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NVICアナリストのつぶやき第13回 「アップル・トゥ・アップルとパウンド・フォー・パウンド」

皆さん、こんにちは。NVIC note編集チームです。

今回は、チームきっての体育会系アナリスト友野による、「働き方改革」シリーズ第三弾です。

過去の記事と合わせて、お楽しみください。

働き方改革についてその3 
~アップル・トゥ・アップルとパウンド・フォー・パウンドという概念~

必死で準備して臨んだ社内の企業分析共有ミーティングでのひとコマ。

「それってアップル・トゥ・アップルじゃないよね。」

一言言い放たれて、アッ!と気付き、返す言葉もなく、ただ俯きグッと奥歯を噛みしめる・・・。

仕事、プライベートにかかわらず、何か比較をして判断を下す場合には、比較するもの同士が適切かどうか常によく確認しなければなりません。

たとえば企業Aと企業Bの優劣を比較するとき、Aが買収を繰り返すような会社で、Bが買収をしない会社であれば、Aの買収による売上増の部分を除いたうえで売上の伸びを比較しなければなりません。また、AとBが同じもの、たとえば半導体を扱っていたとしてもAが卸売業寄りでBが製造業寄りといった状況であれば、そもそも比較すること自体が不適切であるといった具合に、落とし穴はたくさんあります。

実際のところ、持って生まれた才能や性格、会社の沿革、展開している事業の構成、など人も会社もひとつとして同じではない中、比較するのが適当かどうかの判断の境界線は常に微妙だと思います。

話変わって、ボクシングの世界。下表のように体重で細かく17個の階級に分かれており、階級ごとにチャンピオンがいます。その階級にとどまり、防衛を続ければ、体重の異なる相手に勝たなくとも、チャンピオンとして君臨することができます。

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また、体重の超過には大きなペナルティが発生します。昨年、注目カードで、1ポンド(約0.45kg)の体重超過が発生、両者が合意に至らず、試合が中止となり大きな話題となりました。中止による興行面のダメージは甚大ですが、体重超過を容認しなかったほうよりも、体重超過を犯したほうが断然非難され、ランキングからの除外などの処分が下りました。

この細やかな階級制度は、もって生まれた体格によって有利・不利が生じないように、そして、ボクシングの技術および身体能力によってのみ勝敗が決せられるべきという思想が根底にあり、肉体の機能を極限まで追求する極めて繊細なスポーツであることを示していると思います。

一面では同じボクサー(アップル)でありながら、またある一面では、最もレンジの狭いライト・フライ級、スーパー・フライ級、バンタム級ではそのたった1.36kgの間からはみ出るアップルはアップルではないという厳しさがあります。

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一方、ボクシングの世界にはパウンド・フォー・パウンドという概念があります。

「体重差がないと仮定したときに誰が一番強いのか?」

最も権威のあるボクシング情報誌「The Ring」が、記者の投票を集計しているランキングで、階級入り乱れて、すべてのボクサーの中での順位が付いています。

「誰が一番強いのか?」という人々の好奇心に対して、答えはヘビー級のチャンピオンと簡単に片付けることなく、想像力を働かせているのが面白いところです。

記者の頭の中で起こっていることは、身長190cm・体重95kgのヘビー級チャンピオンAの体と、身長160cm・体重55kgのスーパー・バンタム級チャンピオンBの肉体が、おなじ180cm・75kgぐらいになった姿を思い浮かべ、それぞれのパワー、スピード、テクニークなどがどのように変化して組み合わさるのか、きっとワクワクしながら想像して、戦わせているのだと思います。

このような想像力・好奇心は、たとえば以下のような直接的な比較が難しい問題で判断に迫られたとき、考える勇気と答えの糸口を与えてくれるのではないかと思います。

「新興企業のAは資本力には乏しいものの優れた経営者がいて、優れた事業モデルを構築することができ、トップダウンで迅速に意思決定を行うことができる。大企業のBは、図抜けた人材は乏しいものの、豊富な資金力で積極投資が可能で、これまでに培った顧客基盤の活用も期待される。新しい事業領域Xで勝利するのはAとBのどちらか?」
「内燃機関ではなく電動へ、そして完全自動運転が実現したとき、自動車業界の主導権を握っているのは、旧来の自動車会社か、GAFAか、電機メーカーか、それともそのどれでもないのか?」

仕事の中で正しい判断をするためには、アップル・トゥ・アップル的に、事実をベースに正しい比較をするという姿勢と、パウンド・フォー・パウンド的に想像力を羽ばたかせる姿勢の両方をもって、分析や予測をするべきなのだと思います。

また、「百戦錬磨の大ベテラン営業マンAさん、大学院で学びIT分野に明るいBさん、経理・財務一筋の職人Cさんが、人類の叡智をめぐって本気で戦ったらだれが一番強いのか?」とそれぞれの長所をリスペクトしながら想像して人の配置を考えてみたり、あるいは「自分こそがこの会社でパウンド・フォー・パウンドの頂点に立つ」と気概をもって仕事に臨んでいれば、その組織には自ずと最高のパフォーマンスが生まれるのではないかと思います。

押忍!

(担当:友野)