読書感想 永井沙耶子「大奥づとめ よろずおつとめ申し候」
永井紗耶子さんの名前を知ったのは直木賞を受賞された時。「木挽町の仇討ち」は面
白いという話を聞いていたので是非読みたいと思いつつも積み本になっていた。
5月ごろ、ランニングの練習会で一緒に走ってくれた人と本の話になった時、その人
も「木挽町」を絶賛していた。早速読んでみたところ、面白すぎて久しぶりに電車を
乗り過ごした。
時代小説は嫌いではないけれど、なんとなく後回しにしがちだった自分に右ストレー
トをお見舞いしてやりたい気持ちになった(笑)
月が替わって6月、コロナで延び延びになっていた高校の同窓会が何年かぶりかで開
催された。
会の最後に何と、「10月に卒業生で直木賞作家の永井紗耶子さんの講演会があります
」というインフォメーションが!
なんてこった!!どうやら永井さんは高校の後輩だったらしい。
同窓会直前に「木挽町」を読み終わっていた私、何というナイスタイミング!!
私は目が見えないので1人では講演会には行かれない。だから周りの同級生たちに一
緒に行ってくれないかと謎のテンションで声をかけまくる。
この講演会は卒業生限定なのだ。
だけど、4ヶ月後の予定なんかわかっている友達なんか見つからない。
この講演会、本来はオンラインで申し込むところ、私は例によって例の如く画像認証
ではじかれた。なので同窓会事務局に電話で目が見えないからオンラインで申し込め
ないという話や、私ともう1人ガイドヘルプをしてもらう人と二人分予約できないか
とお願いしたら快く了承してくださった。
ありかとう、合理的配慮!!
そして今、10月の講演会に向けて音訳されている永井作品をちまちま読んでいる。
その中でも「大奥づとめ」はお仕事小説ではあるけれど、女子高時代を懐かしく思い
起こさせる作品だった。
学年は離れているけれど、あのギスギスしていないまったりとした空気感は学年が変
わっても踏襲されているのだろうか。
大奥というと、今は男女逆転なんていうのもあるけれど、一般的には将軍の寵愛をめ
ぐって足の引っ張り合い、ドロドロの愛憎劇が想起される。
しかしこれは「女は嫉妬深く欲深い」という男性によって作られた女性の間違ったイ
メージ。
ちなみに私は社会人になって男性同士の嫉妬やいじめの方が実はえぐくて苛烈である
ということを初めて知った。
同じ女子高出身ということが判明したから余計そう思うのだろうか、この作品中に出
てくる大奥の生活は女子校に通じるものがあるような気がした。
大奥では女子高同様ありとあらゆる仕事がすべて女性によって担われる。もちろん力
仕事もだ。
将軍の愛人(?)はその中のごく一部。大半は大奥という大きな社会を動かしている働
き手。だから男性中心の江戸の社会でここは唯一女性があらゆるキャリアを持てる場
所なのである。
駕籠かきも大奥の敷地内では女性が取って代わる。
掃除洗濯、食事の支度はもちろん、事務も経理もミュージシャンもダンサーもすべて
女性。その中に将軍のお手付きになったもの、子供を産んだものなどがいる。
大奥づとめをする女性は旗本の娘であれ庄屋の娘であれ、皆ある程度の家柄の子女。
大奥づとめを経験した女性は行儀作法を徹底的に仕込まれたということで嫁入り先も
引く手あまた。
一方では自分の技能を活かして1人身で仕事を継続する余生もある。
この作品の中では男性が期待しているような女同士の醜い争いや足の引っ張り合いは
起こらない。
もちろんそんなにきれいごとではすまされないこともあるし、日常的に問題は次から
次に起こってくる。女性たち一人ひとりそれぞれのバックグラウンドがあり、キャラ
クターも性格も人それぞれ。
コンプレックスがあったり、負けず嫌いだったり、上昇思考が強かったり。そこには
彼女たちのリアルがある。
体育系並みの縦割り社会で年齢も身分も様々、それでもこの物語の中の人間関係は皆
厳しさの中にも優しさがある。
そこに女子校の雰囲気を感じるのは私だけだろうか。
一般的に女子校の方がいじめや仲間外れがひどいような印象を持たれているようだが
、私は共学の方が異性の目がある分人間関係が複雑な気がする。
見た目で男女共1軍2軍に分けられていて、カーストから外れると人間認定してもらえ
ない?
これこそ偏見の塊、ラノベの読みすぎだろうか(汗)
大奥でのおつとめは多種多様。向かない業種に回されたり適性があると思って入
ったところがあまり合わなかったり。
思わぬところで上の人に引き上げてもらったり、頼りないと思っていた上司の意外な
面を発見したり。
時代は違えど、彼女たちの生きざまは今の私たちに通じる。
多くの登場人物がいる中、誰もがきっと共感できる人、感情移入できる人がいるので
はないだろうか。
大奥は昔の話だけれど、その内実は私たちの近くにいるあの人やあの人の話なのであ
る。
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