カバ

真奈美とカオリ4話 32

アレッサンドロ ミケーレのGUCCIが素敵すぎる。グラムロック、シノワズリ、フォークロア、パンク、ジェンダーレス、時代も20年代から90年代を全てミックス、スタイリングも計算された何でもありで自由すぎる。ジョン ガリアーノがデザインしていたディオールのショーみたいな時代が恋しい。そう考えるとコムデギャルソンはいつまでも前衛的で天才的に素晴らしい。やっぱりファッションショーはこうでなきゃね。

とランチ休憩に自分の仕事が気になり、ミラノコレクションのチェックをしながら自分の世界に入っていたら。突然、静香さんからのメッセージが画面を横切り。さっきまでなにも感じなかった朝仕入れたばかりのフリージアがふわっと香って、あっ、もうそろそろ真奈美ちゃんに戻らないとと自覚した。

静香さんからのメッセージは『今日は6時半集合ですが、私は30分ほど遅れます。ごめんなさい。では、のちほど。』

奥様達の女子会は、小田急線沿線の某駅から3分ほどの場所にある少し洒落た居酒屋の個室で行われる事になっている。

その中でも、真奈美ちゃんが1番仲良くしている静香さんはピアノの先生をしていて妹の乃亜ちゃんは彼女からピアノを習っている。

今日は娘達を真奈美ちゃんの母(私の叔母)に預けてその婦人会に向かう。

この会は、静香さんと、彼女のお友達の千絵子さんが発足したもので、静香さんが真奈美ちゃんを誘って今のメンバーになったようだ。今日来るメンバーは真奈美ちゃんを含め7人。

真奈美ちゃんからは、カオリが驚いたり変な発言をされると困るから、前もって言っておくけど、その中の3人には彼氏がいるから上手くやってね。と告げられている。

静香さんは45歳 子供は中学生の娘一人。結婚歴は15年。彼氏は元カレ(ダブル不倫)。

千絵子さんは51歳 子供は息子が2人で、高校生と大学生 結婚歴は23年。個人でエステ店を経営している。今の彼氏は息子の家庭教師。タイプだったから雇ったらしい。

弘美さんは 49歳で 子供は高校生の息子一人。結婚歴は22年。バレエの先生をしている。彼氏は年上の会社経営者。

日本で不倫が多いとは聞いていたものの、本当にこんな感じなんだな、と思った。アメリカ人は比較的、他に好きな人が出来ると我慢せずに別れるので離婚率が高い。日本の夫婦は世間体を気にするので別れずに恋人を持つ。

たしかに、ニューヨークに住んでいる友達が日本でデートアプリを使った時、そこで出会う日本人男性達が結婚してる確率がアメリカより多いと言っていた。確かに私もアメリカのデートシーンで既婚者と出会った事は今の所無い。結婚しているけど恋人募集してますと公言している男性達は時々みかけるけど連絡しないし。

しかもアメリカ人は中年になろうが老人になろうが恋愛をしている、しかし日本人男性は全員では無いけどロリコン傾向が圧倒的に強く、女性が30を過ぎればおばさん扱いで恋愛対象外。けれどそれを過ぎた女性達も恋愛をしたいし女性として見られたい、そんな彼女達が彼氏を持つのでどうしても不倫の率が高まる。女性が30歳を過ぎたら終わりという考え方は江戸時代の大奥のオシトネすべり(夜の営み引退)から現代にも続いている価値観なのだろうか。そのくせ現代の日本人女性の寿命は世界一で、30歳辺りから性的魅力も増してくるのにオシトネすべるにはまだ早すぎる。私の場合はオシトネスキー場をもう滑りまくって休憩にロッジで温かいココアを飲んでいるタイプだけど。


約束の場所に、ドキドキしながら向かった。彼女達に会うのは初めてなのに、面識の無い女性達のえぐった内容の話しを、自己紹介や心を許す前の期間をすっ飛ばしてすぐに聞ける事や、そんな彼女達の人間観察を今から出来るのかと想像したら、どこの国も滅ぼさないスパイの気分でワクワクしてきた。なるべくその3人の近くに座ろうと決めた。

お店に着くと、静香さん以外はもう席に着いていた。

「真奈美ちゃん、元気ぃ?」

「はい、お久しぶりですー。」

千絵子さんの横に座り、私が日本に住んでいた時には、あまり見かけなかった、ハイボールを注文した。

やはり、千絵子さんと弘美さんには、あの何とも表現しづらい、バブル時代を経験してきた人々に共通の独特の目には見えないヴェールがかかっている。謎の自信というか選民意識というか、バブルという戦地からの帰還兵みたいな、暖色系の昔の栄光が、少しの懐疑心と時の流れによって色あせた様なカラーのオーラを持っている。(でも私が期待していた通りのバブル経験者で嬉しい。)

