もっと
音よりも速く、光よりも速く…!!
もっともっともっと!
チャリチャリとタイヤの音を鳴らしながら、
全速力で自転車を漕いで、
あいつのもとへ向かった。
息継ぎが上手くできないのも構わず、
坂道を駆け上がり、その足で一気に風を切り急カーブを曲がった。
川沿いの神社を抜け、いつもの畦道を通った。
その景色を横目にみながら
もっともっと!もっと!
もどかしい気持ちと焦りを前に泣きたくなった。なんであいつに伝えられてないんだろう。
暮れなずむ夕日を背に、全速力で駆け抜けた。
「琢磨ーっ」
車に乗りこもうとしているあいつの背中に向かって、俺は叫んだ。
「安武…」
俺は自転車を乗り捨て、真っ直ぐに琢磨に向かって走った。
足がもつれて、思うより速く走れなくて
もどかしかった。
息を切らし、白い息を吐きながら俺は鍵を取り出しあいつに渡した。
「これタイムカプセルの鍵。
おれ絶対お前との約束を守るから!お前も絶対戻って来いよ」
小学校の終わりにみんなで埋めたタイムカプセル。俺は琢磨と一緒に20年後の自分たちにむけてメッセージを送っていた。
母さんから、琢磨が持病のために遠い街に引っ越していくことを聞いたのは今さっきだった。
俺は慌てて自転車にまたがり、風を切った。
自転車を飛ばしながら、なぜかもう2度と話せなくなるんじゃないかと思った。
あいつに会えなくなるのは嫌だ。
俺たちは似てるようで違う2人だった。
学校帰り、畦道を通って帰ったこと
こっそり駄菓子屋でお菓子を買って神社の境内で食べたこと
俺たちは何でも話せる親友みたいだった。
もっと、もっと、もっと話したいこと沢山あった。
20年後、俺らは会えるのを信じてる。
そんな想いでこの鍵を渡した。
「ありがとう…俺…」
そのとき、親に早くしなさいと呼ばれてアイツは車へと乗り込んだ。
そうして走り去る自動車を俺は必死に追いかけた。
あのときアイツは何を言いたかったんだろう。
ちゃんと言ってほしかった。
だってもうアイツはいないから。
20年経って、アイツが亡くなったことを知った俺はタイムカプセルを開けに、高台の丘に足を運んだ。見晴らしの良いこの場所では街を一望することができる。
ガチャっとタイムカプセルの鍵を開ける。
すると、そこにはアイツの手紙が入っていた。
「この手紙を読む頃俺はもしかしたら、
この世にはいないかもしれない。
だからこそ、毎日後悔がないように生きていたい。思い切り笑っていたい。
きっと、人生最後の日を前に思うのだろう
全部、全部言い足りなくて惜しいけど
あぁ、いつか人生最後の日、
君がいないことを寂しく思うかもしれない。
安武、俺はお前と一緒に過ごせたこと感謝してるよ」
俺だって…
その手紙を読みながら俺は泣いていた。
俺だって…
もっともっと、もっとお前と話してたかったよ。
もっと、もっと、もっと
ヨルシカさんの「言って」を聴きながら書きました。
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