転生したら膝枕だった件

かわい いねこです

今井先生の懐の深さとやまねさんの「ウエストサイドストーリー」に触発されて、調
子こいて二次創作ならぬ三時捜索を書いてしまいました。

ついでにきいくんママとお話ししていた時に思いついた「猫を膝枕に乗せる」計画を
実践いたしました。

やまねさん、許可も取らずすみません。

不愉快だったら側溝消去しますので言ってくださいませ。

相変わらず誤字脱字もあるとは思いますが、ご容赦くださいませ



原作:今井雅子
二次創作「ウエストサイドストーリー」:やまねたけし
三次創作:かわい いねこ

転生したら膝枕だった件


俺は暗闇と振動の中で目覚めた。
小刻みな上下運動が、脛の下の柔らかな座布団を介して伝わってくる。

地震が起きているのだろうか。

しかもこの馬のひづめの音みたいなのはなんだ。

そもそも、ここがどこなのか俺にはうかがい知ることができない。

振動が止まった。

ホッとしたのも束の間、

何だか厚ぼったい布が盛大にこすれる音がした。

今度は、ギィという音と共に、暗闇が わずかにほころんだのを感じた。

次の瞬間、俺は自分の体が持ち上げられたのに気付いた。

同時に自分は腰から下だけ、しかも正座した姿勢に固定されていることに気づいた。

「なんじゃ、こりゃー!」

目いっぱい叫んだつもりだったが、外部には聞こえていなかったらしい。

俺はお尻を下にした逆三角形の形で揺られた。
俺を運んでいるやつが歩みを進めるたびに、膝と腰と足に痛みが走る。
お姫様抱っこは、足を伸ばすから安定するのだ。

膝と腰への負担がピタッと止まった。

「ごくろうさまでした。」

静かな男の声とともに次の瞬間、体がフワッと浮いた。
俺は2人の男の間を移動したのだということが分かった。
今度は、かかと、お尻、腰が正確に積み上がっているのを感じた。

周期的な振動が止まった。
腰の上で、ガタガタという音がしたかと思うと、俺の世界はパッと明るくなった。
すると、2本の手がぬっと俺の脇を通った。
俺はゆっくり持ち上げられ、今度はゆっくり降ろされるのを感じた。
なんということだ、。俺は箱の中にいたのだ。


そこはテレビや写真でしか見たことのないようなヨーロッパ風のお城の大広間だった


目の前にはトランプの王様みたいな人がいる。
いや、リアルに王様だろう。

王様の周りには偉そうな大臣っぽい人が数名いて、広間の周囲には等間隔に護衛の兵
士らしき人が直立不動で立っている。

転生だ、これはラノベ界の王道、異世界転生だ!

しかし、なぜ膝枕、!?

これでは冒険したり魔物を倒したり美女と結ばれたりできないではないか!

スライムや蜘蛛に転生してしまった例はあるけれど、膝枕はないだろう!


俺を恭しく箱から取り出した男はびっくりするほど美しい男だった。

長いサラサラの銀髪に菫色の瞳。
背の高い痩身に丈の長いローブを身に着けている。

こんな美しい人間は見たことがない。
いや、人間ではないのかもしれない。


「魔導士シュプールよ、ご苦労であった。」

トランプの王様が膝まづぃて礼を取っている男に声をかけた。

「こちらが異世界から召喚いたしました膝枕でございます。」

男が厳かにのたまった。

「ヒサコをこちらへ」

王様の声かけとともに女官に連れられた美少女が入ってきた。

美少女登場!!
王道展開来たー!

