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カルフォニ村
2023年4月16日 14:11
「どうしましょうか?」 僕はたずねる。 男は——仮に〈教授〉としておく。 教授はショートケーキのフィルムを舐めながら言う。「どうしようもないさ」 僕らが話しているのは、扇風機のことだ。昭和時代に大量生産された骨董品。 半透明の羽根は青く、胴体部の塗装は剥げ落ち、錆色の地肌を見せている。強中弱のボタンを切り替えるたびに大げさな音を立てて、そのくせ、貧弱な風しか送ってこない。どのボタンを押し
2023年7月9日 14:26
街の名前は知らない。 知っているのは、何百年前に滅んだ街というだけ。 入口には錆びた看板があり、かろうじて〈…隊を希望され……〉の文字が判読できる。しかし、仮に文字が判読できたとしても、読む人がいなくなった現在となっては、わずかにできた日陰にしか価値がない。 風に含まれた砂が金属板にぶつかり、絶えずかすかな音をたてている。 見渡すかぎりの砂の色。アスファルトも、コンクリートも、砂の色。