ニューヨーカーの「粋」は、オイスターバーにあり! 2020/1/21

ニューヨークの冬はオイスターの季節です。

ブルックリンの街にもオイスターバーを見かけますが、この地域で最も有名な ”Maison Premiere”に行ってきました。2011年にオープンして以来、アメリカ中から仕入れる30種類以上の質の高い牡蠣が食べられるとして、The NewYork Timesを始め数々のメディアに取り上げられてきた有名店です。

 ニューヨークに引っ越した直後に一度きて再訪したかったのですが、なかなか良いお値段。しかし平日の夕方と週末の昼間はハッピーアワーで、通常1個当たり約2.5~3.5$程する牡蠣がほぼ半額の値段で食べられるということで、日曜日のお昼に行ってきました。

画像1

(入り口にあるバーカウンター。NY、パリ、ニューオリンズなどのホテルからインスピレーションを得たというクラシックなインテリアの店内)

画像2

(店内のカウンターでは、2人のシェフがスピーディに牡蠣の殻をあけています。忙しい日は1日に1000個以上空け続けるとのこと!)

このお店、アメリカ南部のニューオリンズの伝統的なバーがコンセプトとのことで、店内を流れる曲は古いブルース。サービスマンはサスペンダーをつけ、ニューオリンズを知らない私でもかっこ良い街なんだろうなと思わせてくれる雰囲気のあるお店です。ドリンクの看板メニューであるニューオリンズの有名な薬草系リキュール、アブサンのカクテルメニューが豊富にありました。アブサンの種類は、全米でもトップクラスの品揃えだそう。

 そして、気になるワインリストはこちら。

画像3

(店内が暗いうえに文字が小さいため、皆、携帯のライトをつけて見ています)

店名が"Maison Premiere"とフランス語であることや、ニューオリンズがかつてフランス領だったことも関係しているのか、リストの8割以上がフランスワイン。この日の白ワインのバイザグラスのリストは、ロワールのミュスカデ、シュナンブラン、コルシカ島のヴェルメンティーノ、シャブリ...と教科書に出てきそうな牡蠣と相性が良い王道ラインナップ。私は唯一フランス産ではないオーストリアのJutta Ambrositsch という造り手のグリューナー・ヴェルトリーナーとリースリングなど白ブドウのブレンドを頼みました。

画像4

(この日、ハッピーアワーで食べられる牡蠣の種類は5種類。ホースラディッシュ(西洋わさび)、ケチャップ、ビネガー、ライムが添えられます)

爽やかで美味しく、オーダーした全体的にさっぱりした牡蠣と確かに合うのですが、グラスがAOCグラス。グラス1杯13ドル(約1500円くらい)なら、もう少し良いグラスで飲みたいなぁ...やっぱりここはアブサンカクテルが主流なのかしら....次のワインはどうしようかなぁ...なんて考えながら、ふと、カウンターの隣のお客さんを見ると、40代半ば程の体格の良い男性3人が2段のプレートにみっちりと並んだ牡蠣を豪快に食べながら、シャンパンをボトルで空けています。

 ※AOCグラスとは...

生産地によってぶどうの栽培環境や品種が違うため、INAO(国立原産地名称研究所)によって認定された国際規格のティスティング用グラス。ソムリエ試験でのグラスにも使用されています。コンパクトで万能ですが、万能ゆえに飲食店で使うにはちょっと物足りなさを感じるのが私の考えです。

 この日は、日曜日のお昼どき。頬にあたる風がキリッと冷たく寒いけれど、眩しいくらいの太陽が出て気持ちの良い休日。その3人はきっと仲の良い友人たちでしょうか。カウンターに座り山盛りの牡蠣とシャンパンをささっと平らげ、私がグラス1杯を大事に飲んでいる間に、あっという間に次のボトル、ミュスカデを頼んでいました。この空気って日本のオイスターバーでは味わえない雰囲気、一体何だろうこのかっこ良くて気持ちの良い感じ....。

 「東京のお鮨屋さんみたいだ!」

ワイン商社で働いていた時、お客さんである銀座の江戸前高級鮨屋の大将が言っていたことを思い出しました。「最近の鮨屋は一斉に同じ時間からおまかせコースで始まる店が多いけど、鮨ってのは、本来そういうもんじゃないんだよ。好きな時にきて、パパッと食べてパパッと帰ることができるのが鮨屋」 まさに、江戸の「粋」といわれるスタイルでしょう。そして、その感じが、今まさに隣で食べている男性達に当てはまる気がしました。天気の良い休日の昼間に、友人たち3人でオイスターバーへ来て、カウンターでシャンパンをさくっと空けて好きなだけ牡蠣を食べてささっと帰っていく。これぞ、ニューヨーカーの「粋」なのではないでしょうか。グラスの種類なんて関係ないぞと言わんばかりの豪快さに、目の前にあるAOCグラスが急に愛しく思えた私は、まだまだニューヨーカーの「粋」とは程遠いな、と、思い知らされたのでした。

※追記 2020年9月 こちらのMaison Premiereは、コロナ禍の影響で残念ながら閉店してしまいました。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?