・・・と思ったのもつかの間、なんか様子が変である。

きれいな女の子なのに腰が引けているしめがキョトっている。
落ち着きなくあちこちを見回した彼女がとうとう口を開いた。

「シュ・・シュプール、お、お、お勤めご苦労であった」

ムショ帰りのヤクザの鉄砲玉かと心の中で突っ込みを入れつつ、同時に俺は彼女を放
ってはおけないという気持ちにさせられた。

「この子、この国のお姫様だろう?こんなんで大丈夫なのか!?」


「ヒサコ姫、こちらに持参致したものが、姫のために異世界より召喚いたしました膝
枕でございます。この膝枕、きっと姫のお心をお慰めいたしましょう。」

「あ、ありがとう」

ひめが蚊の鳴くような声で男に礼を言った。


こうして俺のメンヘラコミ症美少女姫との共同生活が始まった。



「その……着るものなんだけど、男性の服ってよくわからなくて……」

おれはどう反応していいかわからず、膝頭を少し弾ませた。
このとき俺はピチピチのショートパンツを履いていたのだが、正直なところ俺の好み
ではなかった。

「女官にいっていくつか持ってこさせましょう」
願ってもない提案に俺はさっきより大きく膝を弾ませた。

***

ヒサコ姫は少しずつ俺に話しかけるようになった。
***

朝、やわらかなマシュマロにうずもれる夢を見ましたと姫が教えてくれた。
それから姫は、今日は俺の服を見にに行こうと言ってくれた。

その日は俺にとって忘れられない思い出になった。

「あなたは白のイメージですね」

姫なりに一生懸命考えてくれたのだと思った。

しばらくして、
「こういうの似合いそうですね。これなんかいかがです?」

ひらひらが膝頭をくすぐる。

スカートは落ち着かないけれど、姫が喜んでいるし、中世ヨーロッパの世界観ならこ
れもありなのかと自分を納得させた。

兎にも角にも、新しい衣装に着替えた俺を姫はとても褒めてくれた。

「いいですね。すごく似合っています。もう我慢できません。恥ずかしいけれど、あ
なたの膝に頭をのせてもいいですか」

突然のことで驚いたけど、初めて姫の頭を受け入れることができた。これこそが膝枕
の本懐なのかもしれない。

スカートの裾から飛び出した膝を、姫はやさしくなでながら呟いた。

「この膝があればもう何もいりません」

天にも昇る気持ちというのは、まさにこのことを言うのだろう。


姫は家庭教師の下で勉強したり、公務があったりと意外と忙しかった。

暗闇と一人ぼっちには慣れていると思っていた。
だが、誰かと一緒にいることを知ってしまっては、もうあの頃には戻りたくない。

俺は姫が戻ってくることを心待ちにするようになった。


そのとき俺は膝をにじって動けることに気付いた。
俺は部屋の前で待つことにした。

「ただいま!」

言ったそばから、姫は俺の膝に飛び込んだ。
姫も俺のことをずっと思ってくれたのだと思う。
俺に膝枕をされながら、姫はその日の出来事を話してくれた。
まあ、必ずしもおもしろいとは思わないが、一生懸命さは伝わってきた。

俺は膝の動かし方、震わせ方を微妙に変えることで姫にリアクションした。
そうすると姫もどんどん話してくれるようになった

「私の話、面白いですか?」

俺は膝頭を合わせて拍手した。

姫のコミ症はいつの間にかどこかに行ってしまい、声にも表情にも自信があふれるよ
うになった。

そしてもともと美しい姫なので、その美しさは一層輝きを増していった。


こんな毎日がずっと続けばいいのにとおもっていたが、
、俺たちの幸せな時間は長くは続かなかった。


その日は姫の帰りがいつもより遅かった。

姫は俺の膝に頭を乗せると言った。

「やっぱりあなたの膝枕がいちばんですね。」
「やっぱり」とはどういうことだ?

俺は膝をこわばらせた。。
姫も俺の変化に気づいたようだ。

その時、女官が鳴らすベルの音が聞こえた。
姫は驚いて飛び起きた。反動が膝に伝わり、脛に痛みが走った。

女官たちが入ってくると、姫の身支度をはじめた。

姫は完璧にドレスアップすると、女官たちと出て行った。

俺は嫌な予感がした。

膝をにじり、姫の後を追おうと、少し開いたドアから外に出た。

しかし広い城の中はどこがどこだかわからない。

俺は懸命に膝を動かした。
動くたびにすねが擦れ、前に進めば膝頭が打ち身になった。

俺はとうとう力尽き、意識を失った。


気が付くと俺は部屋にいてそばには姫と女官たちがいた。

女官たちが俺の傷ついた膝や脛に薬を塗ったり包帯を巻いたりしていた。

俺は膝をこすりあわせていじけてみせた。

「焼きもちを焼いてくれているの?」

姫は俺を抱き寄せ、傷だらけの膝をそっと指で撫でてくれた。

俺は左右の膝頭をぎゅっと合わせた。それから膝をこすり合わせて姫を誘った。

「いいのですか? こんなに傷だらけなのに」

「いいよ」と言いたいのに、声を出せないことがこれほどくやしいことだとは。姫に
は想像がつかないだろう。
代わりに俺は左右の膝をかわるがわる動かした。
姫は打ち身と擦り傷を避けて、俺の膝にそっと頭を預けた。

