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「わたしの美しい庭」 凪良ゆう 読書感想

初版 2019年 12月 ポプラ社

あらすじ
小学生の百音と統理はふたり暮らし。朝になると同じマンションに住む路有が遊びにきて、三人でご飯を食べる。
百音と統理は血がつながっていない。その生活を“変わっている”という人もいるけれど、日々楽しく過ごしている。
三人が住むマンションの屋上。そこには小さな神社があり、統理が管理をしている。
地元の人からは『屋上神社』とか『縁切りさん』と気安く呼ばれていて、断ち物の神さまが祀られている。
悪癖、気鬱となる悪いご縁、すべてを断ち切ってくれるといい、“いろんなもの”が心に絡んでしまった人がやってくるが――
(ポプラ社HPより)


凪良ゆう、二冊目。
どうもこの人はマイノリティーな人たちの話がライフワークなようです。
本作もまず、百音(ももね)小学5年生と統理(とうり)の関係。
百音が5歳の時に交通事故で両親を亡くし、
百音の母の元旦那だった統理が引き取って育てている。
他にもっといるだろう? 伯父さん伯母さんとか、おじいちゃんおばあちゃんとか・・・。
なぜ元旦那が出てくる?のかは語られない。
近所の人たちからは「なさぬ仲」とうわさされ、百音の学校の友達からは
百音の前で家族の話は禁句と気を使われている。
同じマンションに住む路有(ろう)はゲイ。
さらに同じマンションに住む桃子は39歳にして高校生の頃の初恋が忘れられず
いき遅れ、職場ではお局様。母からは見合いを強要され、断れば「娘気分が抜けないね」と言われている。
桃子の初恋の彼の弟の坂口基(もとい)は33歳。大手ゼネコンの剛腕営業マンだったが
突然鬱病を患い退職。実家でニートしながら精神病院通い。結婚を予定していた恋人からも別れを切り出される。
そんな人たちのエピソードがオムニバス的に描かれていき、
最初と最後は百音と統理の話で締めくくるという構成。
統理はマンションの管理人さんで屋上縁切り神社の宮司でもある。
「めぞん一刻」の響子さん的な感じ・・・とは古いか。

この人の話はマイノリティーな人たちを扱っている話にしては重苦しさがない。
むしろ爽やかな雰囲気に終始包まれている。
その要因として、こういう話にお約束の偏見や差別的視線を向けてくる、
露骨な‟嫌な奴”が出てこない。
周囲の人たちはそれぞれに彼らの立場の理解者であり、
思いやりと善意の言葉をかけてくれる。
しかし当人たちの思いはなぜかままならない・・・・。
これはまさに今の時代を投影した新しいマイノリティー小説だと思う。
昨今、たしかに露骨な偏見や差別的視線を向ける人は少なくなった気がする。
マイノリティーが社会的立場を確立しつつある時代に入ってきたのか?
結局は「エセ理解者」による「エセ思いやり」ではないのか・・。
そう受け取るのは素直じゃないのか・・。
受け手側がひねくれているのか・・。

ラスト屋上縁切り神社でそれぞれが切りたい縁を型代に書く。
桃子「お見合いの斡旋」
基「再就職の斡旋」
百音「へんな思いやり」

学校で家族の話になった時友達から謝られて、なぜか悲しい気分になった百音。
「わたし、優しくしてくれてありがとうねって思えばいいのかな」
「そんなことを思う必要はない」
「でも優しくされたのに嫌な気持ちになるなんて間違ってるんだよね?」
「間違ってない。百音の感情は百音だけのものだ。誰かにこう思いなさいと言われたら、まずその人を疑った方がいい。どんなにすばらしい主義主張も人の心を縛る権利はない」
統理は静かに、けれどキッパリと言い切った。

うん。統理さん。素敵です。


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