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11 昼寝をしないためには、食事はゆっくり、野菜を先に。

「昼寝をしてしまったせいか、夜に眠れない」

「どうしても昼に眠ってしまう」

そんな体験をしたことがありませんか。夜以外で眠気が強くなるのは、なんといっても食後です。とくに昼食を摂ったあとはほとんどの人が、眠っていたり横になったりしています。むしろ、患者さんが身体を起こしているのを見ると、看護師が驚いてしまうくらいです。

食後に眠くなる理由には諸説ありますが、その中でも私が実際にやって効果を感じた「がまんしない昼寝の防止対策」について書いてみようと思います。

食事は野菜から、そしてゆっくり食べる

食べる順番を変えるだけで、食後の眠気を抑える方法があります。「ベジファースト」といって「野菜、きのこ類」「肉や魚」「パンやご飯」の順にゆっくり食べていきます。ここでいう野菜はおもに食物繊維が豊富な葉物野菜や海藻類を指します。同じ野菜でも、糖質が多く含まれている根菜類は肉や魚のあとに食べてください。なぜこの順番で食べるといいかの理由はあとで詳しく解説します。

だまされたと思ってこの食べ方を1週間だけ続けてください。そして、食後にどれだけ眠くなるかも確認してみてください。きっと効果が感じられるはずです。いくら簡単な方法でも、メリットを感じなければなかなか続けられません。しつこいようですが、読むだけでなく実際に試してみて、いつも押し寄せてくるあの強烈な眠気が少なくなったことを、ぜひ「実感」してみてください。

食物繊維を先にたくさん摂って、血糖値をコントロールする

食後に眠くなる原因の一つとして「血糖値の急上昇と急降下」が挙げられます。糖質をたくさん摂ると、血糖値が急に上がります。次に、この状態を抑えるために、膵臓からインスリンというホルモンが多量に分泌され、今度は血糖値が急に下がります。こうして、脳のエネルギー源であるブドウ糖が少なくなり、眠気を催すのです。

また、1998年に日本人によって発見されたオレキシンという脳内物質があります。これは、人が起きている状態を保つ働きをします。ところが、血糖値が上昇するとオレキシンの分泌が抑えられてしまいます。急上昇と急降下の両方が起きなくても、血糖値が上がるだけで眠気の原因になるのです。

ところが、ベジファーストを実践すると、糖質の多い「パンやご飯」が身体に入る前に、血糖値の上昇を抑える働きのある食物繊維を胃腸に入れておけます。「野菜、きのこ類」を先に食べるのはこのためです。これによって血糖値の上下が緩やかになり、眠気が抑えられるのです。

食物繊維や糖質をそれほど含んでいない「肉や魚」は中間に食べるのが良いでしょう。最近は「ミートファースト」という考え方もあります。「野菜、きのこ類」と「肉や魚」の順番はそれほど神経質にならなくても大丈夫です。私もベジファーストを心がけていますが、美味しそうな肉料理があれば冷めないうちにいただくこともあります。

こうしてみると、西洋料理のフルコースの順番は理にかなっていることがわかります。病院ではひとつのお膳にすべての食事が盛られていますが、フルコースだと思ってベジファーストの順番に食べてみましょう。

ほかに、食後に眠くなる原因のひとつに、自律神経の影響があります。食事を摂ると、消化を助けるため胃腸に血流が集中します。胃腸の動きが活発になると、副交感神経がよく働いて体がリラックスして眠くなります。胃腸の動きが穏やかになるように食べれば、これを防ぐことができます。そのためにも、食事は時間をかけてゆっくり摂るようにしましょう。

美味しい野菜を食べる。誰かと食べる。

仕事が忙しくて外食の多い人は、どうしても野菜の摂取が少なくなり、食事の時間も短くなりがちです。現役を引退した人も、多かれ少なかれ昔の食習慣を引きずっているものです。急にベジファーストと言われても、野菜はもともとそんなに食べてこなかったし、自分とは縁遠い話に感じてしまうのではないでしょうか。