「やっぱり、あなたの膝がいちばんです」


その数週間後ヒサコ姫と隣国の王子の婚姻が決まったという知らせが俺の耳にも届い
た。


「ごめんなさい。これ以上一緒にはいられないのです。でも、あなたも私の幸せを願
ってくれますよね?」

何という身勝手!!この膝があればもう何もいらない、と言ったのはどこのだれだった
か。

俺は姫の手によって元の箱に戻されてしまった。
一度明るい世界を知ってしまった今となっては、箱の中は漆黒に漆黒を塗り固めたよ
うに感じた。

誰ともわからない人間に運ばれている間、俺は不安と恐怖とで動くことができなかっ
た。


幾時間が経っただろう。
真っ暗闇の中、雨が降ってきた。
涙を流せない俺に代わって、空が泣いてくれているのかもしれない。
箱の隙間から入った雫がスカートの裾を濡らす。

俺は雨の寒さと、捨てられた悔しさとで膝を震わせた。

すると遠くからやってきた馬車が目の前で止まる音が聞こえた。

「間に合いましたね。ああ、何と可哀そうに。」
誰かの声が聞こえた。
俺は自分の存在をアピールするために膝頭で箱を蹴った。


俺は箱ごと馬車に載せられ再びどこか絵連れ去られた。


「うわっ!」

という驚きの声と同時に光が差し込んだ。
男が蓋を開けたのだ。
俺の姿にびっくりしたのだろう。
無理もない。
俺の膝は暴れたせいで血まみれになっていたのだ。

「だ、大丈夫ですか?」

男の声が聞こえた。
心配してくれているようだ。

男は最初に俺を城に連れて行った魔導士だった。


彼は俺を見て言った。

「早く手当てしないと!」

彼は俺をやさしく抱き上げ、奥の部屋へ連れて行った。
膝から滴り落ちた血が床に落ちないようローブで受け止めてくれた。
俺の膝に傷薬を塗りながら、彼は申し訳なさそうに言った。

「大丈夫ですか? しみていませんか? ごめんなさい」

傷だらけの膝を前に彼はこれまでのいきさつを話してくれた。


ヒサコ姫は王家によくありがちな展開で隣国の王子と結婚することになっていたが、
同世代の男性とうまくコミュニケーションを取れないのは本人にも嫁入り先にも辛い
結果になる。

そこで魔導士シュプールはヒサコ姫のコミ症をどうにかするよう王命を受けた。

+シュプールは以前から目をつけていた脚線の美しい異世界の男を召喚したいと思っ
ていたが、召喚は大事業なので個人の趣味レベルでは行えない。

そこで渡りに船と「ヒサコ姫のために」という大義名分のもと、まんまと膝枕を召喚
したのである。

ヒサコが膝枕を機にいるかどうかは正直かけであった。

しかし、事実は予想をはるかに上回り、ヒサコは膝枕を大変気に入り、コミ症も克服
し、無事王子との婚約も果たした。

そして役目を終えた膝枕は無事シュプールのもとに帰ってきたのである。

「おかえり。これでもう君は私のものだ。」

男の長い指が俺の太ももをいとし気に愛撫する。

ええ、こりゃどういうこっちゃ!!

すると突然男が光に包まれた。
かと思うとそこに銀色の長毛も美しい菫色の瞳の猫が現れた。
「こいつ、やっぱり人間じゃなかった!!」

猫はおもむろに俺の膝に乗ってくると、ゆっくりと丸くなった。

絹のような毛の感触と暖かい重みがヒサコの頭とは違った癒しをくれた。

「思った以上の乗り語ごちだ。君の膝はやはり長さも太さも私の理想通りだよ。」

俺の心の中に声が響いた。

こうして、モンスターとの戦いもなく、目くるめくような恋愛もない、美しい猫と俺
とのまったり異世界ライフが始まったのである。

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