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中国で戦う予算が少ないなら、とにかくターゲットは絞りましょう

こんにちは、にょそです。
今年も残り5ヶ月ちょっととなりましたが、兼ねてから上海で「日本企業やブランドを中国で成功に導くためのマーケティング系コミュニティ」作りに本腰を入れないとなぁと考えております。興味ある方は是非ご連絡ください〜

今回のnoteでは、ターゲティングの広さについて教科書的に偉い人から本で学んだ内容と、実際のマーケティング現場で直面した問題にギャップがあったので、その部分について分かりやすく触れようと思います。

日本企業で成功を収めている企業やブランド担当者にとっては「あるある!」と実感が湧かない可能性があると思いますが、実際に中国進出した後には、「初心を忘れていた・・・」「やっぱそうですよね・・・」となる内容だと思うので、戦略を作る前や、業者から提案を受ける前に、ご自身で一度立ち止まって読んでいただけますと幸いです。

教科書的な本曰く、ターゲットは広げるのが得策

いきなり本noteのタイトルと矛盾していますが、私のタイトル付けが変なだけです。世間一般的には「たくさん売りたいのだからターゲットはどんどん広げた方がいいですよね」というのは至極当たり前の話でしょう。

USJで素晴らしい成功を収めた、日本を代表するマーケターの森岡毅氏(元P&G/USJ 、現株式会社刀)は、当時USJの経営陣にターゲットを広げる説得に苦労したこと、その後施策の一つとしてユニバーサル・ワンダーランド(ファミリーエリア)でファミリー層の取り込みに成功したことは有名なお話です。

―――元々は映画のテーマパークですよね。見えた「勝ち筋」に沿って、大きく方向転換をしました。社内での抵抗や反発は無かったですか?

 いっぱいありました。映画のテーマパークには「映画好き」が集まります。これはテーマパークだけでなく他の業種でも「あるある」の話です。その商品が好きな人たちが集まって来る。すると、消費者の心理と離れてしまうことがよくあります。「映画だ、映画だ」と言っても、そんなの誰が喜ぶの?という話です。映画だけの専門店はやめて、大好きなブランド、素晴らしいコンテンツが集まったセレクトショップになりましょうと。すると周りは宇宙人に襲われた地球市民のような顔で私を見て...。

USJをV字回復させた男の「洞察力」と「アドレナリン」より引用

超理想的に見えて実際に成し遂げたこの成功を、本やインタビュー記事で見たときは、誰もが心踊らされたのではないでしょうか?少なくとも当時の私は「すげぇ!ターゲットはどんどん広げるべきなんだ!」とインプットしました。

そのインプットをもとに、過去中国進出でご相談いただいた企業やブランドのRFP(提案依頼書)を漁ってみると、ほとんどが「1、2級都市に住む20代〜40代の[性別]」と幅広いターゲットを狙っているものばかりでした。本当はもう少し具体的なターゲット像あるんじゃない?と思う反面、狙ってのことか偶然かは分かりませんが、キチンと教科書通り幅広くターゲット選定しているし、特に違和感も感じず素直に受け止めていました。

ちなみに中国では、”市”の規模を1級都市〜6級都市でランク付していて、上海や北京、広州、深圳は1級都市に該当します。
3級都市以下は一般的に消費者の購買力が低いこともあり、比較的安価な国産(中国)ブランドが人気です。なので、それ以外の1、2級都市をターゲットにするブランドが非常に多いです。

しかし、実際に案件が進むにつれてなんだか息苦しい・・・。目標としている獲得顧客数のわりに、今後使える予算が足りないかも・・・。そこで初めて現実に気づかされました。むやみにターゲットを広げると、費用対効果が悪すぎる。予算は有限だ。と。

本気で取りにいくターゲット、勇気を持って捨てるターゲット

結論から言うと、限られた予算で、かつ、中国進出したばかり、という条件下では、
・本気で取りにいくターゲット =コアターゲット
・勇気を持って捨てるターゲット=コアターゲット以外の戦略ターゲット
だと考えています。以下ではいくつかの参考をもとに、この結論について説明していきたいと思います。

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先の気づきから、改めて「戦略」について考え直そうと思ったときに、こちらの素晴らしいnoteに出会いました(ありがとうございます)。 

