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トラウマについて~その③:心と身体に起きていること

トラウマには症状があります。

  1. フラッシュバック

  2. 緊張・過覚醒

  3. 回避・麻痺

  4. 否定的自己認知と気分の陰性化

の4つが主な症状ですが、トラウマの症状は心だけでなく身体にも起こっています。

トラウマの症状には、生理学的な基盤があります。

本稿では、トラウマによって私たちの身体に何が起きているのか?について綴っていきたいと思います。

症状の脳科学的メカニズム

普段、私たちの脳は出来事や状況についての情報を、2つの経路を通して処理していると言われています。

1つは、理性的な判断を行う経路。
もう1つは、感情(情動)的重要性に基づいた判断・解釈が行われる経路です。

前者は『理性脳』、後者は『情動脳』と便宜的に呼ばれています。

『理性脳』は意識や思考を介して、出来事や状況の分析を行います。

『情動脳』は、その出来事が脅威か否かの判断を直感的・感覚的に行います。

『情動脳』には扁桃体と呼ばれる器官があります。

扁桃体は入ってくる情報が生命の維持に関係があるかどうかを判断する警報装置の役割を果たしています。

通常は『理性脳』と『情動脳』のバランスは保たれています。

警報装置である扁桃体の判断は、『理性脳』の分析フィルターがかかることで、それが本当に警戒すべきことか否かの判定を行っていると言われています。

この、『理性脳』と『情動脳』の情報伝達のスピードには誤差があり、『情動脳』の経路は『理性脳』に比べ数ミリ秒早く情報が伝わります。

例えば、突然目の前にボールが飛んできた時にとっさ頭を手で守った(考える前に身体が動いた)などは、『情動脳』からの情報が『理性脳』よりも早く伝わった結果と言えます。

これは、緊急時に必要な生命維持機構です。
なぜなら、『理性脳』の判断を待っていては咄嗟の脅威に対応できないからです。

しかし、PTSDクラスの圧倒的なインパクトのある出来事を体験すると、『情動脳』の警報装置が誤作動を起こすようになります。

そして『情動脳』の情報圧力によって、『理性脳』は判断する力を失ってしまい、危険なこととそうでないことの区別がつかなくなります。

こうして、警報装置が鳴りやまない状態に陥ることで、本来は危険でない些細なことでも危険と判断し、警戒状態が解けなくなります。

こうして身の回りの些細な出来事が引き金となって、外傷記憶や出来事にまつわる感情が溢れてくる状態が 1.のフラッシュバックです。

そして警報装置が鳴りやまず、警戒状態が解けなかったり、刺激に反応しやすい(過敏な)状態が 2.の緊張・過覚醒です。

さらに、こうした緊張・警戒状態がピークを越えると、警報装置そのものが鳴らなくなることもあります。

場合によっては、あまりのインパクトに最初から警報装置が機能停止し、理性的な判断は完全に停止して凍り付いた状態が生じることもあります。

これは、『理性脳』と『情動脳』の双方が機能停止に陥ってしまった状態で、3.の回避・麻痺に相当します。

こうしたメカニズムを、私たちは知る由もありません。
そのため、自分の身に起きていることを認識することができず、誤解から 4.の否定的自己認知が生まれます。

そして、否定的自己認知や脳の機能停止(低下)が気分の陰性化を生む――といった悪循環をもたらします。

そのため、トラウマからの回復のためには

  1. 『理性脳』の働きを強化して『情動脳』の過覚醒を鎮めていくこと

  2. 『情動脳』の過覚醒を鎮め、『理性脳』の機能を回復させる方法

のいづれかが必要となります。

 1. はトップダウン型のアプローチ、2. はボトムアップ型のアプローチと呼ばれています。

(※理性脳、情動脳という表現は厳密には不正確なのですが、ここではわかりやすさを優先してこのような表現を用いています)

そして、トラウマの症状は脳だけでなく、自律神経系の症状としても生じています。

トラウマと神経系の関連については、いづれ記事にしていく予定です。


次稿からは、トラウマの治療について投稿していきたいと思います。

トップダウン型のアプローチ、ボトムアップ型のアプローチにも触れていきます。





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