そんな人には、美味しそうな野菜を探してみるのがおすすめです。たとえば、サラダを美味しく食べられるお店を選ぶのもいいかもしれません。また、美味しいドレッシングを探すのも楽しいものです。こうして、日ごろから野菜を美味しく食べる習慣をつけておけば、入院したときに無理せずベジファーストが続けられます。

@@また、食事の時間が短くなりがちな人は、家族や友人と一緒に食事をとり、ペースを相手に合わせて食べたり、話をしながら食事を摂ったりすることをおすすめします。早食いの人は、ゆっくり食べなさいと言われると、苦痛に感じると思います。でも、誰かと一緒に食べることで、一人で食べるよりも楽しくゆっくり食べられます。

私には、看護師という仕事のせいか、油断すると早食いになるクセがあるようです。家族と食卓を囲んでいるときも、無言のまま急いで食べている自分に気づいてハッと我に返ることがあります。そんなときは、あえて一度、箸を置いて話をするように心がけています。これだけで、楽しくゆっくり食事が摂れるようになります。

たとえ入院中であっても、状況が許されるなら他の人と話しながら食べてみましょう。病院によってはデイルームで他の患者さんと一緒に食べられます。また、やむを得ずひとりで食べる時は、一口ずつ食材の味、食感、温度、喉ごしなどを感じながら食べてみましょう。自然とペースがゆっくりになります。孤独にストイックになる必要はありません。

お腹がいっぱいとは、胃の満腹と脳の満腹

「あー、まんぷくまんぷく」

という言葉を聞いて、どんな光景が目に浮かぶでしょうか。私は膨らんだお腹を、手のひらでポンポンと叩いているところを想像します。

私たちは食事をすると、どこか満たされた感じがします。これは、「満腹感」と呼ばれますが、けっして一つのことを指しているのではありません。まず物理的に「お腹が膨らんだ」と感じます。そして、食べ始めてから30分くらいで「血糖値の上昇」により脳の満腹中枢が刺激され、食事への渇望感がなくなり、食欲が満たされたとも感じます。このように、満腹感は実体験と感覚の二つに分けることができ、そしてそれぞれのあいだには時間差があるのです。

このことを踏まえて、一気にごはんを食べるとどうなるかを考えてみましょう。脳で満腹を感じる前に、食べ物がどんどん胃に入っていきます。そうすると、すでに胃にはたくさんの食べ物が入っているのに、脳はまだ足りないと思ってしまい、食べる量が自然と増えてしまいます。膨らんだお腹をポンポンと叩くだけでは、けっして食欲は止まりません。

こうして、食べ物を急にたくさん摂ることで、血糖値が急に上がり、その反動で強烈な眠気を催します。ドカ食いをすることは、昼寝を宣言するようなものなのです。

たしかに、ドカ食いをすると、何ともいえない満足感が得られます。強烈な満腹感があり、そして訪れる眠気のままに目を閉じるのは最高の気分です。ひとたびこの快感を味わうと、なかなか抜け出せなくなります。心地よいと感じることをやめなさいと言われて、できる人がどのくらいいるでしょうか。

そこでおすすめしたいのが「野菜のドカ食い」です。これは、ベジタリアンになりなさいという意味ではありません。いつもと同じメニューでいいのですが、最初に野菜をドカ食いするのです。私はこれを実践するためにレタスを常備しています。野菜の料理を作るのが面倒なときは、食事の前にレタスを多めに食べて、物理的に胃を少し満足させます。そうすると、お腹が少し膨らみ、食事の勢いも量も抑えてゆっくり食べることができます。

入院中でも、売店にサラダが置いてあれば簡単にこの方法を試せます。お菓子の代わりだと思えばそれほど高くはないでしょう。私は以前、昼にコンビニ弁当を掻き込み、夜は毎晩牛丼を食べる生活をしばらく続けていました。そんな私も、いまではすっかり野菜にハマってしまい、病院食でさえ野菜が少ないと感じるほどになりました。

ベジファーストで、気づかなかった自分に出会える

私はベジファーストを実践してみて、これまで自分が「お米を先にたくさん食べようとしていた」ことに気づきました。野菜から食べようと思っているのに、しっかり意識していないと、ご飯やおかずに思わず手が伸びるのです。箸を野菜のほうに持っていこうとすると、心に抵抗を感じることもあります。これは、まぎれもなく動物としての本能が白いご飯やおかずを求めていることを示しています。

