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ショッピングモールのテナント工事ABC

すっかり放置してROM専になっていたnoteですが、アウトプットすることでストレス解消になるのでは、みたいなところがあり書いてみます。
今回は、ショッピングモールに入店するときの工事の分類についてです。
尤も、この業界であまり多くの企業に関わったことがないので、もしかすると違う考え方をしている会社があるのかもしれませんが、そこはまぁお察しください…。

テナント工事ABC、と書きましたが、これは「いろは」のような話ではなく、実際に「A,B,C」と分けているからそうしています。ではそのABCが何なのか、以下に記録しておきたいと思います。

1.工事の分類

ざくっとショッピングモールにおける工事を分類すると、デベロッパーが行う建物全体の工事と、テナントが行う各区画内の工事とに分かれます。

デベロッパーが行う建物全体の工事というのは、例えば共用部分(売り場ではない通路や後方の共用部分)や、建物の躯体(基本的な構造部分)の工事、といったショッピングモールそのものの工事、といった部分です。デベロッパーがゼネコンにまとめて依頼するなど、自らの責任と負担で行う工事です。

テナントの工事は、消費者の視点で言えば、売場で見かける内装部分の工事、ということです。棚であったり床壁天井、ショッピングモールによっては共用通路に出ている看板もそうでしょう。これらはテナントが、デベロッパーの定めた規則などに従いつつも、自らの費用負担で行う工事です。

これらの工事のどちらなのか?ということをショッピングモールを歩いているときに意識することはあまりないと思いますが、ショッピングモールにテナントが入店するにあたっては、どこまでを誰が工事するのか、という投資の分担の話になるので、大変重要な話であります。

2.A工事とそれより前の工事

いきなり「A工事」という単語を使ってしまいますが、A工事というのはデベロッパーが、自らの費用負担で行う工事のことを一般に指します。既に記載のデベロッパーが行う工事、は殆どA工事と言って良いと思いますが、あえて「A工事」という場合は、テナントの使う区画に関係する工事のうち、デベロッパーが行う工事のことを指します。

具体的には、テナントとテナント、テナント区画と共用部分、それぞれの境目になる壁の工事であったり、床や天井、柱といった構造部分の工事を指します。一部、防災設備やインフラ(電気・ガス・水道)をテナント区画まで引っ張ってくる場合に、その引っ張ってきた末端までの工事をいうこともあります。

3.B工事

「B工事」はなかなか厄介な存在です。

A工事のようにデベロッパーが負担する工事ではないのですが、テナント任せにしてしまうとショッピングモールの運営に大きな影響を及ぼす工事のことをB工事と呼んでいます。

ショッピングモールの運営に大きな影響を及ぼすというのは、防災設備(一例としてスプリンクラーの設置など)や、インフラ設備の一部(防水やインフラ引き込みのA工事との接続部分)といった工事です。

ではB工事はA工事と何が違うのか?というと、A工事はデベロッパーが負担して行う工事であるのに対し、B工事は、テナントが負担するものの、どの業者が施工するかというのをデベロッパーが指定する工事である、という点であります。

これらの工事は、たしかにテナントが専有する部分に係る工事ではあるのですが、好き勝手にテナントが工事してしまうと、ショッピングモール全体の運営に影響が出かねないものです。
例えば防火設備としての火災報知器を考えると、あるテナントの火災報知器が作動した場合、ショッピングモール全体で緊急放送が鳴動し、映画館では映画の上映が止まり、マッサージ店では施術を一時中断して、接客中の店員は顧客を売場から避難させるためにどうしたらいいか、と動かなければいけなくなります。

上記のようなショッピングモール全体への影響を踏まえ、B工事は、ショッピングモール全体を司るデベロッパーが信用できる相手にのみ任せる工事、という定めをしています。言ってしまえば能力上はデベロッパーが信用できる相手でなくてもできるのでしょうが、ショッピングモール全体の経営を預かるデベロッパーとすれば、適当な業者が適当な工事をされてしまったら怖い…と思ってしまうわけです。そんな引き合いからB工事という定義が生まれ(てしまい)ました。

4.C工事

C工事は、テナントが独自に業者も選定して行う工事です。

じゃあ好き放題選べるね!とここまで読んでいただいた方は思われるかもしれませんが、ところがどっこい、そうはいかないのです。
ショッピングモールは、知らない人からすれば全て同じ企業が運営していると思えるほどに、一体的な経営が求められているものであって、種々の規制(デベロッパーが独自に設定したもの!)に従うものです。
ですので、設計、施工といった基準はデベロッパーの定めた基準(あるいはデベロッパーが承認した内容)に従わないといけない、とされています。

こういった厳しい基準に基づいて、ショッピングモールの見た目は統一されています。これが安全・安心につながっていると私は思いますが、一方で金太郎飴的なショッピングモールと言われる所以もこのあたりにあるのではないか?と思ってしまうので、難しいところと思います。

5.日々の修繕・維持管理

上記のように工事の区分が行われている一方で、テナント区画内の修繕・維持管理は全てテナントが行うようにされているのが一般的だと思われます。穿った見方をしてしまえば、デベロッパーはテナントに規制だけかけて、日々の運営は全てテナント任せ…ということなのかもしれません。

デベロッパーで働いている立場からのポジショントークが許されるならば、ショッピングモールの運営は数百億円の施設であってもせいぜい数十人で行っており、現実的に各テナントの内装まで見ていられない、ということがあります。

6.「原」状回復工事

テナント区画の工事で結構モメるのが、原状回復工事です。「原」状回復工事と書いたのは、よく「現状」と勘違いされてしまうからです。

ショッピングモールに限らずですが、商業不動産(オフィスではなく、小売など)であれば、退去する際にはスケルトン返し=内装はすべて撤去し、躯体現しの状態で明渡しする、というのが一般的かと思います。

しかし、昨今の市況では、そもそも入居する際に前テナントの内装が残置されていたり、一定度のデベロッパー投資内装がある状態で入店するというテナントも多くあると思われます。

そういった場合にモメるのが、どこが「原状」、つまり元々借りたときの状態、あるいはデベロッパーがどこまで戻してほしいと思っているかの状態、についての認識であります。

私個人として頻発していると思うのは、テナントは「原状」を「借りたときの状態」と見ていて、デベロッパーは「デベロッパーが決めた状態=躯体現し」と思っていることにより、認識のズレが生じて明渡し状態の認識が契約上ずれてしまう、ということによるトラブルです。
このトラブルで難しいのは、どんなに早くてもショッピングモールのテナント契約は開始から終了まで1年以上の期間はあるために、開始時の「原状」についての認識が一致できないこと、だと考えます。
よくわかっている貸主・借主だと、原状の写真を契約書に添付するなど手当するわけですが、大概契約開始時に契約終了時のことは考えていないものです。
もうこれ以上話そうとすると具体的な事例について話さないといけないので黙ります。w

結局この話で伝えたいのは、契約書において曖昧な部分を残すな!ということであり、テナント契約においては「原状」にその曖昧さが出やすいのではないか、ということです。
もうこれ以上不毛な争いを繰り返さないために、借りる方は終わるときを想像していただきたいのと、貸す側は良い話ばかりするのではなく、終わるときのことを想像して約定していただきたいと思います。。。

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