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『京大生vs佐渡島庸平』 【株式会社コルク代表取締役 佐渡島庸平氏 京都大学寄附講義から】

変化を感じる、自分を知る、挑戦するためには体感するしかない

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質問① TikTokというアプリ

中国出身のものです。去年くらいからでしたか、短い動画が制作できるアプリが日本市場に入ってきているようです。TikTokというアプリですが、それが注目を集めていると聞いています。そこの動きについてお聞きしたいのです。

【佐渡島氏】
TikTokを観ている人、いますか?

わずかですがいらっしゃいますね。僕が知っている世間の20代の流行と、この講義に出席している人たちの流行にかなり差がありますね。

TikTok自体は、日本でもかなり注目されている存在です。そこにアップされているのは15秒とか60秒といった短尺の動画です。

短くても基本的に動画のほうが文字で伝えるものよりも、情報量は多いわけです。

Twitterが流行ったあとにInstagramが注目されて、スナチャや他の画像共有アプリの影響でストーリーズのような動画が流行りましたね。
テキスト情報が便利になった後に、動画情報へと移行していく流れは、全てのことに起きています。

コミュニケーションツールとして広く活用されるようになったSlackというアプリは、いろいろなものを貼り付けられますが、基本的に文字ベースの情報交換ですよね。これはTwitterが流行ったのと同じ理屈です。

例えば飲食店で看板を書かないといけないという状況で、その看板をアルバイトが毎日書くことになっている場合を想像してみてください。

アルバイトは「看板って、どういうふうに書けばいいの? その看板はどこに置けばいいの?」と疑問に思うわけです。

それを説明するために文字情報だけで伝え、アルバイト同士が共有しようとすると、かなり大変なことです。

だから、必ず看板を書いたら、この位置から写真を撮って、それをその掲示板にアップする、と決めておくのです。すると、自分が書いた看板を定位置から撮影して、アップしてみると、文字が小さすぎて見えないといった不具合にも気づく可能性が出てくるわけです。

このように作業の効率化や情報共有をするためには、基本的には文字情報じゃなくて、写真と動画を使ったほうが都合の良いことが多いのです。さらに仕事の情報管理もSlackの動画版みたいなものを活用すると、簡単になるだろうと予想されます。

文字情報から情報量の多い動画情報へと変わっていくという動きが、全ジャンルで起きています。そしてさらに短い情報へと変化しています。

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これはおそらく社会全体の流れで、中国にかぎらずそういった動きは現れていますね。最終的に日本でもTikTokの活用は大きくなっていくだろうと思っています。

重要なのが、今、社会がどのように変化しているのかを把握しておくことです。

皆さんが時間と体力を使って、コツコツと勉強をして身につけたことを、機械が簡単にサポートしてくれる時代へと変化してきている。

例えば、語学学習で考えてみましょう。
第二外国語の習得となると根気も勉強時間も必要ですよね。
すごく効率が悪いわけです。

でも勉強の仕方をAIがサポートしてくれて、適切な問題が、どんどん出題されるような環境があると、効率的で効果的な勉強が行えるので勉強時間も短縮できます。

ストレスも少なくなる可能性がある。AIのサポートによって環境が改善され、学習者が効率的に力をつけていけるようになるのです。

Instagramが流行ったのはなぜかというと、プロのカメラマンが行うような画像加工ができるサポートが発達したからなんです。

TikTokが何なのかというと、ミュージックビデオの民主化です。ちょっとしたミュージックビデオみたいなものを簡単に作れるようなサポートがアプリに入っているので、爆発的に人気が出たのです。

今、漫画を作る人が増えないのはなぜかというと、漫画を書くためのサポート機能が全然ないからだと考えられます。

でもGoogleの絵を描くサポート機能(AutoDraw)などを使えば、適当に描いた馬の絵がみごとな馬の絵に修正されたり、上手いと言えない程度の犬の絵も犬に見える絵に直してくれたり、自動で絵を補正して、かっこいい絵にしてくれるアプリは存在しています。

さらに進んで、物語を書いたら、漫画のコマ割りを自動的にしてくれて、構図を入れてくれるようなツールができると、誰もが漫画を描けるようになって、漫画が今とは違った形、存在になる可能性もあるわけです。

今後どんどん、いろんなものがAIなどの進化によってサポートされていくでしょう。そして使いやすくなっていきます。使いやすくなって多くの人が使うことによって、変化が起こってくると考えられています。

先ほどのVRとかAR、さらにIoTの話で言うと、例えばゴルフをするときに、ちょっとした機能、例えば電気刺激の出るような服とか薄いタイツみたいなものを着ておくと、プロゴルファーのスイングのスタイルがサポートされるように電気刺激が流れて、それで何度か練習していると自分のフォームが自然と改善されて、早くうまくなる。

そういったサポートプログラムが、おそらく10年20年すると可能になるだろうと。人工知能やさまざまなものによってアシストされる時代が来るんじゃないかな、と、思っています。

