月の夜の共犯者 13.
朝になった。
僕と馨は部屋でサービスのモーニングを注文し、それを2人で分けた。
「ソウ…」
昨日あんなに馨のことを抱いたのに、ガウン姿の馨をみるとまた、また強い欲望が芽生えてくる。
馨の髪にキスをしながら、彼女から香る花の匂いを堪能した。
「ソウ…聴いてくれる?わたし、まだソウに言ってなかったことがあるの」
僕は馨の白い肌に軽くキスをしながら、馨の話しを聴いた。いまなら、何でも馨の言うことを聞いてしまいそうだった。
そのくらい彼女には煌びやかで男を虜にしてしまうような魅力を持っていた。
「じつはわたし…東京に来る前には夜の街で、少し働いていたことがあるの。そのときの常連のお客様に買ってもらった部屋があって…暫くソウとそこで暮らせないかと思ってるの」
僕は馨が夜の街で働いていたことに、軽い衝撃を覚えたけれど…馨のことだ、何か事情があったに違いないと思い返した。
「そうか…それなら都合がいいかもしれないね。ところでなにかお金にでも困っていたのか?」
「そうだね…うちには、弟二人と両親がいるの。だけどウチの父親は本当にうだつの上がらない父親で、もう随分前から働かなくなってしまって…家計を助ける為にクラブで働いていたの。」
きっと馨が話してくれるのには、相当の勇気が行っただろうなと思った。
いまにも消えてしまいそうなくらい、儚げで繊細な馨のことを僕は何としても守り抜かないといけないと思った。
「ソウは…?ソウのお父さんのことはあまり聞いたことないけど、どんな方なの?」
甘えるように僕の肩にあたまを乗せてくる馨の髪を撫でながら、馨になら話してもいいかと僕はこれまで周りには伝えていなかった話しを伝えた。
「僕の…僕の父親は、総和グループの経営をやってるんだ。といっても、彼は本当の父親じゃない。僕はいわゆる養子なんだ。
僕の本当の両親は幼いころ、事故で死んでしまって…そんなとき助けてくれたのがいまの父さんだった。父さんは僕が養子に入ったことについてなにも言わないけれど…、周りの人たちはあまりいい顔をしないことは理解できた。
でもそんなこと僕にとっては、どうでも良かった。僕はただ、自分の居場所さえあればそれで良かったんだ」
「ソウのお父さんが、総和グループの…しかもえらい人だったなんて初めて知った。…もしかして、ウチの会社に入ったのは、親と比較されるのが嫌だったからなの?」
「…医者になる意志がまったく無かったわけじゃない。だけど…多分、馨なら分かってくれると思うけど、医者になるためには実力だけではなく、世間を渡り歩くいわゆる世渡りが必要になるんだよ。お互いの派閥や利権が深く入り混じるからね。僕はそれには耐えられなかった、ただそれだけのことだ。」
「そうだったの…色々と大変だったね。ご両親はどこで亡くなったの?」
「もう15年くらい前になるかな、急に思い立ったように二人連れ立って出掛けていって、その帰り東名高速で事故を起こしたって聞いた」
「…ごめんなさい、色々知らないとはいえ立ち入ったことを聞いてしまって…今回、報道陣に内部告発のリークをしたこと後悔してる…?」
「まさか、あの状況が続けばウチの会社は不正だらけ。馨もずっと苦しんだままだったろ…?」
「うん…正直、このまま坂城のもとで言いなりになりながら仕事していくのは耐えられなかったと思う。ソウがあの日リークしようって言ってくれなかったら、わたしはあのままだったと思う。ソウ、言いにくいこと話してくれてありがとう。」
馨は僕の髪を撫でてくれた。
馨の匂いは本当に落ち着く…
だけど、この香りやっぱりどこかで嗅いだことがあるような…。
そう頭のどこかで思いながらも、馨の可愛らしい顔にキスをした。
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