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神様からのプレゼント

「きみの声は、神様からのプレゼントだね」

ガヤガヤと足早に人が通り過ぎるなか、
突然通りがかった人から声を掛けられた。

その声に驚いて顔を上げると、そこには縁なしの眼鏡をかけている初老の人がいた。
ジッと僕を見つめるその人の瞳の奥は温かった。
僕は次の演奏に向けて、チューナーで音を調整していたその手を止め、突然の出来事に面食らってしまってドギマギしてしまった。
「その声、すごく魅力的だから大切にしてね」と1000円を投げてもらえた。
そんな経験も初めてだった。
「ありがとう…ございます」
そういって驚いている僕を見つめて、
その人は優しく微笑むと手を振り去ってしまった。

辺りは寒空のなか人々が肩をすくめて歩いていた。
手元に残った先ほど渡された1000円を見つめながら、僕は何とも言えない気持ちになっていた。
正直そんな事を言われたのは、生まれて初めてだったし、寧ろいつもこのしゃがれた声がコンプレックスだった。

小さなころは見たものや聴こえたものが全てだった。自分の声を揶揄する人も周りには居なかったし、好きな曲をすきなだけ歌っていた。
歌を歌い始めたのは、物心ついた頃からだったし当時家に流れていた、浜田省吾やサザンオールスターズの桑田佳祐の曲を聴こえたまま覚えた。
よく言えば僕の声はハスキーの部類に入っていたのかもしれない。
それでもこの声は、いわゆるアナウンサーのような「いい声」ではなく、みんなにとっては変わったものだったのだろう。
そのせいか小さな頃から「高田くんの声って変わってるね」と言われてきた。
あるとき学校の授業の課題で歌をみんなの前で歌ったとき、「高田の声って変なのー」と子どもながらにチャチャを入れるような言い方をした同級生がいた。
僕は途端に恥ずかしくなって、真っ赤になりながら黙り込んでしまった。
それが僕の「声」を意識した最初の瞬間だった。それからは喋ろうとすると意識してないのに、掠れた声になってしまった。
知っている人の前では歌うことはおろか、上手く話すことが出来なくなってしまったのだ。
矛盾しているようだが、それでもこのコンプレックスを吹き飛ばす為に、僕はこっそりと歌を歌い続けていた。

自分の声が変だということよりも、歌いたいという衝動に駆られた結果だった。
僕は歌が好きだった。

そんな僕が大人になり、誰かにこの声を褒めてもらえる日が来るなんて思っていなかった。
手元に残された1000円を見つめながら、僕は生まれて初めて感じたこの高揚した気持ちを誰かに伝えるために、マイクに向けて声を放った。




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