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映画レビュー ヒトラー暗殺13分の誤算

制作 2015年 ドイツ
監督 オリバー・ヒルシュビーゲル
出演 クリスティアン・フリーデル

あらすじ
1939年11月8日、恒例のミュンヘン一揆記念演説を行っていたヒトラーは、いつもより早く切り上げた。その後、仕掛けられていた時限爆弾が爆発――ヒトラーが退席して13分後のことだった。その爆弾は精密かつ確実、計画は緻密かつ大胆、独秘密警察ゲシュタポは英国諜報部の関与さえ疑った。しかし、逮捕されたのは36歳の平凡な家具職人、ゲオルク・エルザー。彼はスパイどころか、所属政党もなく、たった一人で実行したと主張。信じ難い供述の数々―。それを知ったヒトラーは徹底的な尋問を命じ、犯行日までの彼の人生が徐々に紐解かれていく。(アマゾン商品紹介より)

主人公ゲオルグが爆弾を仕掛けているシーンから始まります。
つまりこれ、犯人捜しミステリーの要素はゼロです。
そして開始5分であっさり捕まります。逃亡劇要素もゼロです。
ヒトラー暗殺未遂の犯人ゲオルグ・エルザ―の実話を基に
彼の青春期から犯行に至る過程と捕まってから拷問にかけられる様子が交互に描かれていきます。
エンタメ要素はほぼありません。説明もほとんどありません。
ヒトラーとナチスについてある程度知ってる人が、なぜかを考える、検証するには意義ある作品だと思います。
ヒトラーに単身で対抗しようとした主人公をヒーロー的に扱う視点もありません。もしも暗殺に成功していたとしても、歴史はたいして変わらなかっただろうと思わされる描き方です。ナチスズムは、もう一部の指導者だけの手から離れて、どうしようもなく民衆レベルにまで深く根付いていたのではないかと感じます。
作品全体を包むのは虚無と諦観。

青春時代、村一番のプレイボーイだったゲオルグはある人妻に恋をします。
人妻は毎日、夫に暴力を振るわれているのですが、決して別れようとはしません。
ゲオルグが一緒に逃げようと誘っても、「どこに逃げるというの?子供たちはどう養っていくの?」と現実的です。
夫の目を盗んでの情事には応じても、駆け落ちには決して応じないのです。
このことは
独裁制だったからこそ恐慌からのスピード脱出を実現したヒトラー政権と、
そこを評価し、暴力には目をつぶったドイツ人の選択と重なる気がします。
拷問のシーンでは、ナチ式拷問の一端がかなりリアルに描かれていきます。
はじめは何をされても沈黙を貫いたゲオルグですが、恋人(不倫の人妻)や母親の名前を出されたのを機に、すべて正直に話し始めます。
しかしナチス親衛隊SS大将は、単独での犯行ということは信じようとせず
背後の組織的関係を吐かせろと指示し、拷問は続けられていきます。
正直に話しても拷問は続き、チャーチルの指示でやったなんて嘘をついても拷問は続けられ・・・なんでしょうねぇ。
どんな事実も、自分にとって都合のいい事実しか事実として認めない。これもまたナチスだけのものではなく、いつの時代のどこの国にも共通する人間のサガにも思えます。
結局ゲオルグも、自分の暗殺計画は間違っていた、ナチスに入党しますというサインをするのですが・・
これ、どうも拷問に屈したということではなく、そういう人間のサガによって成り立つナチス支配の世の中は、ヒトラー1人を暗殺したところで、どうにも変わらないと悟ったということではないか、と私は解釈しました。

大きな歴史の流れというものはそう簡単に変えられない。
現代の世界を見渡しても、数ある問題に私たちは無力です。
しかしながら
他人の心や、世の中は変えられなくとも、自分の心の中は変えられる。
そういう一人ひとりの心の変化が、やがて少しづつ歴史の変革になると信じて・・。

たまにはこういう映画から、過去から現在、未来、人間を考える事も大事だなぁ
と思ったのでした。

前回の「ヒトラー最期の12日間」につづき
オリバー・ヒルシュビーゲル監督2作品です。
ドイツ人として、過去を検証し教訓を得ようという姿勢が
いいですね。



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