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『逆光記』〜京都に降り立ったみーこ〜

 みーこ。例えば、1970年代の尾道の浜辺でたばこをふかしているみーこ。或いは、五重塔の下で猫に煎餅をくれているみーこ。はたまた、楽器隊を背にGOGOダンスを踊るみーこ。そして、須藤蓮監督が持ち歩くトートバッグにいるみーこ。さらには六曜社珈琲店に点在するみーこ。

 そんなみーこ役の木越明さんが京都へやってきた。目的はGOGOパーティーである。映画『逆光』が背景としている時代が持つ空気感を、現代の京都で再現するという特別な催しのスペシャルゲストとしてやってきたのだ。みーこそのままの格好でステージに登り、躍り狂う若者に囲まれながらライトを全身に浴び、しなやかなGOGOダンスを踊るみーこが、ぼくの目の前に、手の届く場所にいる。目を離すとどこかへ消えてしまいそうな(蓮さんの言葉)みーこは、スクリーンの中でしか会うことができないのだと思っていた。それはぼくの中で、みーこがみーこであるためのある種の条件のようなもので、だからこそ、映画のキャラクターとしてしか存在するはずのないみーこの存在がリアルに感じられるというのは、なんとも不思議な感覚だった。

 GOGOパーティーの翌日、夜の上映後に、みーここと木越さんが舞台挨拶をする予定があった。ただ、それまでは時間があるそうなので、『逆光』若者隊のぼく・ユキカゲ・カナタの3人で京都を案内することにした。午前中は、ぼくら3人でGOGOパーティーの借り物(ステージ用のビール箱やミラーボール、照射器、工具など)を手分けしながら返し、喫茶ゴゴにて木越さんを待つ。

 クリームソーダを飲んでいると喫茶ゴゴに木越さんがやってくる。この日はみーこではなく、木越明さんだった。みんなでそれぞれのドリンクを飲み終え、うちのビッグ・ボスである蓮さんのおもしろい話に花を咲かせたところで、かもがわを南下しながら、某かもがわカフェに向かう。ぼくは京都でランチのおすすめを聞かれると、とりあえずかもカフェを推奨することにしている。美味しい料理。文化的で落ち着く空間。マスターである大輔さんとの会話。これがぼくがかもカフェを推す理由である。そこで食事を終え、国田屋酒店にてそれぞれ缶ビールをげっとした僕らは、酒とたばこを両手に、気持ちの良い天気の中、健全に出町座へと向かった。そこで監督・須藤蓮さんと脚本・渡辺あやさんの舞台挨拶を聞き、いろいろ思うこともありながら、上映後の交流を終える。ちなみにぼくは、この時ようやく、蓮さん・あやさん・明さん、3人のサインをパンフレットにもらうことができたというのは余談である。

 夕方になる。明さんを六曜社珈琲店へと案内する。出町座から三条河原町へ向かうバスを降りる際、京都のバスのシステムが少々特殊であることを伝え忘れ、明さんはお釣りが出ないことを知らず、230円の運賃に対して500円玉を入れた。運良く、やさしい運転手さんだったため、お釣りを出してくれたのだが、延々と10円玉が出てくる。そして明さんは両手で10円玉を持ちながら、なんともいえぬ表情でバスを降りてくる。これはThe『逆光』的なエピソードだ。

 六曜社珈琲店にて、マスターの董平にご挨拶をして、軽食とアイスコーヒーを注文し、灰皿に描かれたみーこの横顔に申し訳なく思いつつたばこの火を消させていただく。そしてぼくの横にはみーこ本人が座っているのだ。ポスターに描かれた蓮さんが目の前にいるあれと同じ類の感覚である。ああ、不思議だ不思議だ。



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