新証言:官邸に迫ったロシアスパイの手口(上)
トランプ政権誕生の裏にロシアのスパイ機関が動いていたのではないか・・・
アメリカで今、疑惑の捜査が進んでいます。こんな中、スパイ事件の当事者たちが私たちの取材に応じ、その手口など新事実を証言しました。
スパイたちはホワイトハウスだけでなく、日本の総理官邸周辺にまで手を伸ばしていました。
■川崎駅前
私たちの取材に応じたのはA氏・・・内閣情報調査室、つまり総理官邸直属の情報機関に勤務した人物だ。今回初めて、悪夢のような経験を明かした。
9年前、待ち合わせの焼肉店に入ろうとした時、A氏の前に立ちはだかったのは警視庁公安部の捜査員だった。
A氏が待ち合わせていたのはロシア大使館に勤務する男、取調べ中、捜査員からその正体を知らされたという。
内閣情報調査室に勤務するA氏は警視庁に検挙されたとき、取調官から、知り合いの4人のロシア大使館員が外交官を装ったスパイであると知らされた。
捜査員によると、4人の所属は「GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)」というロシア軍の諜報機関。スパイが、大使館の書記官や武官を装うのは常套手段だという。
去年のアメリカ大統領選挙で、ロシアの諜報機関がクリントン陣営へのサイバー攻撃を行い、メールを流出させるなどして選挙戦を妨害した「ロシアゲート」疑惑。サイバー攻撃でトランプ氏を勝たせようとしたとされるのがGRUだ。
さらに、ロシアの諜報機関関係者がトランプ氏の選対本部長、外交顧問、息子らと密会していたことも発覚。トランプ政権の足下を揺るがす事態となった。
ロシアのスパイはどのように国家の中枢に食い込むのか。元内閣情報調査室のA氏は自身が体験したスパイの手口を初めて語った。
これはA氏が描いたロシア大使館員の似顔絵だ。ある勉強会で知り合いの通信社記者に紹介されたこの男は「一等書記官のリモノフ」と名乗った。(
下はA氏の書いたスケッチを元にしたイラスト)
その後、このロシア大使館員と飲食店で会うようになった。
当時、A氏は内閣情報調査室で、総理官邸に報告するための中国情報の収集を担当していた。ロシアの外交官から中国の情報を聞けるのではないか、そんな思惑もあったのだという。
会話は雑談のみ。食事代はロシア大使館員が支払った。これは実際に接待を受けた店だ。待ち合わせの時は、店の前で立って待つようにいわれたという。
その後、大使館員リモノフが転勤でロシアに帰国。後任のグリベンコ一等書記官は会食のとき、プレゼントを持ってきた。
ハンカチセット、そして、高速道路のプリペイドカード1万円分。プレゼントはさらに変化していった。
やがて商品券は現金へと形を変えた。その渡し方は、こんな特殊な方法だったという。
じわじわと籠絡される中、A氏は内閣官房の一部門で、偵察衛星の運用をする「衛星情報センター」に人事異動した。政府内でも最も秘密保持が求められる部署だ。この異動直後、一人目のリモノフが突然、日本に戻ってきて、A氏に機密情報を強く求めてきたという。
本性を現したロシアのスパイ。狙いは偵察衛星の撮影対象。画像分析官のメンバー表も要求されたが、A氏は応じなかったという。
関係を断ち切れなかった、その原因は、貰い続けた現金だった。
A氏とロシアスパイたちの会食は警視庁公安部に監視されていた。A氏は収賄や国家公務員法違反の疑いで書類送検され、懲戒免職となった。
実は、川崎で検挙された日、異変が起きていた。待ち合わせしていたはずのロシアスパイが3日前に帰国していたのだ。A氏は警察の捜査情報がロシア側に漏れていたことを疑っている。
(下)に続く