯をマジックアワーというそうだ。このマジックアワーにフォーカスをあてたのが豊田市美術館で開催中の展覧会「サンセット/サンライズ」だ。 最近、仕事で忙殺されて心身ともに余裕がなくなっていたので、リフレッシュできればいいな、くらいの心持ちで出かけてみた。 章立ては以下の通り。第1章を除いては「闇と光」から派生するテーマで統一され、それぞれのテー

廃校になった校舎はそれだけでアート作品

2019年に、旧名古屋工業技術試験所瀬戸分室で開催された「瀬戸現代美術展」に続編が生まれた。タイトルは「瀬戸現代美術展2022 プレエキシビジョン」。場所は2年前に廃校となった旧祖母懐小学校。参加しているのは瀬戸を拠点に活動する作家5名。校舎で展示するということで、今回は子どもたちとのワークショップで生まれた作品が多かった。 旧祖母懐小学校は約100年の歴史を持つ学校で、設立は大正5年(1916年)。 瀬戸の中心部を学区に持ち、窯業で羽振りが良かった頃は児童数も多かったが、

呼んでくれる人がいるから作りに行く

つい先日――3月13日まで愛知県美術館で開催中だった「ミニマル/コンセプチュアル」展は、会期終了直前に駆け込み、なんとか内容を頭に詰め込むことのできた展覧会だった。 コンセプチュアル・アートやミニマル・アートと呼ばれる分野の作品は、最初にアイデアありきで、作品を見て感じることと同じくらい、なぜそれが作られたのかを知ることが重要になる。 ミニマル・アートというのは、1960年代のアメリカで生まれた美術の潮流のひとつで、あえて工業製品や既製品を使い、展示も指示書に基づいて職人

パンとごはん、どちらがお好み?

つい昨日のこと、ツイッターでこんな情報を拾いまして。 アンデゴハンダン? なにそれ美味しいの? と不思議に思いつつリンク先の記事を見たら、元ネタはパリで始まった「アンデパンダン展」だという。それを主催者である長久手文化の家がアレンジして、パンがゴハンになったというわけ。 基本、長久手市に在住・在勤・在学していれば参加資格があるという。その他は年齢や技量やテーマは関係ない。格闘技で言えば無差別級か。それが一体どんな印象の展覧会になるのか興味がわいて見に行ってみた。 出展作

「旅館アポリア」ふたたび

2019年のあいちトリエンナーレでは、メイン会場となる愛知県美術館のほか、「まちなか会場」として円頓寺商店街や豊田市街などが登場した。特に豊田会場には優れた作品が多く、その中でも白眉だったのが、かつての料理旅館「喜楽亭」を舞台にしたホー・ツーニェン作品《旅館アポリア》。これは自分の感覚だけでなく、絶賛する人を多く見かけたので、間違いないと思う。 《旅館アポリア》は、映像と音響をメインとするインスタレーションで、12分のエピソード7つでひとつの作品を構成する。喜楽亭の各部屋に

テーブルウェアから世相が見える

今年最初の美術館は、愛知県陶磁美術館。「昭和レトロモダン~洋食器とデザイン画」に足を運んだ。 戦後の日本を代表する洋食器メーカーといえばノリタケが有名だけれども、戦後から高度経済成長期にかけては中小規模の製陶所も活躍した。この美術展では、愛知を拠点に活躍した鳴海製陶や三郷陶器、岐阜のヤマカ製陶所などが手掛けた独自のデザインを特集しており、昭和30~40年代の洋食器が紹介されている。 洋食器といえば、もともとは欧米向けの輸出品として生産されてきた歴史があり、デザインも欧米で

2021年のアート鑑賞まとめ

あっという間に年末が来て、ツイッターなどでは今年の振り返りがあちこちで見られる。主に印象に残った映画や本、コンサートの話題が多い。ここはアートの話をメインでする場所なので、今年見に行った展覧会のまとめをしてみようと思う。今年はなぜかあまり見に行けず、しかも記録に残しそこねたものもいくつかあるので、それらを時系列順に拾いながらまとめてみる。 バンクシー展 天才か反逆者か(旧名古屋ボストン美術館) ジブリの大博覧会~ジブリパーク、開園まであと1年。~(愛知県美術館) 「とけ