このnoteには戦略の定義についてこのようなことが書かれていました。

戦略=目的達成の為にリソースを何に使うのか、という選択

つまり、戦略がなぜ必要かと問われれば、
1) 達成したい目的があって、
2) 活用できるリソースが限られているので、
3) 選択が必要だから、
と答えることが出来ます。 

私のマーケティング活動からは「リソースが限られているということ」「選択が必要だということ」がごっそり抜け落ちていました。もちろん戦略についてはあらかじめ学習済みで頭の中では分かっていたつもりでしたが、マーケティングの現場に立たされると無力化してしまいました。これに関連して、さらに勉強になったなと思うインプットを2つ紹介します。

①Product/Market Fitに関するY combinatorの名言

・人が欲しいと思うものを作れ
・何百万人の人にまぁまぁだと思って使われるよりも、百人の人に愛されることだ

Y combinator

Product/Market Fitとは、主にスタートアップ系のソフトウェア会社に重要視されている概念で、立ち上げの初期段階では自社製品/サービスが市場に受け入れられている状態を何よりも優先して作りましょうという教えです。そのアプローチとして、まずは100人の人に受け入れられ、愛される製品/サービスを提供しましょうと、狭いごく一部の人をファンにしてから事業を拡大するべしとしています。

これは業界に限らず、中国市場へ進出するブランドにも同じことが言えると思います。中国での事業を日本事業の延長線上で考えるのではなく、つまり、原点回帰して、自社のファンになりうる中国人の方を見つけてはとことんヒアリングし、自社の付加価値をブラッシュアップ。その後、ターゲットを広げて事業を拡大するのが良いのではないか。

②Apple創始者スティーブ・ジョブズの例え話

美しい女性を口説こうと思った時、ライバルの男がバラの花を10本贈ったら、君は15本贈るかい?そう思った時点で君の負けだ。ライバルが何をしようと関係ない。その女性が本当に何を望んでいるのかを、見極めることが重要なんだ。 

スティーブ・ジョブズ

一見すれば「そんなの当たり前でしょ!」と思いがちですが、今自社でやってる施策は他社とほとんど同じ(真似しやすい)で、かつ、消費者ニーズ度外視の競合とのお金の消耗戦になっていないか、をもう一度見つめ直してみてください。他社がやっているから自社もやろう、ではなく、中国進出の初期段階では本当に消費者が求めることを見つけ出すのが良いのではないか。

先の私の気づき、および、この2つの引用から学べることは以下の2点だと思います。
・最初はターゲットを絞りましょう
・消費者の求めることを見極めましょう
そのためにはやはり、補足的ではありますが消費者調査も必要であることもご理解いただけたのではないでしょうか。

幅広い顧客層を「戦略ターゲット」として設定するのは大正解だと思いますが、進出初期の限られた予算内では、しっかり「コアターゲット」を理解してそこにプロモーションを集中させるべきかもしれません。

余談ですが、売れてるなぁと思うブランドは芸能人(中国では代言人)を起用して認知度をあげたり、IPコラボでユーザー層をどんどん拡大している印象があります。これだけ豪快にお金を使われて顧客を囲い込んでいるブランドに、進出したばかりの認知もされていないブランドが勝つのは簡単ではありません。

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中国進出をシミュレーションしてみよう

ここで、限られた資源で広いターゲットにアプローチするのは難しいことを証明するためのシミュレーションをしてみようと思います。少し荒い設定ですが、シミュレーション条件は以下の通りとして話を進めていきます。

・2022年1月から越境ECで中国に進出予定
・洗礼されたシンプルなパッケージがウリのスキンケアブランド
・初年度1億円の売上を目指している
・1回あたりの平均顧客単価は3,000円
・戦略ターゲットは1、2級都市在住の20歳〜39歳女性
・年間予算は3,000万円

また、売上の求め方は以下の通りとします。

売上=1)人口 * 2)認知度 * 3)購買率 * 4)購買個数 * 5)購買頻度 * 6)購入単価

※太字はコントロール可能

①人口を求める

まずは都市別、性年代別データ、および、シンプルパッケージが好きなユーザーの出現率から人口を求めてみましょう。

以下は中国全人口における性年代別の割合です(参考:国家統計局、にょそ加工)。20歳〜39歳女性は全体の15%でした。

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続いて都市階級別の人口は、以下のように仮定します。
・1級都市は、8,250万人程度(上海市2,500万人、北京2,200万人、广州1,800万人、深圳1,750万人)
・ 2級都市は、約2.2億人程度
(各都市統計局、天猫达摩盘よりにょそ推定)