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質問② 好きな自分、嫌な自分

新しい好きな自分を見つけて、その分人の占める割合を拡大するとおっしゃっていました。しかし、新しいことをやってみたけれど、嫌な自分が見つかるかもしれないという恐怖を、佐渡島さんは、どういうふうにマネジメントされているんでしょうか。

【佐渡島氏】
分人主義は、新しいことをやったほうがいいっていうよりも、自分の心地いい分人を見つけて、それの構成比率を増やしたほうがいいということなのです。

新しいことをどんどん体験して、それを経験して知ったほうがいいというのは、これからの時代を生きていくうえで、新しいことをいち早く体感ほうがいいよという話です。

新しいことを経験して、それを嫌だと感じたとしたら、もうそれは、やめればいいだけですね。本当にサクッとやめる。どんどんやって、嫌だったらやめる。で、自分のいいものだけを残していく。

頭の中で先に嫌だと思い込んでいても、実際やってみると嫌じゃないことって、たくさんあります。若いときには、自分で自分を知っていると勘違いしてしまいがちです。

だから皆さん、自分で選択的に自分の人生を選んでこうとしてしまうわけです。
そのほうが納得できるかもしれませんが、僕は20代は自分で選択しないで流されてみても良いのではと思っています。

やれと言われたことを、ただただ、がむしゃらにやってみる。
その中で、自分ができることと好きなことが何なのかを明快にしていくことのほうが、自分についての理解が深まる可能性があると思いますね。

僕も、自分の自己理解が深まったと思ったのは、30代に入ってからでした。
40は不惑、惑わない年齢になるといわれますが、40歳くらいになって、やっと自己理解がそれなりのところまで行くからなのではないか、と思います。そこから本当に自分を理解して、何か挑戦ができるのではないか、と思っています。

20代は、納得しなくても命令されたらやってみるぐらいの行動力が必要です。流される力が強いほうが、最終的には成功するんじゃないかと思います。

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質問③ 起業の壁

事業を起こすことについてお聞きします。コルクを設立し、起業するにあたって最も障壁となったことはなんですか。金銭なのか、人材なのか、法律的なことなのか。その障壁となったことを、いかに解決されたのかをお聞きしたいです。

【佐渡島氏】
今の時代、1円の資本金からでも起業できるんですよ。
もちろん、会社設立の事務手続きのために10万円ぐらいはかかります。起業するのに、お金は全く関係ない時代なので金銭的な障壁はさほど感じませんでした。

そして、どんな事業をするかも、あとから考えてもいいんです。
ちょっと挑戦してみようかなと思うんだったら、今日の講義の後で会社を設立するために法務局で登録することも不可能ではありません。

むしろ、障壁といえば怖がる自分の気持ちとか、プライドとか、そっちのほうが問題だと思います。

僕は講談社に勤めていたわけですけど、講談社を信頼するのか、佐渡島庸平を信頼するのかといったときに、世間は講談社を信頼するわけですよ。
そして、僕しか信じてあげる人がいない佐渡島庸平よりも、講談社を信頼したい自分がいるんですよ。

公務員になるというのはどういうことかというと、国を自分よりも信頼するって行為ですよね。だから自分を信頼してないことに、まずは気づくんですよね。いろんな自分の意思決定が自分で信頼できていない。

皆さんが京都大学に入ったのは、独学で、自分で勉強するよりも京都大学に入っているほうがいいなと思ったから。自分が独学で勉強することよりも、京都大学で学ばせてもらえる状態を信頼したということですからね。僕が東京大学に入学したのも、そういうことです。

言い換えれば、自分を信頼して、自分で自分に賭ける。それがすごく難しい。それができれば成功するし、それをやらないと失敗するというだけかなと思います。

会社を作るなんてことは、もう誰でもできるとても簡単なことなんです。
今すぐやってみて、会社なんて簡単にできるんだな、問題は会社じゃないな、と実感してみるといいですね。

起業する前に僕のメンターに相談に行った時の話です。
起業したら、今よりも給料が下がると思うんですけど、給料って、どういうふうにして決めるんですかって聞いたんです。

すると、「お前は給料が欲しいのか?」と言われました。
「お前、何を言っているんだ」と。

「自分が給料の大小に関わらず一生働きたくなる、そして世間の人もお金とは関係なく一生助けたくなる、そういうふうな事業を、お前は思いつけないのか」って言われたんです。

そう言われて、気がつきました。僕は作家にエージェントがあればいいなと考えていて、すごく小さな話を考えていると自分で感じていたんですね。こんな小さな話には、業界の人は協力してくれないだろうと思っていました。

それでクリエイターのためのインターネット革命を起こす会社になろうと。
それでブログに初めの日に会社の方針を発表したんです。

僕は、いろんなことをやろうとするから反感も買うだろうと思っていました。ですから、僕に協力してくれる人がいれば、ぜひ助けてほしいです、と最後の1文に書いたのです。

すると多くの人から手伝います、という声が届いて、それが広がって、社会人も学生も、インターンで沢山集まってくれました。
たった3人で始めた会社で全く資金もありませんでしたけれど、軌道に乗るのは早かったですね。

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