闇と光のあわいで跋扈する者達

久しぶりの豊田市美術館は、ホー・ツーニェン「百鬼夜行」展。妖怪をテーマにした独自の映像作品を堪能することができた。 ホー・ツーニェンの作品に接するのは2回目。1回目の出会いは2019年の愛知トリエンナーレ豊田会場だった。豊田市内の旧旅館「喜楽亭」にて「旅館アポリア」が展示(上映)されていたのだ。かつて旅館として使われていた建物まるっと1棟が映像インスタレーションの舞台となっていた。短編映画のような作品の連作で構成され、音と映像の洪水に圧倒されたのを覚えている。あれは「鑑賞」

ほんのり金木犀の香りに包まれて― iichiko DESIGN 展

緊急事態宣言解除で何が嬉しいって、閉鎖していた各地の美術館や図書館が復活したこと。うっかり9月に出かけて(緊急事態宣言による)臨時休館を知り、涙をのんで帰ってきたはるひ美術館。月が変わったのでリベンジしに行ってきた。 見に行ったのは焼酎「いいちこ」の歴代ポスターや雑誌宣伝を一堂に見学することのできる「iichiko DESIGN 」展。河北秀也氏の監修によるこのポスターの歴史は長く、1984年からずっと続いている。通勤や通学の途中、地下鉄の駅に時々現れる「いいちこ」のポスタ

バンクシーはバンクシーでしかなく

5月の連休に入る直前、友人に誘われて名古屋で開催中のバンクシー展へ行ってきた。場所は元ボストン美術館(こんな形で再利用されるとはね)。 オークションで作品が競り落とされた直後にその作品をシュレッダーにかけるなど、何かと話題にのぼるバンクシーは、メインの活動場所がストリートでありながら有名になりすぎた感があって、本人の意図はともかく周囲がちやほやし過ぎだと思い、あまり興味はなかったのだが、勉強のうちだと思って見てきた。 残念ながらストリート系のアートや音楽に疎いので、あまり

2020年ふりかえり

ここは美術館探訪記事がメインなので、振り返りとして昨年訪れた美術展をまとめてみようと思う。まずは時系列順&ベタ打ちで。トータル15件。外出自粛のご時世でありながらよく出かけたものだと思う。もっとも、美術館はあまり密ではないし、そもそも換気が行き届いているし、喋らず静かに鑑賞できるので、リスクが低い。 岡崎乾二郎展(豊田市美術館 2回め) 石上久美子染色展(瀬戸市美術館) コートルード美術館展(愛知県美術館) 久門 剛史「らせんの練習」(豊田市美術館) 〈異才 辻晉堂の陶彫「

印象派勢ぞろい

今回は愛知県美術館で開催中のコートルード美術館展の感想です。 年明け最初の美術展めぐりは、見た目に華やかなコートルード美術館展から。現代美術を見慣れてくると、印象派の絵画=目の保養、という気持ちになるし、実際美しい絵が多いのだが、風景や風俗をテーマに取り上げたり、戸外制作を行ったり、新しい技法に取り組むなど、当時の美術の流れにおいては、非常に挑戦的な試みが行われていたことは間違いない。 展示の構成は次の通り。 第1章 画家の言葉から読み解く 第2章 時代背景から読み解く

買い物の途中で宇宙に出会った話

まさかこんな身近で素敵な作品に出合えるとは思ってもいなかった。 近所のスーパーからの帰り道で、たまたま瀬戸市の美術館の前を通った。普段は陶磁器メインの展示をしている小さな美術館だが、この時のポスターはいつもと趣が違っていた。 現代絵画? と思ったら染色だという。染色作品は分野的には工芸作品なのだが、はてさて? とにかく色使いや雰囲気がとても気になる。今までの経験上、こういう時の「気になる」はあまりハズレがない。 買い物から数日後、美術館に立ち寄った。一階は所蔵作品展とい