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シャルレ二番館月明りのディスタンス

「月明かりが綺麗ね」
妻の花蓮がそう呟いた。

外を覗くと煌々と空高く、
まんまるの月が登っていた。

「ねぇあなた、少しだけ外の風を吸いに行かない?」

妻に言われそういえば、
随分と家に篭りきりだったことを思い出した。

わたしは妻に「うん、そうしようか」と答えた。

「少しだけ家の周りを歩きましょうよ」

夜風が気持ちいいこんな日には、
思い切り体を伸ばして歩きたい。
そうして、家から飛び出した。
頬にあたる風が心地よかった。

「なぁ、そういえば今度の集会いつだっけ?」

「んーそうねぇ…隣の家の吾郎さんが、
様子をみてまた皆んなに声を掛けるって言ってたわよ」

週に2回夜に開かれる会合に、
今夜は出なくても良いのか…

いつも隣の吾郎さんに、

毎週報告する警備報告に
「もっと広い範囲を警備するように」と怒られているから、少しホッとしたような
でも寂しいような不思議な気持ちになった。

「こんだけ顔を合わさないと、
皆んな元気なのか心配になるわね」

妻は一言つぶやいた。

「そうだなぁ、たまに公園で見かけるやつもいるけど基本皆んな、

周りに合わせて自粛してるよな」

「皆のうちの子どもたちは大丈夫かしら?
力が有り余って喧嘩していないかしら?」

心配症の妻は夜空を見上げ、そう呟いた。

「さぁてどうだろう。
もしかしたら、家のなかでは取っ組み合いの喧嘩をしているかもしれないよ?」

「それとも・・もしかしたら、
大好物の魚を家族からもらっているかもしれないよ」

月明かりが照らす道をテクテクと一緒に歩く。

煌々と照らされる夜道に、わたし達の影が重なりあって浮かびあがっている。

こういう夜も悪くないな。

「ナゥン」妻がひと声鳴いたかと思うと、
わたしのしっぽに絡ませてきた。

わたしは妻にすり寄り、どこまでも続く光の路をゆっくりと歩いた。


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