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NVICアナリストのつぶやき第7回 「複利とどう出会うか~ドラえもんから始める投資教育~」

みなさん、こんにちは。NVIC note編集チームです。

今年最後の更新となる今回のアナリストコラムは、3児のパパ岡島が、以前のバイキンマンに続き、ドラえもんと投資を無理やり結び付けて綴っています。


複利とどう出会うか~ドラえもんから始める投資教育~

突然ですが、皆さんはドラえもんのひみつ道具のうち、何か一つ手に入るとしたら何を選びますか?

「どこでもドア」で世界中をタダでストレスなく移動しますか?
「タイムマシン」で未来や過去に行ってみましょうか?
「もしもボックス」で自分の希望通りの世界を作ってみるのもいいですね。

私がいまの仕事で生きていく上で切実に欲しいのは、海外出張時の「ほんやくこんにゃく」なのですが、シンプルにお金を得るということが目的であれば、もっといい道具があります。その話は後段で。


さて、先日某所で「投資とは何か?」をテーマにセミナーをやらせていただいた際、事前に参加者にアンケートを取りました。

「投資についてどういうイメージを持っていますか?」という質問に対して、「損をするのが怖い」「賭け事のようなイメージ」「お金持ちがやるもの」「難しそうで近寄りにくい」などの声が寄せられていました。

ここ2年程、個人向けにセミナーなどをさせていただく機会が増えているのですが、特に初心者向けセミナーの参加者さんから寄せられる声としてはこういったものが典型的で、多くの日本人が投資に対してネガティブな感情を抱いていると感じます。

先の所謂「年金2000万円問題」で、その数字ばかりが取り上げられ、報告書の中の長期で資産形成に取り組むことの重要性を訴えた部分がほとんど論じられなかったのも、このようなイメージが邪魔をしたのかもしれません。

投資に全く触れていない人からすると、投資はまるでギャンブルのような危険で怖いもので、ともすれば額に汗をかかず利殖することはさも卑しい行為のように感じられるようです。

一方で、まれに「投資をやっている」という人に出会うと、かなりの割合でその「投資」は、株であれFXや仮想通貨であれ、短期的な利ザヤ獲得を目指したトレーディングを指します。
「勝った」一部の人はいい思いもしているのでしょうが、取引の性質上少なくとも半数以上を占める「負けた」人にとっては、「投資」はいい思い出になっていません。

なぜこのようなある意味両極端の状況にあるのか、恐らく歴史的、民族的に複層的な背景があり、解きほぐすのは一筋縄ではいきません。
しかし、とりわけバブル期以降の世代に強い傾向として、「複利」の概念が腹落ちしていないという点が指摘できると思います。

一般的に利息は元金とそこまでの利子の合計にかかります(複利)。この「複利」のもとでは、資産は(負債も)時間の経過とともに雪だるま式に膨らんでいきます。

これが自分ごととして理解できていれば、若いうちから貯蓄に励むことで時間を味方にし、将来の支出に備えることは自然な選択です。しかし、数十年に渡り超低金利が続く日本において、貯金のみで複利の力を実感することはできません。

そして、バフェットが指摘するように「誰もゆっくり金持ちになろうとはしない」ので、一部の人の成功体験に憧れハイリスクな取引を始めてしまうのも無理からぬことかもしれません。
数十年後の老後に備えるのであれば、年利数%を積み重ねることで大きな資産の積み上げが期待できるにも関わらず、です。

金融庁報告書が示すように、長期の積立投資で老後に備えた資産形成をしようと思えば、どこかで複利の力に気付き、信じるしかないのでしょう。それを適切にサポートすることは我々金融機関の使命でもあります。

一方で、私個人としては、将来、社会に出て、お金と向き合うことになる3人の子供たちに、なるべくスマートにお金と付き合ってほしいという思いがあります。彼女たちにどう「お金」の話を伝えていくかは、これから十数年に渡る、父親としての重要課題です。


では、どうやって子供たちと複利との出会いを演出すればいいのでしょうか?
まず私自身のケースを考えてみると、実は今の仕事に就く前に幼少期の原体験があります。

私はドラえもんの漫画が好きでよく親にねだっていました。45巻まで出ている単行本のうち20冊くらいが家にあったと思います。

この漫画の魅力が夢にあふれるひみつ道具にあるのはもちろんですが、ドラえもんが時折のび太に語る科学的な解説を通じて、宇宙の成り立ちや生物の進化の過程、昔の人々の生活などに思いを馳せていました。(その後の科学の進歩により、いま読めば「トンデモ理論」も多いかもしれませんが。)

その中でもひと際印象に残っているエピソード、それが「フエール銀行」です(*1)。

この銀行にお金を預けると、なんと1時間で10%(!)の利息がつきます。
お年玉を使い果たし全財産が10円になってしまったのび太に対し、ドラえもんはフエール銀行の利用を勧めます。のび太は「10%って、たった1円じゃないか」と不満を言います。ドラえもんは「チリも積もれば山になる。8時間で2倍、一週間預けると9千万円(!)になるんだよ」と諭します。

当時の私は「複利」という言葉を知る由もありませんでしたし、この計算を確かめたわけではありません(*2)。これをもって「複利を実感した」とは言えません。

しかし、10円が9千万円になるという衝撃は幼心を離さず、今回執筆にあたっても(記憶ベースなので細部に違いはあるかもしれませんが)その数字を容易に思い出すことができたほどです。

この原体験があるからこそ、後に積立投資と出会ったときに、「長期期待リターン6~7%って、たった〇万円じゃないか」とならずに、30年後の資産の積み上がりをイメージできたのだと思います。

子供たちにドラえもんを買い与えるのは簡単なのですが、もう少し手触り感を持って複利を感じてもらう仕掛けができないかと考え中です。

一案として、お小遣いをストック(貯蓄額)に連動する形にするのはどうでしょう。

子供たちがもう少し大きくなり、お金で何ができるかをある程度理解したところで(10歳くらい?)、少しまとまった金額を渡します(例えば5万円)。その翌月からのお小遣いは、前月末の貯蓄額×〇%(例えば2%)とします。

貯蓄に励めば初月は1,000円、翌月は1,020円・・・とお小遣い額は増えていき3年で倍の2,000円になりますが、誘惑に負けて大きく、例えば半分使ってしまうと、再び1,000円のお小遣いをもらうためには3年貯蓄に励まなければいけません。これで時間の価値をイメージしてもらうことができないでしょうか。(偶然ですが3年・2%は「72の法則」とも相性がいいですね)

もちろんこれだけでは投資教育としては不十分ですね。
フエール銀行の1時間で10%という数字は貨幣経済を崩壊させかねない途方もない数字ですし、現代においては1年で10%でも、詐欺を疑った方がいいでしょう。

ちなみにフエール銀行のオチは、同行から借金したのび太(借りる場合は1時間で20%!)が、取り立てによって(文字通り)身ぐるみ剥がされるというものです。

複利と合わせて、リスク・リターンの概念やお金の怖さの部分も、未来への希望とともに“正しく”伝えていかなければなりません。それはまた別の機会に考えてみたいと思います。


さて、年末の我が家では5歳の長女がいつの間にか足し算を覚え、一人で特訓しています。

「5たす5は10、6たす6は12、7たす7は・・・15!」

私がお金教育カリキュラムを考えるには、もう少し時間的猶予がありそうです。

*1「ドラえもん(30)」(てんとう虫コミックス)に収載
*2今回、二十数年越しに検算したところ、10円×1.1の24×7乗で確かに8,994万円になります。

(担当:岡島)