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トラウマについて~その②:トラウマの症状とは?

トラウマには症状があります。

「それって、当たり前じゃないの?」
「トラウマって、そういうものでしょ?」

トラウマっていうと、原因となった出来事があって、そのことで苦しくなったり怖くなったり…。

これが、トラウマについて私たちが持つ一般的な認識だと思います。

でも、これはトラウマの症状の一部です。

ですが、トラウマの症状とはもっと幅広く、私たちが気づかないところで色な形で表に出ています。

本稿では、『トラウマの症状について』論を進めていきたいと思います。


トラウマとは

トラウマとは『時間が経っても消えない心の傷(出来事の影響)によって、辛い記憶や感情に苦しんだり、振り回されること(症状)が続いた状態』です。

では私たちは、どのような形で辛い記憶や感情に苦しみ、振り回された状態に陥ってしまうのでしょうか?

カギとなるのは、①フラッシュバック、②緊張・過覚醒、③回避・麻痺、④否定的自己認知と気分の陰性化——の4つです。

これら4つが、トラウマの主な症状として挙げられています。

以下より、1つずつ解説していきたいと思います。

①フラッシュバック

侵入性回想体験とも呼ばれ、過去の辛い出来事の記憶やそれにまつわる感情、感覚が突然思い出されるものです。

ただ思い出すのではなく、今まさに同じ出来事を再び体験しているかのような生々しさと鮮明さがあります。

フラッシュバックというと、ドラマや映画でも描かれるように、映像で過去のシーンがリアルに思い起こされるものが一般的に知られているものかと思います。

しかし、フラッシュバックは必ずしも映像を伴うわけではありません。

いくつかタイプがあり、

  1. 映像を伴うもの

  2. 感情のみが生じるもの

  3. 言語性のもの

  4. 行動レベルで生じるもの

  5. 身体症状として生じるもの

とタイプがあります。

1.~5.のうち、どれか1つが生じる場合もありますし、いくつかが同時に起こることもあります。

例えば、特に辛いことがあったわけでもないのに、理由もわからないのけど涙が止まらない。自分でも、腹を立てるようなことじゃないとわかっているのに怒りが止まらない――といったものは、感情のフラッシュバックが背景にあることがあります。

カウンセリングを初めて受けた時、聞いてもらえて楽になった、話せて良かったと思うどころか、逆に苦しくなってしまった経験がある方もいるかもしれません。これは、感情のフラッシュバックが関係していることが多いと思われます。

また、昔あった嫌なこと(自分が加害相手から言われたこと)を再現するかのように、自分が言われた嫌なセリフを友人やパートナー、子どもに対して言ってしまっていたりすることがあります。

これは言語性のフラッシュバックで、特に虐め被害を経験した自閉症やIQのハンディキャップを抱えた方が、当とあるきっかけで当時の被害体験が頭の中で再生状態となり、自分が言われていた悪口や暴言を連呼し続けてしまうことがよく見られます。

また、言語性のフラッシュバックは幻聴の形を取ることもあります。
こちらは統合失調症の幻聴との違いを見極めることが重要になります。

突然の暴力の背景に過去の暴力被害が関係していて、自分が暴力を振るうことで、過去の被害-加害状況の再現が生じたり。自ら危険な場所へ足を運んでしまうことなども、行動レベルで起きるフラッシュバックが背景にあることがあります。

また、原因不明の線維筋痛症(身体の痛みを中心としたもの)が、実は身体症状として生じるフラッシュバックである場合があります。
これは、心の痛みが身体の痛みとして現れている場合もありますし、実際に受けた身体の痛みが今になって表出している場合もあります。

このように、1.の映像を伴うフラッシュバックであれば、それがフラッシュバックであると認識することは難しくありません。

しかし、2.~5.のフラッシュバックは必ずしも映像を伴わないため、それがフラッシュバックだと本人も認識できない場合がほとんどです。

実際のところは症状に振り回されている状態であるにも関わらず、当の本人にはその自覚がないことが多いため、自分の性格のせいにしてしいたり、周りから後ろ指をさされることになってしまっている場合少なくないようです。これは、④の否定的自己認知と気分の陰性化にもつながってくるものだと思います。

