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中国旅行記その1〜女神降臨

2019年、初めて中国に行ってきたときのことを思い出しながら書く。

踏みしめる中国本土、わくわくしてブレる

ボ―――――――――――――
というのは汽笛でも北京市内の騒音でも何でもなく、私にだけ聞こえる音。
左耳だけ音が籠って聞こえる。
飛行機を降りてからも延々と機内モードが続く感じ。
旅の出発前から万全の体調というわけではなかったけれど、そのまま薬に頼ることもなく旅程を進めたらこれだ。風邪薬を買い込んでおけばよかったなと今更悔やむ。漢方の本場であるここで何か効くものを買おうかとも思ったが、だんだんしんどさを増していく足をこれ以上引きずるのも嫌だった。

今回のお宿。このドアずっと開いてた気がする。
番号いっぱいだー!のノリで撮った。今見ると、この自転車きれいね。
”楼”が読める!漢字って便利!

どんなドアでも開ける瞬間はちょっと緊張するのは私だけだろうか。
それが特に初めて訪れる国の、知らない場所のドアであれば尚更。
柔らかい笑みを浮かべたおじい様が中国語で出迎えてくれた。
「ニイハオ」の一言くらいは言えるぜ!の気持ちで3回くらい言った気がする。
この頃から、体中の水分が鼻水に変換されてるんか?というほど鼻水が止まらない。おじい様のご厚意に甘えて箱ティッシュを抱え込む。

ずっと中国語で話しかけてくださるので、英語で「すみません、中国語がうまく話せないのです」と伝えてみる。
おじい様は変わらず中国語で受け答えしてくださるのだけど、…

…あれ?!英語話せるって…予約サイトに書いてた…よね?!
困惑をそのまま顔に出すのはなんとなく嫌で、その疑問は口に出さず飲み込む。

壁に貼ってあったWi-Fiパスワードを打ち込み、
このままコミュニケーションがとれなかったらどうしようか…と頭をもたげだした不安は掻き消し、
なるべく顔に平静を貼り付けて
翻訳…Googleが使えないのは事前に分かっていたのでBaidu翻訳に文字を打ち込む。

”英語を話せる方はここにいますか?”
”娘が話せます、娘が学校から帰ってきたら、あなたは英語で話せます”

な、なるほど…

”いつお帰りになりますか?”
”夕方かな!”

私が翻訳機を頼ろうとしても、お祖父様はあまりスマホには頼らず、中国語で話しかけてくれる。
私のクリアな右耳と相変わらずボ―――な左耳にきれいな音が流れこむ。せめて少しくらいわかる言葉がないかとあがいても、当然全く聞き取れない。ああ、こういう悔しい瞬間が言語学習を進めるのだ、と思う反面、翻訳こんにゃく欲しい、と本気で思った。

とりあえず部屋の代金だけでも…と支払いたい旨を伝える。
クレジットカードで支払えるはずが、なんか機械がうまく行かない!
日本発行のクレカではだめだったのかもしれないが、原因は分からないまま。
中国元の現金は…空港からの移動でほぼ使い切ってしまっていた。
そんなに用意してない!足りない!

そもそも近くに外貨両替ができるところはあるのかな?

鼻水ズルズルしながら散歩&Baidu地図で検索するも、金融機関らしいところは周囲に見当たらず。
やべ、どうしよ…


雨も降りだしてなんかしょんぼり

金なくて支払いできませんは最悪すぎる。
日本人観光客が代金を払わなかった、みたいな印象は絶対残したくない。
失意のまま、開きっぱなしのドアの中にとぼとぼ入る。

おじいさまが翻訳機を手に何か尋ねかけてきた。
お金のことで何か話があるのだろうか。
焦りを抱えながら画面に目を落として、書いてある文字を見る。


”家族にはもう連絡したの?心配しているかもよ”

画面から顔を上げるとおじいさんがにこにこ笑っている。

”大丈夫です、もう連絡しました。ありがとうございます。”

それは良かった、というような音程でおじい様が呟き、
くるりと背を向けてお部屋に戻っていった。

本当にそれが聞きたかっただけなんだ。
お金のことを気にしている様子の私を和ませようとしてくれたのか分からないけど、宿泊客がお金を払えないかもしれないというこの状況で、
この言葉をかけるにはどんな人生が必要なんだろうなあ。
あの一言で私の気持ちが少し晴れた。
こんな人になりたいと思った。

そうこうしているうちに玄関のドアが開き、
聡明そうな若い女性が入ってきた。
私を見るなり英語で歓迎の挨拶をしてくれて、
か、帰ってきたー!お嬢さんが帰ってきたー!!と叫びたい気持ちを抑える。

かくかくしかじか、クレジット決済がうまくいかないこと、
必ず用意するので、最寄りの金融機関を教えてもらえないか、手持ちの日本円と両替したいと伝える。
ふーむ、と少し考えたあと、彼女は日本円のレートは…とスマホで調べ出す。

知的な瞳が弧を描き、明るい声色でこう言った。

「私、今度日本行くから、両替なしで日本円でいいよ!」

目の前に、女神が降臨した。

つづく?


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