ゆえに、「1、2級都市在住の20歳〜39歳女性」はおおよそ「(8,250万人+2.2億人)* 15% = 45,375,000人(≒4.5千万人)」と計算できます。

また、この中で「シンプルパッケージ好きです」と言うユーザーの出現率が10%(天猫达摩盘よりにょそ推定)とすると「45,375,000人 * 出現率10% = 4,537,500人」になりました。

②購買個数、購買頻度、購入単価を求める

年間リピート率15%とすると、購買頻度は年1.3回。1回あたりの平均顧客単価は3,000円なので、4)~6)で1.3回 * 3,000円=4)購買個数 * 5)購買頻度 * 6)で1.3回 * 3,000円=3,900となります。

③必要な認知度と購買率はいくらか?

①②から、「売上1億円=4,537,500人 * 2)認知度 * 3)購買率 * 3,900」となり、認知度=20%、購買率3%とすると、売上1億円をギリギリ超えて目標達成です。つまり、27,225人の「シンプルパッケージ好きです」女性を1、2級都市から集めて購買させる必要があります。

④これは予算的に無謀なのか?

ここで「予算3,000万円」で「27,225人の購買者」を集める方法を考えていきます。まずは3,000万円すべてをプロモーション費用として使えるわけではありません。先に関係のない必要経費だけ引いていきます。

予算3,000万円
 - EC店舗運用費600万円/年 * 1チャネル
 - SNS運用費200万円/年 * 2チャネル
 - 雑費(写真や動画の撮影・編集、インフルエンサーへの商品提供、消費者へサンプルプレゼント、広告運用手数料)500万円
残額1,500万円

皆さんはこの残った1,500万円/年でどのようなプロモーションをしますか?必要なのは4,537,500人 * 20% = 907,500人の認知3%の購買率です。

施策例)
・1000インプレッション 200円〜500円 & クリック率0.5%のSNS広告
・1000インプレッション300円〜1,000円のインフルエンサー
・ROASが2.0のサイト内広告(ブランド指名検索を拾うのは必須)

結論、1回あたりの平均顧客単価3,000円の商品”購入”に対して、顧客獲得単価も550円程度(=予算1,500万円/目標顧客数27,225人)なので、個人的にはかなり厳しいと思います。

実際の悩みどころは他にも3点あります。
・市場調査していないので、消費者の「ツボ」がわからない
・1回くらいのリーチで消費者は記憶しない、買わない
・「近年2級都市も購買力が上がってきている」というデータが嘘かのように1級都市(上海、北京、広州、深圳)でしか売れない

ECサイト外のプロモーションの効果ないのでは?と疑いたくなるほどUVは増えず、ジリ貧になっていく日系ブランドを天猫ではよく見かけます。(天猫上で月間売上データは見れるので、「お金かけてるんだろうけど、売上かなり低いなぁ・・・」という私の勝手な推測です。)

消費者の「ツボ」を捉えるためのABテスト(試行錯誤)や継続的なリーチでブランド浸透・理解を深めるということが重要になってくるので、冒頭申し上げた通り、中国進出初期はコアターゲットのみに絞ってしまい、それ以外のターゲットは捨てる、そして、より狭い場所でファンを育成していくのが得策だと思います。

おわりに

とてもざっくりとしたシミュレーションで、かつ、業界によって全然異なる結果になるのは大変恐縮ですが、何となく「ターゲットは結構絞ったほうがいいなぁ」と分かっていただけたかなと思います。ターゲットを広げるのは一定の消費者理解やブランド認知、顧客ベース、予算があるフェーズになるのではないでしょうか。

中国市場への進出は、日本で積み上げた「資産」が通用しない場合があります。もう一度初心に帰って、
・どれくらい投資すべきか(そもそも投資するのか)
・戦略どうしようか
・中国人消費者の調査をすべきか
など、依頼しようと思っている運用会社と一緒に相談してみてはいかがでしょうか。

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