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実はウチの犬、ちょっとだけ話す。in徳島

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徳島を舞台にしたファンタジー小説。高校生のタケルと、気が向いたときに話す犬のタマが主人公の「ファンタジーエッセイ」。気が向いたときに連載中。
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記事一覧

実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第九話「うどんとバタリアンヌ三世」

実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第九話「うどんとバタリアンヌ三世」

 俺はうどんが好きだ。そばも好きだけど、本場香川県のお隣だから徳島にはうどん屋が多い。気軽さから大手チェーンのものもよく食べるがこれも美味しい。今日の昼は肉たっぷりのぶっかけうどんを食べてきた。体に良くないと分かっていても天かすを山盛りにしてしまうんだよね。

「ふんふん、いい匂いがするぞ。これは……かしわ天!」
「さすがだな。正解だよ」
 リビングに入るなりトコトコと寄ってきたタマに、かしわ天も

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実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第八話「徳島のゆるキャラ」

実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第八話「徳島のゆるキャラ」

 徳島県の公式マスコットキャラクターの「すだちくん」を知っている?特産品の「すだち」をモチーフにしたキャラクターで、緑の顔に弾けるような笑顔を浮かべ、イニシャルSの書かれた服を着てスーパーマンのような真っ赤なマントをはためかせている。平成五年に開催された東四国国体で誕生したキャラクターだから、俺より十歳も年上だ。ちなみに性別は男でも女でもない、中性。

「またうんこマンのグッズを買ったな、タケル」

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実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第七話「焼きたてクロワッサン」

実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第七話「焼きたてクロワッサン」

 徳島駅前のデパートが来月末に閉店する。デパートはこの一軒しかないから困る人は大勢居るけど、郊外にできたショッピングモールなどに客足は流れてしまっていた。関西へのアクセスが良いから、そちらへ行ってしまう人も多い。

「ああ、デパ地下のクロワッサンが食べたい」
 リビングのソファでスマートフォンをいじっていたら、給水器から水を飲んだタマがつぶやいた。デパートがなくなれば当然地下の食品フロアもなくなる

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実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第六話「エビフライと脚気」

実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第六話「エビフライと脚気」

 俺は中華料理が好きだ。徳島駅前にもある某有名チェーン店の中華はとにかく美味い、安い、早いの三拍子が揃っていてよく食べに行く。特にエビチリが好きでいつも必ず注文する。

「おい、尻尾をくれよ」
「ダメだよ。犬にはエビやカニがよくないって聞いたことがある」
 とはいえ家族がご飯を作ってくれるし、行くのは大抵二週間に一度くらいだ。今日の夕飯のおかずはエビフライで、タマがねだっているのはその尻尾だ。

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実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第五話「アイスクリーム」

実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第五話「アイスクリーム」

 二、三日前から徳島市内でもセミが鳴き始めた。このところ雨続きだったが今日は珍しく晴れている。駅前へ行ったら俺と同年代の少年少女で溢れかえっていたけど、このご時世、人がたくさん居過ぎると怖いからすぐに帰ってきた。
「アイス。アイスクリームは買ってこなかったのか」
 リビングにある専用ベッドでくつろいでいるタマが不満そうに言うのに、首を横に振るとため息をつかれた。そもそも、お前はアイスなんか食べちゃ

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実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第四話「イギリスの友だち」

実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第四話「イギリスの友だち」

 俺には外国人の友だちがいる。留学はおろかホームステイすらしたことがないけど、今時ネットがあるからね。無料の通話アプリでしょっちゅう話している。教育熱心だった両親のおかげで三歳から英会話塾に通わせてもらえたから、あまり正確ではないけど俺は英語を話すことができるし、日本人と友だちになりたい外国人は世界中にたくさん居る。みんな漫画やアニメに夢中だからね。ブームは終わる気配をみせなくて、海外の友だち募集

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実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第三話「徳島のバス」

実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第三話「徳島のバス」

 今日も蒸し暑い。俺は徳島駅前バスターミナルで時間待ちしていた。徳島はとんでもない車社会で、公共交通機関はあまり発達していない。なんと全国で唯一電車が通っていないんだよ(代わりに汽車がある)。
「暑い。いや、寒い。息ができない」
 背負っているリュックの中から声がした。実はこのリュック、普通のものではなくてペット用のキャリーだ。サイドはメッシュ生地になっていて息ができるし、内側には飛び出し事故防止

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実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第二話「明け方の雷」

実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第二話「明け方の雷」

 明け方、不穏な雷の音で目が覚めた。タマのために冷房をきかせているから少し肌寒くて、被っている羽毛布団の中でモゾモゾしていたら枕元で声がした。
「タケル。お前怖くないのか」
「……タマこそ」
「俺は怖くないぞ。経験を積んでいるからな」
 自分の方が長く生きているかのようなの言い草に、顔をしかめた。まだ九歳のくせに。デジタル表示の電波時計を確認すると四時半だった。もう一度寝よう。
 次に目が覚めた時

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実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第一話「ケロケロピエール二世」

実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第一話「ケロケロピエール二世」

 実はウチの犬、ちょっとだけ話す。名前はタマ。タマなんて猫の名前じゃないかと思うけど、先代ペットの猫のタマが死んで悲しんでいた爺ちゃんがつけたから仕方がない。タマはオスで今年の十月に十歳になる。それで俺は飼い主のタケル。十六歳で徳島市内の公立高校の二年生だ。徳島ってどこか知っている?讃岐うどんで有名な、四国の香川県の下にある県だって言えば大抵の人は分かる。
「おい、また俺を置いていくのか」
「仕方

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