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もっとその奥にある問題があるのでは?~奈良県立民俗博物館の歴史史料廃棄について~

奈良県立民俗博物館(大和郡山市)の展示室の公開が、16日から休止されることが発表されました。
https://www3.nhk.or.jp/lnews/nara/20240710/2050016463.html
このニュースをTwitterで発見したとき、
「あぁ…とうとう始まったか」
と私は思いました。

私は国立博物館で数年、歴史史料を保管する「収蔵庫」と言われるエリアで働いていました。博物館の中でも特に出入りが制限されているエリアです。

今回の奈良県立民俗博物館の収蔵品の整理は、老朽化した電気設備の改修を進めるためとありました。普通に考えれば老朽化に備えた対応を10年以上前からとるものなのですが、予算の関係でそれがままならなかったのであろうなと私は察しました。
山下知事は会見で「ルールを決めた上で価値のあるものを残し、それ以外のものは廃棄処分することも検討せざるを得ない」と述べていました。

私は博物館などの文化保管研究施設ならではの費用や人材問題がここに深くかかわっていると思っています。

①     収蔵品の管理の難しさ(保管環境の調整)
歴史資料はその年代や物の性質により、湿度や温度、圧力の管理が異なります。例えば、縄文土器と近現代の戦争遺物では、保管方法が異なるため、それぞれに適した環境を整える必要があります。

②     収蔵スペースの不足
大きな収蔵庫を持つ博物館も存在しますが、ほとんどの博物館は既に収蔵スペースがいっぱいです。近年の予算削減により、新たな収蔵スペースの設置も難しくなっています。

③     専門家の配置と人件費の課題
収蔵庫管理には専門知識が必要であり、専門家の配置が重要です。しかし、ほとんどの博物館は人件費を確保できず、いまや専門家の配置はできなくなり非正規雇用の知識のないスタッフが担当するケースが多いです。またそうしたようやく知識を獲得した非正規雇用のスタッフもまた勤続ルールの兼ね合いで数年したら退職する傾向が多いです。これにより、知識の継承が難しくなっています。

④修繕のための仮スペース
今回のケースでは、修繕のための仮スペースを探しているようですが、収蔵品によっては他の博物館の収蔵庫を借りる必要があります。しかし、専門的な移送が必要であり、その費用は非常に高額です。

⑤燻蒸の必要性とその費用
仮スペースから収蔵庫に移す前に、一度燻蒸という処理が必要です。燻蒸は専門家や専門会社によって行われ、担当者は危険物作業のために年二回の特別な健康診断を受ける必要があります。そのため、燻蒸にかかる費用も高額であり、多くの博物館では年に一度実施するのが精一杯です。

⑥予算の厳しさと社会的背景
今回の史料廃棄について、多くの批判があることは承知しています。しかし、国立の博物館でさえ厳しい予算の中で運営されている中、自治体の博物館はさらに予算が厳しい状況です。博物館の予算は生活に直結しないため、自治体や国は生活保護や高齢者施設、保育施設などの教育予算を優先し、その後に博物館などの予算が割り当てられます。

フランスよりも高いGDPを持つ日本がフランスの半分もいかない文化予算しかありません。図参照


https://www.globalnote.jp/post-1409.html
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/pdf/93709801_01.pdf

文化の保全ができなくなるほど、我が国は衰退し始めている。
文化の保全は生活に直結しませんが、一種の贅沢であり、日本人であるという誇りや教養に関わるものだと私は思っています。
私はこのニュースから日本人の心の豊かさや学びへの意欲、何よりも経済的なゆとりが失われてきていることを象徴しているのではと危惧しています。


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