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N市の記憶。もしくはその断片。

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note創作大賞2023 ミステリー小説部門 応募小説まとめ
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#ミステリー小説部門

小説/N市の記憶。もしくはその断片。#1 依頼

小説/N市の記憶。もしくはその断片。#1 依頼

依頼

 その事件を知ったのは、世間よりも少し遅いぐらいだった。犯人が逮捕されてから知ったのだから、その事件はすでに完結した、知られざる領域を残していないように思われた。
 雨が降っていた。
 どしゃ降りの雨が事務所の窓を打ちつけ、絶えず蛇行する曲線をつくって流れていく。
 依頼者が準備してくれた資料は、新聞の切り抜きをスクラップブックに糊づけしたものだった。波打ったページには、事件の記事が所狭し

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