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月の夜の共犯者 4.



月が満ちる夜が明け、朝となった。
白く曇った窓ガラスの冷気に寒さを覚え、体を起こした。
むりな姿勢をしていたせいか、身体中のあちこちが痛い。
身体をひねりながら、隣にスヤスヤと眠る馨の姿をみた。

馨は安心しきった無邪気な寝顔で、
車のシートに丸まって眠っている。
そのあまりにも無防備な姿に
思わずキスをしてしまいそうになる。
同時にその寝顔を見つめながら、このひとを何としてでも守り抜かないといけないと思った。

日が昇り、馨も眠たい目をこすり起きてきた。

「おはよう」
「おはよ」
「これからのことなんだけど…」
軽く伸びをする馨に向かって僕は声を掛けた。

「ひとまず、逃亡するための資金を調達しないといけないと思うんだ。馨は身バレしたら困るだろうから僕がコンビニか何かのATMからお金を引き出しておくよ」と言った。

「そうだね、道のりは長いから…少し多めに下ろしといた方がいいかもしれないね。」
「そうだな、50万ほど下ろしておくよ」
そう馨に伝えた。

パーキングエリアが開くのを待って、
僕たちは熱めの珈琲と、ホットドッグを買って朝ごはんに食べた。
馨がトイレで化粧直しをしているあいだに、
隣のコンビニのATMで50万円を引き出した。

この50万は僕がこれまでの会社生活で貯めてきた貯蓄の一部だった。
これまで趣味といった趣味もなく、
たまに本を買ったり呑みに行く以外は全て貯金に回した。
そのおかげでこの歳にしては、まぁまぁの貯金額になっている。
馨と出会ってからは、少しずつ貯金の用途は変わっていっているが、僕は彼女のために貯金を使うのは一向に構わなかった。
いま1番大切なのは、彼女と未来の彼女を守ること。

そのためなら何でも出来た。

都内から離れた場所に来たら、2人で住む家が見つかるまで漫喫かファッションホテルにでも泊まろうと思っていた。

とりあえず足が着くのが1番まずい。
今ごろ会社では大騒ぎになってるはずだ。
上手くいけば週刊誌が情報を撒き散らしてくれているかもしれない。
そうなってくれることで世間に公けに出来ると思った。

「ソウ待った?」
化粧直しをして、服装も整えてきた馨が戻ってきた。

「行こうか…」

僕は馨の細い手首を掴んでパーキングエリアを後にした。


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