たしかに、いつ他の動物に襲われるかもしれない世界では、体を動かすエネルギーを素早く補給することが重要だったかもしれません。しかし、現代の私たち人間は、急いで食べなくても安全に食事ができる環境にいます。入院中も焦って食事をせず、ぜひゆったりとした気持ちで食べてください。もし、看護師がはやばやとお膳を下げにきたら「せっかちな人もいるもんだ」とでも思ってスローペースを貫きましょう。

昼寝もOK。もちろんドカ食いもOK。

昼寝の誘惑に勝てずに困っている場合は「ベジファースト」や「野菜のドカ食い」で、ずいぶん楽になると思います。もちろん、ドカ食いをして、思う存分、昼寝をして夜に眠れなくなっても、医師に言えば睡眠薬をもらえます。自然な眠りではなないかもしれませんが、いまではいい薬もあり、自分にあうものがあれば、満足した眠りが得られるかもしれません。実際に、睡眠は薬の種類や飲むタイミングや量を変えたりして調整すると決めている人もいます。

ただ、薬に頼ってしまうのは、薬に縛られるということでもあります。たとえば、旅行で薬をなくしたり忘れたりすると、それだけでピンチに陥ります。災害時も同様です。また、急に薬をやめると、強い禁断症状に苦しむ場合もあります。

やはり、私は頼るものが少なくシンプルなほうが楽に生きられると思います。禁煙して思ったことですが、タバコを吸っていたときは「喫煙所はどこか?」「あの人はタバコを吸う人か、タバコが嫌いな人か?」「いつタバコが吸えそうか?」「タバコはあと何本残っているか?」「携帯灰皿が吸い殻でいっぱいになっていないか?」などとつい考えてしまったものです。いまはタバコに頼ることがなく、生活がシンプルになり、以前より清々しい気持ちで過ごせています。

これまでドカ食い生活を続けてきた人や、昼寝をしていた人も、ぜひ一度はベジファーストの気持ちよさを感じてみてください。ちょっと工夫をするだけで、自分の本能や欲望に惑わされず、ゆったりとした気持ちで時間を過ごすことができます。

歯を治すと、ドカ食いが防げることもある

患者さんをみていると、歯に問題がある人は、健康にも問題があることが多いと感じます。歯が悪いと、柔らかい食べ物を好むようになり、食べ物を口に入れたあと、すぐに丸呑みするようになります。こうして早食いになると、胃腸にどんどん食べ物が入っていき、急に血糖値が上がることにつながります。そうするとやはり食後の眠気が強く出てしまいます。

虫歯や入れ歯があっても、しっかりと治療したり手入れをしたりしていれば問題ありません。ぜひ、固いものも美味しく食べられるようになってください。また、歯が痛くなくても、歯がぐらぐらしたり、かみ合わせが悪かったりする場合は、口の中に病気が隠れていることもあります。できれば、半年に一度は歯科の検診を受けて、お口の健康を保ちましょう。

昼寝を避けることで、要介護状態をも避けられる?

これまで昼寝について話をしてきましたが、高齢になるとさらに深刻な結果につながりかねません。

高血糖が続くような生活が習慣になると、糖尿病になってしまいます。糖尿病の合併症は「し・め・じ」「え・の・き」と言って「し:神経」「め:眼」「じ:腎臓」が侵され「え:壊疽」「の:脳梗塞」「き:狭心症・心筋梗塞」といった病気につながります。そして、糖尿病になると認知症になるリスクは2倍になると言われています。

また、歯の健康が損なわれると、食べ物の咀嚼や飲み込みに支障をきたし、身体がやせ細って筋肉がなくなっていきます。こうなると、要介護状態は避けられません。今回の話は夜の良質な睡眠だけでなく、将来の健康にも大きく関わっていることを忘れないでください。

ドカ食いや昼間の眠気の誘惑に、自分の生活を縛られていないでしょうか。もう一度、よく考えてみまましょう。そこから抜け出すのにがんばりは必要ありません。今日の食事からゆっくり、そして最初に野菜を食べるだけでいいのです。

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