そのため、トラウマの治療では自分の心と身体に何が起きているのか?を知ることが重要となります。

それが症状であると知ることでショックを受ける方も多いですが、なぜ自分がそのような行動をとってしまうのか、どうしてあんなにも感情が溢れてしまうのかの理由を知ることで安心する方もいます。

多くの方が、症状だけでなく『自分に何が起きているのかがわからない不安』を抱えているため、これがわかるだけでも助けになることも多いです。

②緊張・過覚醒

常に気を張った状態で警戒心が強くなり、緊張が取れない。

音に敏感になり、今まで全く気にも留めていなかった些細な出来事に不安を感じたり、イライラするようになる。

なかなか眠れない。入眠はできても、すぐに目が覚めてしまうといった睡眠障がいが生じることも。

頻繁に見る悪夢や中途覚醒(途中で目が覚めてしまう)は過覚醒状態によるものです。

緊張・過覚醒は、神経がとにかく過敏な状態で、普段であれば何ともないようなことでも気分の上下や浮き沈みが生じたり、気が休まらない状態と理解していただくと良いかもしれません。

③回避・麻痺

心の傷の原因となった出来事に関係する人や場面を避けるようになる。

原因となった出来事について考えたり、話題にしたり、感じることを避ける。避けようとするなりふり構わない努力などが、回避症状には含まれます。

また、感情や感覚が麻痺して何も感じない、考えようとしても考えられない。考えがまとまらない。

自分が自分でないような感覚がする。自分のことなんだけど他人事のように感じる。現実感がなくなるなどの離人感や現実喪失感が、麻痺症状として挙げられます。

④否定的自己認知と気分の陰性化

「全部自分のせい」「自分は価値のない人間だ」といった自分自身に対する否定的な認知が生じたり、不利な状況から逃げられなかったり、屈してしまったことへの罪悪感や恥辱感が生じることもあります。

また、自分は被害を負ったわけではなくても、身近な他の人の苦しみを防げなかったことに対して自分を責め続けてしまう――といったこともここには含まれます。

あまりの出来事に、自分が世界に一人取り残されたかのような感覚に陥ったり、自分が世界から一人だけズレてしまい、あたかも違う世界を生きているような感覚に陥ってしまうと訴える方もいます。

こうした状態に伴って、抑うつ感情や悲しみ、怒りの感情が慢性化することもあります。

心のケガという視点

以上4つがトラウマの主な症状ですが、トラウマの原因と見なされる出来事があって、①~④の症状が1か月以内に消失するものを精神医学上は『急性ストレス障がい』1か月以上持続するものが『PTSD』と診断されることになります。

また、PTSDの診断基準を満たしていなくても①~④の症状が存在する場合もあります。

そのため、治療・支援ではその人がPTSDであるか以上に、どのような症状が存在していて、現実的にどういった支障や問題が生じているのかに焦点が当てられていくことになります。

このように、トラウマの症状は普段私たちが何となく理解しているものに比べて範囲が広く「えっ!? これもトラウマの症状なの!?」と思われたものもあったかもしれません。

『不安障がい』や『パニック障がい』、難治性の『うつ』の背景にトラウマの症状が隠れていることも多い印象です。

最近は学校教育の現場で『発達』の視点が積極的に導入されるようになり、これまで支援やサポートを必要としていたけれども見過ごされてきた子どもたちが、早い段階で必要な支援が受けられるようになってきました。

それと同じように『トラウマ』の視点も、もっと広がるといいなと思います。

ただ、『トラウマ』というコトバは誤解も生みやすいので、『心のケガ』というコトバに置き換えたほうが良いかもしれません。

心も身体と同じようにケガをする。

「心もケガをすると、こうした症状が出るから、それに基づいた理解やケアをしていこう」

そんな機会や場が当たり前のものになっていくといいなと、そう思います。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。








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