見出し画像

羽になる日 丘のうえのハウゼン博士


「お前も言うてる間にもうすぐ18歳じゃ。その頃には修行に出ねばならん」

むかし兵庫の地で平清盛が日栄貿易の拠点となるものを開こうと、島を作る計画をした。ただし荒れる海は一向におさまる気配はなく、それをみた平清盛はひとつの決心をした。
清らかな天候を味方につけ海神さまに願うため人柱ではなく、祈りを捧げるひとを雇いそのことで天候を味方につけたといふ

その伝説と習わしが、いまもひっそりとこの家には根付いていた。

いわばこの家に産まれたものは、
この土地に生涯に渡って祈りを捧げる祈祷師のような存在になることを求められる。

「祈りの力でこの世界を丸く治めるのだ」
それが俺の家の家訓だった。

酒井羽、16歳。
「羽」と書いてはねと読む。

俺の家は、むかし平清盛と共に闘った地元の名家といわれる家で、代々平清盛の意志を受け継いだものとして生涯この地のために祈るよう教えられてきた。

18歳を迎えると県の境の高い山に登ったり、或いは籠ったりして大地の息吹を感じ、それが手に取るようにわかればうちに戻って地域貢献をする。

作務衣を着て、座禅を組むようなそんな日常をおくるものからすれば、その定めはごく当たり前に行われていた。

しかしこの家の13代目に産まれた跳ねっ返りで、威勢の良い母ちゃんは爺ちゃんのこの教えを真っ向から反対していた。

「あんのクソ爺ぃ!!いまの時代をなんだと思うてんの!羽、アンタあんなクソ爺ぃの言うこと聞かなくていいからね!アンタは「羽」なんだから自由にどこでも跳んだらいいんよ!」

短く切り揃えた髪を揺らしながら母ちゃんは
道場にいた俺の両肩を両手でガッチリ掴んで話した。

「こんな式たりなんてクソくらえだわっ!!」

勇ましい母ちゃんの後ろ姿をみながら、俺はいい母ちゃんを持ったと思った。

確かに慣習といえど、此のしきたりは古い。
簡単に言ってしまえば、時代遅れだ。

しかし、昔ながらの付き合いもあるし
地主でもある俺の家系はそう簡単に

「はい、じゃあ明日から修行にいくしきたり辞めますー」なんて出来なかった。

それでも少しだけ突破口が開いてきているのは、まるで台風のように精一杯の抵抗でこの場をかき乱す母ちゃんがいたからかもしれない。

俺はー…

学校で出逢った藍美みたいに、自由でありたかった。

藍美は転勤族でおやの仕事の都合で全国各地を転々としていたと言った。

けれど恐ろしいくらい藍美の心は自由で、何者にも捕まらないそんなところが彼女の魅力だった。

「酒井くんの名前ってカッコいいね!!」
そう言われたあの日から、天真爛漫な藍美のことが気になって仕方なかった。

まるで甘えてくる猫のように、俺の周りをついて周り色んなことを話してくる…そんな彼女のことが愛おしかった。

これを初恋というのなら、そうなのかもしれない。

高校生で初恋?!
そんなこと恥ずかしくて誰にも言えなかった。

だけど、僕が日課としているグラウンド脇の植物への水やりも笑わずに居てくれたのは彼女だけだ。

それなのに…

彼女はもう3日も学校に来ていない。
親御さんからも捜索願いが出されていると、
風の噂で聞いた。

藍美、お前一体どこに行っちゃったんだよ…

俺はいても立っても居られなくて、家を飛び出した。

この記事が参加している募集

スキしてみて

この度はお立ち寄り下さり、ありがとうございます。ニュイの考えに共感いただけたら、サポートして下さると喜びます!!サポートいただいた分は、今後の執筆活動のための勉強資金として大切に使わせていただきます。