良く言えば、まだ女性を諦めない姿勢が全面から溢れ出していて、年齢の割にスタイルもいいし、服装も女性らしく、肌も綺麗で、ネイルも完璧だ。靴もいい物だから絶対に座敷の部屋は選ばない。サザンの曲の歌詞の『いい女にはforever夏はまた来る』を実践している人々だなと、ふと彼女達から連想した。


「なに言ってるの? あなただって彼氏いるじゃない?」千絵子さんが言った。

「え? 私(は!真奈美ちゃん、彼氏いるの)!?  あ、ああ、(聞いてないぞ、この展開。) うん、彼とはちょっと前に別れました。」と驚きを隠しながら、適当な答えをした。

「そうなの? 別れたの?どうして? 理由は?  あぁ、だから真奈美ちゃん今日いつもと雰囲気違うっていうか、なんていうか、、、  でもダブル不倫って別れる理由が無いじゃない? ずるずるって関係っていうか、もうそっちの彼も生活の一部みたいな気がしてこない? マンネリ?  私の彼は若いからいずれ別れる事にはなるだろうけど、芸能人みたいに雑誌に撮られるわけでもないし。なにがあったの?」

「いや、、、(え、しかもダブル不倫だったの?)  なんか、突然、彼を気持ち悪く感じ始めて、来月になれば戻るかもしれないけど。ははは、、、(真奈美ちゃんも彼氏いるのかい!あの人そんな事に一言も触れなかった。7人のグループ内に3人の不倫女性だから43%の確率でまだ日本は大丈夫だと思っていたのに、57%の確率に真奈美ちゃんが上げちゃったじゃない!。)」

少し、唖然としたけど、私は親友以外の人には、なるべく自分の話しは早めに切り上げる事を(心が病んでいない時には)心がけているし、長く話すと私が真奈美ちゃんでない事実がばれそうなので、話をすぐに切りあげて、

「千絵子さんの彼氏さんは最近どうなんですか?」と聞き返した。

女性は基本的に自分が質問してほしい質問をこちらに投げかけてくるので、私の話しが短くてもあまり気にしない。そして彼女達は自分の番がくると嬉しそうな気持ちが顔の表情や最初に口を出る言葉から隠しきれない。

千絵子さんは私の質問に嬉しさを隠す気も無い口調で、彼氏の話しを待ってましたとばかりに話し始めた。

千絵子さんの彼氏は息子の家庭教師だ。

「この間、彼ね、息子が帰って来る前にうちに来たから、チーズケーキを出して二人でリビングでお茶してたの、そしたら、彼、上唇のふちについたクリームチーズを一旦舌で取ろうとしたんだけど、私の視線に気がついて、私に向けて、こう、顎をあげて、目線は自分の唇の方に向けて、無言で、綺麗なぷっくりしたピンク色の唇についた白いクリームチーズを私に取ってくれと指示してきたのよ。  ほんと自分が可愛いってわかっている男は自分の可愛さを存分に利用するのよね〜。わかっているけどドキッとしちゃって。」と最近の彼の写真を、私が見せて欲しいと言う前に見せてくれた。 

若くて、ちょっと草食系男子に見えるけど、そんな事してるのか、人は見た目によらないなと思った。

「えー、彼かっこいいし、可愛いですね!!母性本能のくすぐり方わかってるなー、壁ドンならぬ唇クリームか〜。千絵子さん、そのクリームどうやってとったんですか?」 

エロいなクリームチーズと唇のコラボ、なかなかやるな草食系男子の皮をかぶった家庭教師。あざといけど私も今度やってみようかな。と思っていると、

「えー、こうやって 取ってあげたのよ。」と千絵子さんは私に顔を近づけ、潤んだ艶のあるコーラルピンクの爪で私の唇にそっと触れクリームを取る仕草をした。 私は、少し豊満な彼女の身体から出る熟した女性の少し温かい甘い香りの空気に少しむせた。

きっと、こんなに興味津々に適度に心地よく他人ののろけ話を聞いてくれる私のような存在は希少だろう。だが、時々、真奈美チャンの彼氏って一体誰なんだよ?と思って千絵子さんの話しが100%頭に入ってこなかった。


続く


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